スピードで打ち抜くための卓球台の弾みに悩みラケットはZLCへ

インターハイで優勝した時、バック面は『タキファイアC』だった。その後、両面とも『ブライススピードFX』に変更したが、北京五輪の時にだけバック面を『タキファイアC』に戻している。この時期は国内ではスピードグルーが禁止だが、海外ではまだ禁止前。スピードグルーを塗った『タキファイアC』は水谷のバックにマッチした。
「中国選手の粘着性ラバーが脅威だったので、自分も使ってみたいと思ったんです。唯一、バタフライのラバーで近かったのが『タキファイアC』で、張怡寧(中国/五輪女王)も使っていた。フォアで使ってみたら全然飛ばなくて威力が出なかったけど、バックなら回転がかかるし、自分に合っていました。
北京五輪のあとにスピードグルーが禁止になってからは使えなくなった。グルーがないと全く違うラバーになってしまった」

ノングルーになり、両面とも『テナジー64』で戦う時代が長く続く。『テナジー05』を試すことがあったが、スピードに不満を持ち、『テナジー64』に戻る。全日本選手権で5連覇した時のインタビューでは用具にについてこう語っている。
「ぼくはとにかく弾みがほしい。ラケット、ラバーともに打球感が良くて弾む用具を選んでいます。その中でコントロールできるものが最高です。回転力よりも弾みとコントロールを優先しています。
ラバーは『05』より『64』が良い。ぼくは後陣からでもカウンターを狙うスタイル。リスクをおかしてカウンターをしても決定打にならないと意味がない。打つだけ損になる。だからスピード重視の『64』を選んでいます」

オールラウンドな負けないプレーならば、この用具で問題ない。しかし、ボールがプラスチックになり、さらなる弾みを求めた結果、新素材SUPER ZLCを搭載したモデルを使うことになる。
「球離れが早くて威力がすごく出る。卓球は同じフォームだったら威力が出たほうが絶対に良いです。SUPER ZLCならば小さいフォームでも十分な威力を出すことができる」
水谷の打球はさらにスピードを上げた。弾むラケットにスピード重視のラバー。一般人にはコントロールが難しい組み合わせだが、それを使いこなしていく。
しかし、繊細な王者はラケット、ラバー、ボール以外にも気を配るものがあった。それは卓球台だ。メーカーや台の脚の構造によってボールが止まったり、滑ったり、台の性能が変わっていく。だからこそ台に合った用具を選ぶ必要が出てくる。

「卓球台が大会ごとに変わる。それはボールが変わることよりも大変なんです。最近の卓球台は弾むものが増えているので、それならば弾まない用具のほうがコントロールができるので有利です。だから最近はつかむラバーやラケットの人気が出てきている。弾む卓球台だとSUPER ZLCは弾みすぎてしまう。そのため『水谷隼ZLC』に戻しました。全体的に見た時に『水谷隼ZLC』ならばどの台でも対応できる」
世界ランキング5位で迎えた15年世界選手権蘇州大会。メダルは射程圏内だったが、水谷は準々決勝で張継科(中国)に敗退。その時、用具に限界を感じてしまった。
「もっと前で勝負できないと勝てない。これからの卓球は前中陣でのカウンターをしていかないといけない。自分から積極的に攻めていって、一つひとつのボールの質を高くしていかないと」
蘇州大会後、水谷は7年間使い続けた『テナジー64』に見切りをつけて、『テナジー80』に挑戦する。リオ五輪まで1年。この決断がメダルを取る布石となった。

18歳 全日本選手権2連覇

  • ラケット

    水谷隼
    水谷隼
  • フォア面

    ブライス スピードFX
    ブライス スピードFX
  • バック面

    ブライス スピードFX
    ブライス スピードFX

19歳 北京五輪出場

  • ラケット

    水谷隼
    水谷隼
  • フォア面

    ブライス スピードFX
    ブライス スピードFX
  • バック面

    タキファイアC
    タキファイアC

19~21歳 全日本選手権5連覇

  • ラケット

    水谷隼
    水谷隼
  • フォア面

    テナジー64
    テナジー64
  • バック面

    テナジー64
    テナジー64

22~24歳 全日本選手権6度優勝

  • ラケット

    水谷隼 SUPER ZLC
    水谷隼 SUPER ZLC
  • フォア面

    テナジー64
    テナジー64
  • バック面

    テナジー64
    テナジー64

25歳 全日本選手権7度優勝

  • ラケット

    水谷隼 ZLC
    水谷隼 ZLC
  • フォア面

    テナジー64
    テナジー64
  • バック面

    テナジー64
    テナジー64

覚悟を決めて『80』に変更。使い込んで自分のものにする。用具は自分の進化への舵である

リオ五輪での水谷は前・中・後陣のどこでプレーをしても隙がなかった。今まで見たことがないほど充実したプレーで、個人戦の準決勝まで勝ち上がり、馬龍(中国)と壮絶な打ち合いを演出した。3位決定戦ではサムソノフ(ベラルーシ)を打ち破り、日本卓球史上初の個人戦のメダルを獲得。そして団体戦に入っても全勝でチームを引っ張り、銀メダル獲得の柱となる。決勝ではこれまで0勝12敗だった天敵の許昕(中国)に歴史的勝利を挙げた。
「正直、この1年でここまで結果が出るとは思いませんでした。用具を変えるのは不安があります。変えてすぐは結果が出ないので、周りから弱くなったとか聞くと戻そうかなと思ってしまいます。これを使わないと勝てないと思ったからこそ、慣れていくしかないという覚悟を決めて『テナジー80』にしました。
今まではブロックが多く、カウンターができなかった。『80』は質が高くて難しいボールでもカウンターで狙っていける。『80』に変えていなければ、あの勝利は絶対になかったと思います。個人のメダルも、団体決勝で許昕に勝ったのも用具を変えて、攻撃的なスタイルに挑戦したからです」

自分のプレーに合った用具を選ぶことは誰にでもできるが、水谷は用具により自分のプレーを進化させた。用具でプレーをアグレッシブな方向へと舵を切ったのだ。
たかが用具、されど用具。その重要性を知っている者だけが本当に信頼でき、自分を高めてくれる用具にたどり着く。技術力が上がれば使う用具も変わっていく。

26~27歳 全日本選手権8度優勝 リオ五輪団体銀・個人銅メダル

  • ラケット

    水谷隼 ZLC
    水谷隼 ZLC
  • フォア面

    テナジー80
    テナジー80
  • バック面

    テナジー80
    テナジー80


リオ五輪の団体決勝で歴史的な1勝を挙げた水谷。「用具を変えなければ、勝てなかった」と断言した

【卓球王国 2017年2月号別冊水谷隼掲載】
文=卓球王国