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T.T彩たま契約交渉の舞台裏。選手の不安を受け止めた坂本竜介


坂本竜介さん

 T.T彩たま吉村真晴、岸川聖也の日本選手に加え、鄭榮植(韓国)、黄鎮廷(香港)、アポロニア(ポルトガル)を獲得したことは既報の通りだが、今回は、T.T彩たまの坂本竜介さんから聞いた、契約交渉の話を紹介しよう。

 坂本さんは18歳の時(高校時代)にドイツに渡り、ブンデスリーガに参戦しながら、練習に励んだ。そして、全日本では混合ダブルスで2度のタイトルを獲り(パートナーは福原愛さん)、世界卓球には日本代表として3度出場した。現役引退後はupty卓球ステーションを立ち上げ経営しながら、全国各地での講習会、TVでの解説、出演など精力的に取り組んでいる。ショッピングモールでの卓球イベントという斬新な試みも成功させた。
 そんな坂本さんは、T.T彩たまの執行役員監督に就任した。執行役員監督とは、監督としての役割にとどまらず、執行役員としてチームの運営に参画することを意味する。坂本さんは執行役員として選手の選定に関与し、実際に契約交渉にも当たった。
 坂本さんは言う。
「木下グループの1強という図式は面白くないので、水谷、張本に勝つ外国選手が必要だと考えました。そこで、鄭榮植、黄鎮廷は必ず獲るべきと思い、直接交渉して、熱意で口説き落とすことができました」

 選手交渉は簡単なものではないはずだ。世界にはドイツ・ブンデスリーガ、中国超級リーグをはじめ多くのプロリーグがあり、ワールドツアーなど国際卓球連盟の主催する大会(世界ランキングに関わる大会)など、試合の数は枚挙に暇がない。その中で、外国選手がTリーグ参戦を決断したのは、なぜなのか。坂本さんは、どんな言葉で選手を口説いたのだろうか。

 坂本さんによると、海外の選手が日本でプレーするにあたり、特に不安に感じることは3つあるという。それは「食べもの」「言葉」「練習」だ。また、選手によっては「さびしさ」も大きなストレス要因になるという。坂本さんは、そうした選手の不安を、真っ正面から受け止めた。
「T.T彩たまはチームとして活動していきます。一緒に練習して、一緒にごはんも食べて、チームとして活動する。それがT.T彩たまの方針です。
 自分もドイツでプレーした経験から、選手が感じる不安は身をもって知っています。だからこそ、自分の選手としての体験、不安だったという内面を正直に伝え、その上で、T.T彩たまはチームとして活動するのだと伝えました」
 坂本さんはさらに続ける。
SSCあすもという良いクラブハウスがあることは、T.T彩たまの強みです。選手が練習する場所、トレーニングするジム、食べる場所などがそろっており、立地としても行き来しやすい。選手が練習に専念できる環境があります。
 選手が求めるものは、収入ではなく、メダルです。そして、そのための練習環境です。うちに来たら良い練習ができる、うちに来たら強くなる、と口説きました」

 坂本さんの話を聞いていると、とてもシンプルだと思った。駆け引きをするのではなく、自分が提供できるのはこれだと包み隠さず明かして、そして、どうしてもあなたに来てほしいと口説く。
 坂本さんが直接交渉した黄鎮廷は、交渉時、坂本さんと初対面だったが、たった1時間半で契約に同意したという。そして黄鎮廷はこう述べた。
「T.T彩たまに入団したことで自分の実力、成績が上がると信じています」

 坂本さんは自身の仕事観についてこう語る。
「仕事を選ぶ基準は、自分にしかできない仕事なのか、それとも、誰かに代わってもらえる仕事なのか、ということです。今回、新たに始まるTリーグに、今の選手たちの兄貴分として携わることは重要だと思いました」
 そして、自分の選手時代の経験を生かし、選手が真に求めるものに応えることで、契約交渉をまとめた。その根っこには、選手へのリスペクト、卓球への愛が満ちているのだと思う。
 坂本執行役員監督が率いるT.T彩たまが鄭榮植、黄鎮廷、アポロニアという3人の強力な外国選手を獲得したことで、俄然、Tリーグは面白くなりそうだ。

文=川合綾子


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