大会5日目を迎えた平成29年度全日本選手権大会(一般・ジュニアの部)。男女シングルス5~6回戦と男女ダブルス5回戦~準々決勝が行われた。ベスト8が決定した男女シングルスについて、平成11年度全日本チャンピオンの渋谷浩が大会を振り返った。
<男子シングルス>
水谷隼(木下グループ)はV10に向けてベスト8入りを果たしました。6回戦では田添健汰(専修大)を相手に、怒涛の攻撃をしていたという印象です。台上から先手を取って攻めまくるというプレーでした。田添は爆発力がある選手なので、相手を乗せてはいけないということですかさず攻めていました。台上から、短く、低く、チキータもさせずという厳しいプレーからスタートしていました。田添は高木和卓(東京アート)、笠原弘光(協和発酵キリン)とベテランを連破して勝ち上がってきましたが、パワーがあってリーチも長いので打ち合いで強さが光りました。辛抱強さも増してきている印象です。
神拓也(シチズン時計)は戸上隼輔(野田学園高)と藤村友也(住友金属物流)に勝って8強入りを決めました。神はおなじみのガッツあふれるプレーを見せてくれました。戸上戦ではとにかくコース取りが厳しかったですね。回り込んで素早いタイミングで戸上のバック側をつぶす厳しいプレーが光りました。
松平賢二(協和発酵キリン)はいい仕上がりで調子も良さそうです。プレースタイルに大きな変化はありませんが、中後陣から打ち返すバックハンドがよく入っていて、盛り返す場面が何度もありました。動きもよく、昨年敗れた龍崎東寅(明治大)にリベンジを果たしました。
松平健太(木下グループ)は5回戦でカット主戦型の御内健太郎(シチズン時計)と対戦しました。松平はカット攻略において、いくつもの得点パターンを持っているので、相手からしてみたらやりにくいと思います。フォアに浅く落として、バック深くを攻める、あるいは、攻撃をされてもカウンターしたりと、老かいな戦術でカットに対しての強さを見せました。6回戦で対戦した田添響(専修大)は今大会当たっていますが、松平はその田添のプレーにつきあわずに、ブロック一つ取ってもコース取りや高さなど丁寧に自分のプレーをしてゲームを支配しました。
森薗政崇(明治大)は坪井勇磨(筑波大)と岸川聖也(ファースト)にストレート勝ちで6回戦を突破しました。森薗はここまで全種目で頑張っていますね。動きがよく、ガッツもあり、疲れは見えません。全種目で活躍するというのは、疲労が溜まるだけでなく種目間での気持ちの切り替えも難しいので、大変なことです。岸川は苦手の吉田海偉(東京アート)に勝って、軽部隆介(シチズン時計)にも競り勝ちました。軽部戦では台から下がらずに前陣両ハンドでミスの少ないプレーが光りました。
渡辺裕介(明治大)は、5回戦で同級生の丹羽孝希(スヴェンソン)を破った吉田雅己(協和発酵キリン)にマッチポイントを握られたところから逆転勝ちをしました。渡辺はバックハンドのうまい選手という印象でしたが、今大会ではフォアハンドの弧線を描く安定したドライブで相手のミスを誘うというプレーが要所で見られました。ドライブ対ドライブだと強いボールに対して打ち返す方が安定するのですが、スピードと決定力よりも安定を重視した渡辺のボールは目立っていました。
大島祐哉(木下グループ)は町飛鳥(シチズン時計)との接戦を制して勝ち上がってきているので精神的にタフになってきていると思います。その分、思い切ったプレーができているように見えました。吉村真晴(名古屋ダイハツ)にも勝負どころで強さを見せ、大学の後輩の上村慶哉(早稲田大)とのパワー勝負にも打ち勝ちました。上村はパワーがありながらも、バックハンドのライジングなど繊細なプレーもうまさも見せました。
張本智和(JOCエリートアカデミー)は今の実力から言えば順当な勝利でしょうか。一昨年ジュニア男子で敗れている緒方遼太郎(早稲田大)と吉村和弘(愛知工業大)を破った定松祐輔(中央大)を危なげなく退けました。
明日の準々決勝ですが、第1シードの水谷は神と対戦します。決勝でも対戦したことがある2人ですが、水谷は神に打たせていたら高い打球点の両ハンドで叩き込んでくるので、台上から厳しい攻めをしなくてはならないでしょう。
松平賢二と健太の兄弟対決は、賢二のスケールの大きいプレーと健太の繊細なプレーの対決になるでしょう。ここでは兄弟と言うことは意識することなく思い切って勝負してくれると思います。
森薗と渡辺は男子ダブルスのペアの対戦です。僕も経験がありますが、ダブルスのペアと対戦すると、遠慮してしまうというか、あまり相手に向かっていく気持ちにならずに、フラットな気持ちで戦いにくいことがあります。そこをクリアできるかどうかというのもポイントの一つです。
大島対張本は選考会でも対戦しました。スケールの大きさだけでは今の張本に勝つのは難しいでしょう。大島は動きがいいのでフィジカルの強さにばかり目が行きがちですが、バックハンドなどの技術もうまいので、いかにそこを生かして、早い打球点で攻められるかがポイントになると思います。
<女子シングルス>
平野美宇(JOCエリートアカデミー/大原)は芝田沙季戦(ミキハウス)で苦しみましたが、この試合は平野が前陣で高速プレーを見せ、それに対して芝田が台から距離を取って両ハンドで合わせるという展開でした。芝田は平野の高速卓球に対してチャンスを待ってフォアハンドで仕留めるというプレーでうまく対応していました。平野は芝田に下がって合わせられるため、とにかく連打しないと得点にならないので苦しかったと思います。最後は平野がリードで芝田が追いつくという流れでしたが、どちらに転んでもおかしくなったと思います。
松澤茉里奈(十六銀行)は長﨑美柚(JOCエリートアカデミー)、奥下茜里(日本大)、森薗美月(サンリツ)と、タイプの異なる選手を破って2年連続のベスト8入りを果たしました。松澤は全日本に照準をピタリと合わせてくる選手で非常に調整がうまいという印象があります。気持ちも充実しているように見えます。ここまでいずれの試合も集中力が高く、波に乗っていますね。
永尾尭子(アスモ)は塩見真希(四天王寺高)、大矢未早希(サンリツ)を破って初のベスト8入りとなりました。永尾は台から距離を取ってリーチを生かした両ハンド攻撃が特徴の選手です。男子選手のようなスケールの大きい卓球が魅力です。特徴のある選手なので明日の戦いぶりにも期待したいです。
佐藤瞳(ミキハウス)は6回戦で前田美優(日本生命)をシャットアウトしましたが、前田の粘るボールに対してきっちりと対応していました。佐藤の守備力の高さが光りました。一方の前田は、ドライブを打つときに長短をつけたり、曲げるボールを打ったりするという工夫があれば、佐藤に迫ることができたかもしれません。
伊藤美誠(スターツSC)は6回戦でカット主戦型の橋本帆乃香(四天王寺高)戦でカット打ちのうまさを見せました。伊藤はカーブドライブで相手のフォアサイドに打ってラリーを優位に進めたり、スマッシュをきっちりと決め切ることができる点が勝てた要因といえるでしょう。カット主戦型からすると。カーブドライブでボールをフォアサイドに曲げられると、距離が遠いため非常にとりづらいので、対応が難しくなります。また、伊藤は突然早いタイミングで強打したり、短いボールを送ったり、変化に富んだプレーをしていました。スピードやタイミング、コースを散らして橋本をうまく攻略しました。
カット主戦型の石垣優香(日本生命)はランク決定戦で安藤みなみ(専修大)をフルゲームの末に破りましたが、この試合は持久戦だったといえます。心技体の我慢比べの試合でした。その中で、石垣は要所でうまく攻撃を織り交ぜていました。こういった攻撃を仕掛けるタイミングはベテランだからこそ成せる技ですね。経験値の高さが接戦で光りました。
森さくら(日本生命)は小道野結(アスモ)、土井みなみ(中国電力)と、日本リーガーを連破して勝ち進みました。初戦となる4回戦こそ、フルゲームにもつれましたが、小道野、土井戦はいずれもストレートで快勝しており、乗っているように見えます。全日本のファイナルを経験している実力者でもあるので明日のプレーにも注目です。
石川佳純(全農)は6回戦で早田ひな(日本生命)と対戦しましたが、スタートから集中力の高さが際立っていました。石川は自分が攻めたとしても早田が距離をとって攻め返してくることを予想して、強打を打たれても当たり前という心づもりで、攻められてもカウンターで攻めるなど、「後の先」のプレーで得点を重ねるシーンが目立ちました。攻められても攻め返す、そのようなプレーでしたね。こうしたプレーをするには非常に高い集中力を維持することが必要ですが、最後まで石川の集中力は研ぎすまされていたと思います。
一方の早田はラリーで防御態勢が十分でないため、石川に攻められたときに、守りきれずに失点するというケースが多かったです。
準々決勝では連覇を狙う平野が松澤と対戦します。平野と松澤は全日本で4年連続の対戦となりますが、2人の試合はいずれもラリーが続かず、台上での攻防が大きなカギを握ることになるでしょう。サービス・レシーブを含めて台上でのせめぎ合いで優位に立ったほうが試合を優位に進めることになるでしょう。
永尾対佐藤は、威力のあるドライブが持ち味の永尾が佐藤のカットを打ち破ることができるかどうかが大きなポイントになります。パワーのある永尾対守備力の佐藤という構図でラリーが展開されるでしょう。
伊藤対石垣は石垣がカット打ちのうまい伊藤にいかに厳しく攻撃をされないようにするか、そして、厳しく攻められたときにどう対応するかというところが勝敗を分けることになると思います。まともに戦うと、伊藤が厳しく攻め立てると思いますが、ベテランの石垣がどのように戦うのか注目したいですね。
4年前の全日本決勝と同じカードになった森対石川の一戦は、ラリー戦になることが予想されます。前陣でラリーを展開する石川と前陣~中陣で量ハンドを振る森の好ラリーが見られることを期待しています。
詳しい情報は日本卓球協会ホームページに掲載されています。
日本卓球協会:http:/www.jtta.or.jp
全日本卓球(特設サイト):http://www.japantabletennis.com/zennihon2018
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全日本選手権大会の特集は卓球レポート3月号(2月20日発売号)に掲載します。