劉詩雯対陳夢の初優勝を賭けた女子シングルス決勝は、劉詩雯が3度目の決勝で念願の初タイトルを勝ち取った。
女子シングルス決勝
劉詩雯(中国) -9,7,7,-7,0,9 陳夢(中国)
劉詩雯は3度目の決勝で本当に勝ちたかったのだと思います。2ゲーム目で勝ちを意識しすぎて「あれ?」と思ったところもありましたが、後半は戦術を変えてフォア側やミドル寄りからサービスを出し、その中でもアップ(上回転)サービスをうまく使っていました。
男子のレシーブの主流はチキータですが、女子もトップレベルではそれに追従してきています。この両者も鋭いチキータレシーブを持っているので、劉詩文は陳夢に「フォアハンドで甘いレシーブをさせて、そこを狙いにいく」という徹底した戦術を取っていました。
劉詩雯はサービスを陳夢のフォア前に出すことで、陳夢のチキータレシーブを封じました。陳夢はフォア側に回り込んで、チキータレシーブすることもできますが、劉詩文はバック側にロングサービスもあるので、陳夢はフォア前に来るサービスに対して、フォアハンドで処理をせざるを得ません。
無理してチキータを狙いにいくと、一発で抜けなければ、空いたバック側を突かれてしまいます。男子だとそれでもチキータでいくと思いますが、今の女子だとそこまで思い切ってチキータをしてくる選手はいません。そこで、サービスは徹底してフォア前に集め、勝負どころでバックやミドルにロングサービスという戦術を取っていたことが効果的でした。
また、劉詩雯がサービスを出す位置をミドル寄りに変えていたのにも戦術的な理由があります。バック側からフォア前にアップサービスを出すと、フォアクロスにフリックされた時にフォア側が遠い。でも、ミドルからフォア前にサービスを出すと、両サイドにフリックをされても対応ができます。
陳夢としてはバック側からフォア前にサービスを出されたら思い切ってフリックできますが、ミドル側からフォア前にサービスを出されると距離の短いストレートには強く打てない、クロスに打つと劉詩文に待たれている。つまり、どこにレシーブをしても対応されてしまいます。
そうなると、陳夢はレシーブを思い切って強く攻めるか、安全に入れてラリーで得点にするかの2択しかなくなります。フォア前にきたアップサービスをストップやツッツキでレシーブするのは難しいものです。劉詩文はちょっとでもレシーブが甘くなるだけで、両ハンドで得点できる技術があるのでそこを徹底していました。
劉詩雯のフォア前へのサービスは短すぎないハーフロングサービスで、ストップが難しく、ドライブが思い切りかけられるほどの長さではないので、陳夢はアグレッシブにレシーブできませんでした。
ほかには、劉詩雯がラリー中にバックハンドでフラットで叩くようなボールを入れていたことが目立ちました。以前の劉詩文のバックハンドは、速いボールで回転をかけてボールを伸ばすことが多かったが、今大会は高速ラリーの中でもボールに緩急や回転量の変化をつけてチャンスをつくっていました。
5ゲーム目はラブゲームでした。10-0になったらサービスミスやレシーブミスをして、相手に1点あげるという暗黙のマナーがありますが、劉詩雯はそれをしませんでした。丁寧戦でもラブゲームがありましたが、世界選手権大会という真剣勝負の場なので1点をあげることで、そのゲームを落としはしなくても、甘さを見せることで流れが変わってしまう。ちょっとでもすきを見せたくない、油断したくないという思いがあったと思います。
余談になりますが、今のようなラリーの高速化に拍車をかけたのが、2016年のワールドカップ(個人戦)で優勝した平野美宇だと私は考えています。それ以降、カウンター対カウンターのスピード化に特にアジアの選手たちは対応してきました。それに対応できていないのがヨーロッパです。パワーはあるけど、スピードについていけてない。
この決勝でも自分から下回転のボールを打つと、ボールが少し浮いてカウンターされるので、極力相手に打たせるような展開が目立ちました。下回転のボールを打つと体勢が若干崩れますし、それは今のラリーの速さの中ではミスや対応の遅れの原因にもなります。ですから、常に高いラケット位置でカウンターから始めるのが理想という卓球です。
このような潮流のさらに原点には、すべてのボールに対して前陣両ハンドドライブで攻撃するという劉詩雯の卓球があったと思います。彼女は(平野もそうですが)、上背がないので、彼女たちのベストのプレースタイルを突き詰めることで今のような卓球になってきたのでしょう。
一発の威力で比べたら、ヨーロッパや体格のいい選手の方に分があるので、打球点の早さ、ボールのスピードを追究していかないと勝ち目がない。そういう意味で、劉詩雯は自分の作り出したプレースタイルを極限まで高めてきたと言えると思います。
決勝を見ていて感じたのは、今の中国を上回るには、さらに打球点の早さを追究し、カウンターの精度と威力を上げていくか、変化をつけてタイミングを崩す技術を取り入れていくか、もしくは、まったく別の方向性を模索するのか。おそらくはその1つではなく、それらの連係が必要になってくるのでしょう。
簡単にこれという解決策は提案できませんが、劉詩雯対陳夢でも、クロスよりもストレートの方が得点力が高かったので、リスクは高くなりますが、ストレートを積極的に使うことを考えるとよいでしょう。たとえば、バック対バックからストレートに振られたボールは、相手はクロスで待っているので、ストレートにカウンターする、もしくは、打球点を少し落としてドライブするなどして相手を崩すことができれば、決定打にはならなくてもラリーを優位に展開できるでしょう。
また、ループドライブも相手に打たせてカウンターを狙うだけではなく、より深く低くコントロールすることでチャンスをつくることはできると思います。
これらは簡単な例ですが、要は速いラリーの中でも相手の待ちを外すこと、少しでも対応を遅らせることで、万全の体勢で打たせない工夫をすることが重要になってくると思います。
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なお、詳しい試合の結果は大会公式サイトでご確認ください。
ITTF(国際卓球連盟):https://www.ittf.com/tournament/5000/2019-world-championships/
2019 World Table Tennis Championships - Budapest:http://wttc2019.hu/