世界ジュニア卓球選手権タイ大会が、コラート(タイ)のターミナル21で11月24日~12月1日まで開催された。卓球レポートでは大会最終日、全種目終了後に田㔟邦史ジュニア男子監督に日本男子の個人戦の戦いぶりを振り返ってもらうと同時に、各選手の、またチームの抱える課題についても話していただいた。
混合ダブルス優勝はジュニア最後にふさわしいプレーだった(宇田幸矢)
宇田は、団体戦でエースの仕事ができなかったことについてすごくショックを受けていたと思いますが、そこからよくシングルスで気持ちを切り替えて、そこを乗り越えてよく個人種目頑張ってくれたなと思います。
ただ彼は、去年シングルス2位で、今年は優勝するんだという強い気持ちを持って個人戦に臨んだと思いますが、準々決勝の徐瑛彬(中国)戦については、少し戦術が単調になってしまったかなとは思います。
混合ダブルスについては完璧と言っていいくらいのプレーを見せてくれて、ジュニア最後にふさわしいプレーだったし、金メダルを取って終えたことについては本人も自信になるし、今後につながるんじゃないかと思います。
ただ、プレースタイルをもう少し安定させるなど、細かいところですが、とても大きな課題があって、そこを克服しないとシニアで活躍することは難しいと思います。ジュニアではいろいろなチャンスを与えてもらいましたが、シニアのナショナルチームはもっと狭き門なので、自分でチャンスをつかんでトップに立っていかなければいけません。そのためにはプレースタイルを見直しながらやっていく必要があるのではないかと思います。
シングルスの徐瑛彬戦では視野を広げたプレーができた(戸上隼輔)
戸上は、団体戦で2点を落としましたが、国内の大会で彼が2点落とすようなことはないと思います。この世界ジュニアは序盤からすごいショックを受けてスタートしたんじゃないでしょうか。彼に伝えたことは「自信をもってプレーしなさい」ということと「自分のプレーだけではなく、相手を見ること。相手が何を考えているかも考えながら個人戦は試合をしなさい」ということです。シングルスで徐瑛彬と戦った試合については、団体戦とはまったく違った戦い方で、少し視野を広げたような内容だったし、3対3の5−9という崩れそうな場面で踏ん張ってくれて、苦しいメンタルの中で頑張ってくれたと思います。4人の中でも一番苦しい10日間だったんじゃないかと思います。高校3年生で最後の世界ジュニアですし、最後だから活躍したいのに活躍できなかったという思いもあったでしょう。でも彼なりに成長してくれたんじゃないかと思います。
今後は、技術的な部分もありますが、卓球に関する「理解」の能力を高めることが大事だなと思います。その能力さえ高めれば、技術的にはいいものを持っていると思うので、より成長していけるんじゃないかと思います。
宇田と戸上の2人はこれでジュニアを卒業しますが、2024、2028のオリンピックで智和(張本)と一緒に活躍できるような選手に育っていってほしいと願っています。
団体戦の重要な場面であれだけのプレーができることは評価(曽根翔)
曽根については団体戦ですごい戦い方をしてくれて、1対1で回ってきた3番の重要な場面であれだけのプレーができることは評価できると思います。ただ、団体戦と個人戦は少し戦い方が違って、シングルスでは自分でいろいろな準備をして、いろいろ考えなければいけない。仲間が後ろにいるわけではないので、自分で自分を鼓舞していかなければいけない。
彼は去年も予選落ちしていて、今年は絶対に予選を通過するんだという気持ちを強く持って練習に取り組んでいましたが、そこを突破できなかったということで、まだまだ課題が多く残っていると感じました。ただ、ジュニアでプレーできる期間があと1年残っているので、この経験を生かして、来年はキャプテンとしてJNTを引っ張っていけるような存在になってほしいと思います。
気力や迫力を前に出してプレーすることが課題(篠塚大登)
篠塚は初出場で、いろいろなことを彼なりに経験したんじゃないかと思います。彼の国内での結果やポテンシャルは誰もが認めるところですが、世界で戦えるだけの気力や迫力があるかというと難しい。そこが彼の大きな課題だと思っています。センスや感覚だけで勝てるほど世界は甘くないので、気力は迫力を前に出してプレーするということが大きな課題になるのではないかと思います。
技術的なことについては、ほぼ何でもできていますが、ラリー志向というか安全志向なところがあるので、今後、世界では自分から得点を取りに行く積極的な気持ちや積極的なプレーを増やしていかなければいけないと思います。
日本のツインエースを破った向鵬の強さと日本選手の課題
シングルスでは、宇田と戸上のエース2人が優勝した向鵬(中国)やられましたが、9点とかジュースとか競るゲームがすごく多くて、そこは本当に向鵬が競った場面でミスをしないということなんだと思います。ブロックでもフォアハンドでもそうですが、最後の最後で正確性が高い。ただ、駆け引きもあるので、リスクを冒さなければいけないこともありますが、向鵬が6~7割の力で入れてきているだけの時に、日本の選手が先に決めたい気持ちが強すぎてリスクを冒しすぎてしまったということもあった。逆に、向鵬が勝負をかけて決めに来たときにはミスをしなかった、というところがありました。
日本の選手が、大事な場面で攻撃しにいくという姿勢は見えました。でも、それが直接ミスにつながっている。そこは技術的な正確性を高めないといけないし、力加減の調節もそうなんですが、そこで決めるのではなく、5球目、7球目まで考える、2球目、4球目、6球目まで考える。今だとサービスから3球目、レシーブはチキータで決めるかどうか、というところまでしか考えていないので、100%の勝負にいってしまっているというところがあるのではないかと思います。そういうところで最後にミスが出てしまったというのはあります。
ダブルスは日本のアジアジュニア大会で決勝で対戦した2ペアなので、メダルを獲得する可能性は非常に高かったと思います。宇田/戸上は劉夜泊/徐瑛彬に勝っていれば、決勝に行く可能性は高かったし、篠塚/曽根もドロー的にメダルを取れるチャンスがありました。ダブルスの2ペアはちょっともったいなかったと思います。
勝つためには苦手なことをしなければならないこともある
来年以降に向けては、技術的なことに関しては「精度を高める」ということですね。サービスは大事な場面で台から出てしまったことが何度もありましたし、レシーブでもストップが止まらない、レシーブミスをするなど、細かいところですが、そうした部分の精度を高める、質を上げる必要があると思います。フォアハンドもバックハンドもただ速いだけではなく、回転もコースもすべての質を高めて「質の高い選手」になっていかないと、中国選手には勝てないし、世界のトップでプレーしていくのは難しいと思います。
男子は中国だけでなく、ヨーロッパも力を付けてきているので、ジュニアも厳しく指導していかないと世界で勝つのは難しいと改めて感じます。
技術的な部分での差はあまりなくなってきました。今の選手たちは何でもできて、できない技術はない。ただ、何でもできるがゆえにその選択肢で迷ってしまう。選択肢が1つしかなければ、その1つで勝負するしかないので簡単ですが、相手のことも自分のことも、これだけいろいろな情報が入ってくる中で何がベストの選択なのか。もちろん、正解はありませんよ。相手のミスでも、自分に得点が入ればそれが正解ということになりますから。ただ、そういう中で状況、相手の表情、相手の考え、そうしたこともすべて含めた上で何を選択するか、そこはもっと追求できるのかなとは思いました。やはり、メンタルというよりも戦い方、ゲームの運び方が大きな課題なのかなと思います。
例えば、一つのミスがジャブのようにだんだん響いてくる、「たかが一本のミス」が勝敗を左右することもあるし、一つの選択の過ちが大きなミスにもつながるので、大事なのは、どうやってゲームを組み立てて、得点して、勝利に結びつけていくことができるのか、というところですね。
もちろん選手の長所は生かしつつですが、自分がやりたいことだけでは勝つことはできないので、相手の待ちをはずす、相手の弱点を探して弱点を突いていくことが大事になってきます。難しいことですが、自分の強みを生かすよりも、相手の苦手な部分を突くために、自分も苦手なことをしなければいけないこともあるということですね。
詳細な記録等は下記リンクでご確認ください。
大会公式サイト(英語):https://www.wjttc2019.com/
公益財団法人 日本卓球協会:http://www.jtta.or.jp
国際卓球連盟(ITTF):https://www.ittf.com/tournament/5057/2019/world-junior-table-tennis-championships/