2020年10月18日、都内にある明治大学卓球部合宿所にて、明治大学卓球部90周年記念事業 ・ドリームゲームが開催された。このイベントは、新型コロナウイルスの影響によって大会の中止が相次いでいる学生たちの現状を見かねた明治大学駿台卓球会(明治大学卓球部OB会)が、「学生生活の思い出になるような事はできないか」との思いから中心となり、OBたちの賛同を得て実現した。
OBチームには、水谷隼(木下グループ)、丹羽孝希(スヴェンソン)、平野友樹(協和キリン)、森薗政崇(BOBSON)、神巧也(T.T彩たま)のビッグネームが名をつらね、一方の明治大学生チームも宇田幸矢、戸上隼輔ら次代のホープが出場。そのまま日本代表としてチームを組めると言っても過言ではないメンバーが一堂に会し、ハイレベルな真剣勝負を繰り広げた。
また、試合の模様はYouTubeの明治大学卓球部公式チャンネルでライブ配信され、OBの松下浩二氏(株式会社VICTAS 代表取締役社長)、倉嶋洋介氏(日本男子ナショナルチーム監督)が解説を担当してイベントに華を添えた。
〈大学生チーム 3ー2 OBチーム〉
西康洋 ー6、ー6 平野友樹○
○宮川昌大 ー5、9、9 神巧也
○龍崎東寅 9、ー3、9、ー3、8 森薗政崇
戸上隼輔 ー8、ー7、11、8、ー8 丹羽孝希○
○宇田幸矢 8、8、7 水谷隼
※試合は1〜2番が3ゲームマッチ、3〜5番が5ゲームマッチ
1番 西康洋 ー6、ー6 平野友樹○
トップは、大学生チームが3年生の西康洋、OBチームは平野友樹。試合は「緊張していましたが、思い切れた」という平野が、丁寧さと大胆さがうまくかみ合った充実のプレーで序盤からペースを握る。
「向かっていくことだけを考えてプレーした」という西も場内がどよめくような豪打を決めるが、最後は平野にうまくかわされ、OBチームが先制。
2番 ○宮川昌大 ー5、9、9 神巧也
続く2番は、ルーキーの宮川昌大が見事なプレーを見せた。1ゲーム目は神巧也のサービスに手こずり、あっさり落とすが、2ゲーム目はしっかり対応して取り返すと、3ゲーム目は序盤からペースを握り、最後は鮮やかなチキータエースを決めて勝利。
「神選手は憧れの選手。勝敗にこだわらず、思い切ろうと思いました。コロナで試合がなくなっていたので、この試合にメンバーとして選んでもらえて感謝しています」という宮川が、値千金の勝利で試合を振り出しに戻した。
一方の神は、「昨夜、『宮川』『卓球』でYouTubeで検索して対策はしっかり練ってたんですけど(笑)」と会場を和ませつつも、「緊張感ある試合ができてよかった。強かったです」と素直に兜を脱いだ。
3番 ○龍崎東寅 9、ー3、9、ー3、8 森薗政崇
振り出しに戻した大学生チームは、4年生でキャプテンの龍崎東寅が素晴らしいプレーで続いた。
龍崎は森薗政崇に対し、チキータからの打球点の早い両ハンド攻撃で、真っ向勝負を敢行。ラリー戦になっても森薗のバック側を徹底して攻め、フルゲームで難敵を退けた。
「今年はコロナの影響で試合がほとんどなくなってしまったので、このような試合を開いてくださり、本当にありがたいと思っています。自分より格上の選手と試合をするときは、1ゲーム目を取らないときついのでそこが取れたのが大きかった」と龍崎は試合後にコメント。実績では森薗の方が格上だが、コロナ禍という難しい時期に主将を任された龍崎のさまざまな思いが込もった見事な試合だった。
一方、惜敗した森薗は「龍崎は僕が4年生の時の1年生。在学中に何回も試合をして分はよかったんですが、今日は龍崎の攻める姿勢にやられてしまいました」と後輩の気迫を素直に称えた。
4番 戸上隼輔 ー8、ー7、11、8、ー8 丹羽孝希○
戸上隼輔対丹羽孝希の4番は最大の激戦になった。
二人は今年の1月に行われた全日本選手権大会男子シングル準々決勝で対戦しており、その時は戸上が会心のプレーで丹羽をストレートで下している。
今度は丹羽が黙っていないだろうと予想していたが、その通り、丹羽が出足から目の覚めるようなカウンターや十八番のカット性ブロックを存分に駆使した「丹羽劇場」とでもいうべきプレーで2ゲームを連取する。
このまま丹羽が快勝するかと思われたが、そう簡単に全日本の借りを返されたくない戸上が踏ん張る。マッチポイントをしのいで第3ゲームを奪い返すと、持ち味の疾走感あふれる両ハンドドライブで第4ゲームも取り、試合を振り出しに戻した。
第5ゲームも日本のトップ同士によるスリリングなラリーが繰り広げられたが、最後は丹羽が持ち前のサービス力で戸上を振り切り、全日本のリベンジを果たしつつ、OBチームがタイに追い付いた。
「試合は3月のワールドツアー・カタールオープンぶりでしたが、思ったより自分のプレーができた。非常に難しい場面で回ってきましたが、自分で終わらせたくないと思ってプレーしました。全日本では戸上選手と初対戦で、彼のチキータやバックハンドにやられたので、今回はそれをいかに封じるかという戦いでした」と丹羽。
一方、激闘の末に敗れた戸上は、「全日本の時に(丹羽と)対戦させていただいて、その時は自分のプレーに集中した結果、勝つことができました。あの時のようにチキータとバックハンドで積極的に自分のプレーができたら勝てると思っていましたが、流れがつかめませんでした」と悔しさをにじませた。
5番 ○宇田幸矢 8、8、7 水谷隼
勝負が決まるラストの5番は、現・全日本チャンピオンの宇田幸矢対全日本V10のレジェンド・水谷隼という、大トリにふさわしいカードが実現。
宇田の豪球を百戦錬磨の水谷がどうさばくのかに注目が集まったが、「相手は何回も全日本を取っている選手。自分は思い切ってプレーするだけ」と腹をくくっていた宇田が強すぎた。サービスから3球目はもちろん、レシーブからもチキータを中心に攻め立てて水谷を圧倒。ストレートで快勝し、大学生チームの勝利を決めた。
今ひとつエンジンがかかり切らなかった感のある水谷だったが、試合後は「終始攻められる展開になってしまった。(宇田は)今年の全日本で優勝して勢いに乗っているので、来年も連覇を目指してほしい」と後輩のプレーに脱帽しつつ、エールを送った。
試合後は、出場した選手を代表して水谷が感謝と抱負を述べ、イベントを締めくくった。
◼︎水谷隼の閉会のコメント
「兒玉総監督をはじめ、今回クラウドファンディングで支援してくださった皆さん、明治大OBの皆さん、ファンの皆さん、本当にありがとうございます。このような素晴らしい試合ができて、僕たち選手はみな嬉しく思っています。
この半年、試合がなくてなかなか卓球のモチベーションを維持するのが難しかったのですが、今日試合をしてあらためて『卓球好きだな、楽しいなあ』という気持ちになりました。見ていただいた皆さんに少しでも勇気や元気を感じていただけたら僕たちも幸せです。
来年はいよいよ延期になった東京オリンピックが開催されます。今回出場した丹羽孝希選手と僕とで金メダルを持って帰れるように頑張りますので、これからも引き続きご声援よろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました」
「学生生活の思い出になるような事はできないか」というOBたちの思いから実現したイベントだったが、出場メンバーのほとんどが日本代表レベルなだけに、試合は思い出づくりという温かみのある言葉とはかけ離れたスリリングな真剣勝負がラストまで続いた。ライブ配信で視聴者された方は、勝敗の行方やハイレベルなラリーに手に汗を握った人も多かったのではないだろうか。特に、4番の丹羽対戸上はしびれるようなラリーが幾度も続き、取材する側も久しぶりにコートサイドで息詰まるような緊迫感を味わうことができた。
現役大学生チームが、豪華メンバーをそろえたOBチームを下した結果は、これからの明治大ひいては日本を担っていくであろう学生たちの大きな糧になっただろうし、OBたちにとっても、またとない刺激になったことだろう。
いずれにしても、そうそうたるメンバーが集結した明治大学ドリームゲームは、明治大学の積み上げてきた伝統と底力を示すと同時に、卓球の醍醐味を大いに感じさせてくれるイベントだった。
(取材=猪瀬健治)