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水谷隼、全日本決勝を語る⑨【決勝と2021年全日本の総括 後編】(最終回)

 名勝負になった2021年全日本卓球男子シングルス決勝及川瑞基(木下グループ)対森薗政崇(BOBSON)の攻防を、水谷隼(木下グループ)が解説するスペシャル企画。
 前回に続き、水谷による男子シングルス決勝のまとめと、2021年全日本卓球の感想を紹介して最終回としよう。 (前編はこちらから

トップへ行くには、どんな状況下でもベストなプレーを出せる対応力が必要

 コロナ禍の中、いろいろな制約のもとに行われた今回の全日本では、普段と違う不自由さを感じた選手も多いでしょう。例えば、「得点時に大きな声を出すのは控える」という制約は、少なからぬ影響を受けた選手もいるのではないでしょうか。
 しかし、本当に強い選手は、得失点時に声を出す出さないを自由自在に操ることができるものです。「いつものように声を出せなかったから自分のプレーができなかった」というのは甘えでしかありません。
 世界のトップ選手でも、その日によって調子の良しあしは必ずありますが、どんな調子でも変わらず強い。これは、トップ選手全員に言えることです。だから、どのような状況に置かれても戦えないといけない。
 今回の全日本では、出場した選手たちは事前や当日の練習や調整が難しかったと思いますが、自分の経験からすると当たり前なんですよね。海外リーグでは、「長距離を移動した後、1球も練習できずに試合する」みたいなケースはざらでしたから。
 そういう経験が、今の若い選手たちには圧倒的に少ない。常にベストな環境で練習して、ベストな状態を保って、ベストな環境の会場で試合をして、という恵まれた環境が当たり前です。しかし、そのベストが少しでも崩れたら急激にパフォーマンスが悪くなるようでは、将来的に勝っていくことは難しいでしょう。
 海外は、ベストな環境ではないことが普通です。世界のトップ選手に上り詰めたいのならば、そういうところでいろいろな経験を積んで、「今から試合だ」といきなり言われても、ベストな状態でプレーできる力を身に付けておく必要があります。それが、例えば用具が変わっても、ルールでボールが変わっても、そして、コロナ禍でも適応できる強さにつながっていくのだと思います。

身近で接しているからこそ分かる及川のすごみ

練習の虫だという及川。冷静な試合態度は豊富な練習量のたまものだ

 普段と違う状況で行われた今回の全日本において、ドイツでもまれてきた及川と森薗の二人が決勝へ勝ち上がったことは、ある意味、必然だったと思います。
 特に、コロナでなかなか練習もできないような特殊な環境下では、自主性のある選手が絶対的に強い。どこかに甘えのある選手だったら「コロナだから練習しなくていい」とか「家にいるときはただ休むだけ」などになりがちです。
 しかし、ヨーロッパで経験を積んできた二人は「自主的にトレーニングをしなければいけない」「ランニングをしなければいけない」など、コロナ禍での練習を絶対に工夫していたはずです。その約半年間の生活の違いが表れたと思いますね。
 及川のことは、同じチーム(木下マイスター東京)でずっと見てきましたが、本当に努力家で、練習を休むことはまずないし、僕より先に練習場を出ることもありません。
 何より及川がすごいのは、「自分から練習を終わらない」ことです。
 僕には、練習の終わりに(お互いの)サービスからオールを行うルーティーンがあります。基本的に時間は決めていなくて、どちらかが終わろうと言った時点で終わる練習ですが、この練習を及川と行うと永遠に終わりません。僕も自分から終わろうというタイプではないですが、及川はそれに輪をかけてすごい。
 及川とは同じ青森山田高出身ですが、年齢が離れていたこともあり、同じチームになるまでそれほど面識はありませんでした。同じチームになった当初、手始めに、この練習でどれだけついてくることができるか試したのですが、30分たっても1時間たっても及川から終わりにしましょうと言わないので、これはもう一生言わないなと。それから何十回も及川と練習終わりにサービスからオールを行っていますが、必ず僕の方からギブアップします(笑)。しかも、及川の集中力は練習中に途切れることがありません。このような粘り強さを僕は買っています。
 そのほか、及川はけがをしていても、多少のけがなら弱音を吐かずに必死に練習するんですよね。
 そうした及川の姿を身近で見ていると、今回の彼の優勝は決してまぐれではなく、実力で、勝つべくして勝ち取った勝利だったと言えます。

及川のアグレッシブさと戦術が光った張本智和戦

圧巻の攻めで優勝候補の張本を下した及川

 今回の及川は、張本(張本智和/木下グループ)との試合(男子シングルス準々決勝)が1番強かったですね。基本的に及川は、相手のボールを利用してコースを突いたりカウンターしたりする守備的なプレースタイルで、自分からはあまり攻めないのですが、張本戦に限っては、ものすごくアグレッシブでした。防戦一方の張本を見て、僕もびっくりしました。一緒に練習していてもあそこまで攻撃的なプレーはたまに見せるくらいなのですが、あの試合の及川は終始攻めていましたね。
 張本戦では、及川の戦術もよかった。張本のチキータの回数を数えながら試合を見ていましたが、張本はほとんど得意のチキータができていませんでした。唯一、張本が取ったゲーム(第4ゲーム)だけ、7割から8割くらいチキータできていましたが、それ以外のゲームは及川にほとんどチキータをさせてもらえず、チキータできたとしても思うように点数につながっていません。そこで勝負が決まりましたね。
 及川には張本戦のプレーを続けてほしかったところですが、優勝はしたものの、準決勝、決勝でのパフォーマンスは、張本戦の半分くらいになってしまった印象です。

初戦敗退した前回王者の宇田幸矢について

まさかの初戦敗退を喫した前回王者の宇田

 今回の全日本で上位に勝ち上がった選手たちは、勝つべくして勝ったという印象がありますが、その一方で、戸上(戸上隼輔/明治大)のように期待されながら棄権を余儀なくされた選手たちは本当に無念だったと思います。とはいえ、来年以降もまだまだチャンスはあるので、今回棄権になった選手たちには、くさらずがんばってほしいですね。来年は観客も入れて、しっかりした形の全日本が見られることを願っています。
 一方、前回王者の宇田(宇田幸矢/明治大)の初戦敗退(男子シングルス4回戦)は残念でした。相手がTリーグで活躍している選手とかでしたら分かるのですが、高校生(鈴木笙/静岡学園高)ということで、宇田の方が心技体智の全てで上だったと思うんですよね。
 宇田が負けた試合を最初から最後まで見ましたが、思ったのは「軽い」ということ。ボールの球威ではなく、プレー全体が、という意味です。本人はもちろん入ると思って打っているのだと思いますが、「ミスしてもいいや。次、決めればいい」という感じで、悪い意味で前向きでしたね。そうして、チキータをミスし続けて、ドライブをミスし続けて、という展開が7ゲームの間ずっと続いたように見受けられました。相手に合わせてプレースタイルを変更しなければいけないし、戦術も変更しなければいけないのに、最初から最後まで終始同じことをし続けて、ミスをし続けてしまった感がありますね。
 もちろん本人が1番後悔していると思いますが、絶対にもっとやれることがたくさんあったはずです。負けたときも、あまりにもすがすがしかった。どこかのオープン戦か選考会みたいに淡々とプレーして、「あー、負けちゃったか」という感じであっさりしていたので、最後まで意地を感じることはできませんでした。
 前回王者の宇田にはみんなの期待もすごくあったと思いますが、僕としては、それをプレッシャーに感じるのではなくて、王者の強さとして見せてほしかったですね。

大会を通して目立ったのは、ロングサービスとフォアハンド

 最後に、今回の全日本男子シングルスを見ていて気づいた技術や戦術の全体的な傾向についてお話しします。
 今大会を通しては、チキータを封じることを目的として、ロングサービスが非常に多かったですね。
 また、思いのほか、選手たちはフォアハンドを使っていました。もっとバック対バックの速いラリーや一撃のバックハンドドライブで決めるシーンが多く見られるのかと予想していましたが、バックハンドを使ったらすぐにフォアハンドで回り込んだりサービスから3球目をフォアハンドで攻めたりと、勝負どころではフォアハンドで攻めていた印象です。
 その理由としては、「チキータが減った」ことでしょう。相手にチキータされたら時間がないのでバックハンドで対応せざるを得ませんが、チキータをさせないサービスやレシーブが増えたことによって、フォアハンドを使う機会も必然と増えたのだと思います。

(まとめ=卓球レポート)

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