2021年8月12日~17日、富山市総合体育館(富山県)にて第90回全国高等学校卓球選手権大会(インターハイ)が開催されている。大会5日目は男子学校対抗決勝が行われ、愛工大名電(愛知)が野田学園(山口)の挑戦を退け、5連覇を達成した。
愛工大名電が野田学園の猛追を振り切って優勝
<男子学校対抗決勝>
愛工大名電(愛知) 3-2 野田学園(山口)
○篠塚 -10,4,-9,2,6 徳田
○吉山 5,4,8 今泉
篠塚/谷垣 -11,-7,-7 徳田/芝○
濵田 3,-9,6,-8,-6 飯村○
○谷垣 8,5,4 芝
2年ぶりのインターハイ男子学校対抗決勝は大熱戦の末に幕を閉じた。
決勝は、選手層の厚さで他校を大きく引き離す愛工大名電が、野田学園の挑戦を受けて立つという図式がおおよその見方だったのではないだろうか。
実際に序盤はそのように事態は進んだ。徳田はエース対決を引き受けた覚悟をにじませるプレーで、最初の攻撃で決めようという思い切った強打やリスクを負ったカウンターなど、格上に勝つために全力のパフォーマンスを見せた。対する篠塚は、その意気込みに押されたか、やや受けに回ってしまった感があったが、最後は耐えるプレーで、リスクを負って攻める徳田のミスを誘い、貴重な1得点目を挙げた。
2番の吉山対今泉は、鋭い両ハンドカウンタードライブがある今泉に対して、吉山がカウンターをさせないほど力強いパワードライブで先制する展開で、終始吉山が主導権を握りストレート勝ち。愛工大名電があっという間に王手をかけた。
3番ダブルスは野田学園ペアの攻撃が冴えた。チキータも一発で決めようとするだけではなく、相手につながせたボールを狙い打つなど、戦術的にも多彩で、ラリーを長引かせたくない愛工大名電ペアは決めにいったボールにミスが出る負のスパイラルから抜け出ることができずに、野田学園ペアがストレート勝ち。望みを後半につないだ。
4番は、数時間前に行われた男子シングルスと同じカードの濵田対飯村。シングルスでは飯村が濵田に金星を挙げたばかりだ。このカードは野田学園の意図した通りだと思われるが、実際に全日本ジュニアチャンピオンに2度連続で勝つことは容易ではないはずだ。第1ゲームを飯村があっさり落とした時点で、やはり、2度は続かないか、という予想が頭をよぎったが、飯村はそんなことはお構いなしに、ロングサービスからのラリーで濵田を上回る安定感を見せて、先ほどと同じような互角の勝負に。飯村はリードされていても、リードしていても終始冷静な表情で、逸ることなくプレーに集中し、プレッシャーに苦しむ濵田に二度土をつけた。
ラスト、こうなるともう何が起きても不思議ではない。実績では谷垣が芝を上回るが、緊張やプレッシャーでどのような変化が選手に起こるかは予測できない。出足、谷垣の表情は硬いかにみえたが、序盤からラリーに持ち込ませない鋭いドライブで大量リード。追い上げられるもこのゲームを逃げ切って先行すると、「練習でしか入らないようなボール」と本人が語ったような素晴らしいドライブを連発。ラリーでも全球攻撃とでもいったような質の高い連続攻撃で芝を圧倒した。芝の良いパフォーマンスが見られないのは残念だったが、この状況でこのような最高の状態に自分を持って行った谷垣に称賛を送りたい。
愛工大名電は1年を空けて5連覇を達成。決勝はどちらが勝ってもおかしくない内容だったが、そういう勝負をいくつも乗り越えて連覇を続けているからこその王者なのだろう。一方の野田学園も、徳田と飯村が2年生、芝と三木が1年生と来年の戦力も充実していることが予想される。2校は再びこの決勝の舞台で相まみえるのか、それとも技を磨き心身を鍛えてきた他のチームがここに来るのか。早くも来年の学校対抗に期待がふくらむ。
●男子学校対抗優勝 愛工大名電・今枝一郎監督のコメント
「決勝は1番から5番までどれがどうと言わずに、すべてが勝負だと思ってオーダーを組みましたし、生徒たちもそのように取り組んでくれたと思います。どこで取ってどこで落とすという計算はなくて、全部勝負。野田学園さんもきっとそう思って真っ向勝負してきてると思うので、お互いに逃げはなしということだったと思います。
ラストの谷垣はめちゃくちゃプレッシャーは大きかったんじゃないでしょうかね。ただ、ダブルスを見ていると望んで5番に行ったんじゃないかという気がするくらい素晴らしいプレーでしたが、本人も終わって泣いていたように、ものすごいプレッシャーだったと思います。なにせこの試合に勝つというだけではなくて、何連覇ということとこれだけのメンバーがそろっている中での代表として出てもらっているので、私たちが想像するよりはるかに大きな重圧を受けてプレーしていると思います。
優勝を重ねて来れたことについては、選手たちに感服します。本当に地道にインターハイを目指して用意してくれますし、日々の生活も実っているのかと思います。
決勝のポイントはやはり5番です。芝君は中国ブロックも優勝していますし、日本代表にも入っていますし、一番マークしていた選手です。もっと競ると思っていたので、信じられないです。ラストが始まる時には、正直、追い詰められたなと僕自身は感じました。じゃあ何が僕にできるんだと必死に考えていた状態でしたが、そうしたら本人がものすごい明確な意志を持って試合をしてくれましたので、逆に邪魔をしないようにしよう、あまりいろいろなことを言わないようにしようと思ったくらいで、素晴らしい内容でした。想像を超えてましたね。想像を超えるボールも打ってましたし、嘘みたいな軌道のボールも入ってましたし。
どのチームもそうだと思いますが、1年の空白はものすごく大きくて、生徒の成長は例年よりは遅く感じます。その中でいかに変化をつけて日々の生活を送るかということをテーマにやってきたので、試合も余りない中でよく飽きずにやってくれたと思います。谷垣はうちの選手の中では一番外に出る機会が少ないんですが、精神的に難しい中で取り組んでくれて、学校に残っている分、僕と接する時間は一番長いので、余計に信じていました。4番の濵田もそうですが、シングルスで負けた相手と同じ相手に当たると分かっていて当たりに行きましたが、彼で負けても後悔がないと思えるくらい努力する選手なので、『あなたで負けてあげるよ』と言って送り出した状況です。
申し訳ないですが、野田学園さんは思ったより強かったですね。1番の徳田君なんか勝負に来てたんじゃないですか? 篠塚はよくしのぎましたが、とても気持ちがいい試合というか、俺がやってやるんだ、というのがにじみ出ていて伝わるものがありました」
●男子学校対抗優勝 愛工大名電・谷垣佑真選手のコメント
「今振り返ってみると、よくあんなにいいプレーができたと自分でも思うんですけど、自分の5番の勝敗でチームの勝ち負けが決まるという経験をしたことが過去になかったので、今回初めてそういう経験をさせていただいて、面白かったなあと、自分の中では楽しんでやれました。
確かに、外から見たら緊張とかプレッシャーとかあったと思いますが、自分の中ではそれをはねのけて思い切って自分のプレーを出し切ろうと思って、試合ができました。
ダブルスで全然ボールが入らなくて、なんでこんなに入らないんだろう、自分と戦ってて相手と戦ってないなあと思ったので、5番でダブルスで入らなかった分、絶対シングルスで入れてやるという強い気持ちでやりました。
泣くのは我慢してたんですが、みんなに『優勝おめでとう』と言われて、自分の勝利で優勝が決まったということで涙が出てきました。うれし涙って今まで一度もなかったので、これが初めてですね。
名電で練習できるっていうことは、全国レベル、世界レベルの練習ができるっていうことで、ライバルもいて、高め合って、チームも強くなるし、自分自身も心も体も強くなってきたなと感じています。
練習では結構いいボールが入って、よくチームメートに練習チャンピオンと言われるんですが(笑)、今日はそれが試合で実現できて、びっくりしています」
●男子学校対抗2位 野田学園・橋津文彦監督のコメント
「学校対抗決勝は、ワンチャンス見えただけに悔しいですね。やはり、愛工大名電の選手はそれぞれ卓球に対する意識が高いですね。このコロナ禍で制限があって、大会がなかったり、今までの強化の形が思い通りに取れない中で、僕としてはやれるだけのことはやって臨んだつもりでしたが、最後に出たのは意識の差だったのではないかと反省しています。
最初から1、2年生を中心に起用していこうと決めていたので、怖さはもちろんありましたが、勝ち上がっていくうちにみんなが強くなっていくのも感じたし、試合をやっているのも楽しかったですね。これからもチームを入れ替えながら新しい野田学園をつくっていければと思っています。
決勝は楽しかったんですけど、終わったら悔しくなりました(笑) あまり起用がなかった飯村もシングルスでベスト8に残っていますし、1回もオーダーに名前も書いていない1年生の木方も実力のある選手だし、コロナ禍で難しいですが、選手の意識を高めるのは僕の責任なので、僕がリーダーシップを持って意識の高いチームをつくっていかなければいけない。その大きな課題と反省点が見つかったので、新しい野田学園に期待してください」
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卓球 (8月16日) | 北信越総体 2021:https://kirokukensaku.net/0IH21/discipline_060_20210816.html
(取材=佐藤孝弘/猪瀬健治)