令和3年8月30~9月2日、新発田市カルチャーセンター(新潟)にて2021世界卓球選手権ヒューストン大会男女日本代表選手選考合宿が行われ、男子は宇田幸矢(明治大学)、森薗政崇(BOBSON)、戸上隼輔(明治大学)の3名が、既に出場権を獲得している張本智和(木下グループ)、丹羽孝希(スヴェンソン)に加えて、男子シングルスの出場選手に内定した。
選考会は24名の選手が1グループ6名で総当たり戦を行う予選リーグと、各グループの上位2名(計8名)が総当たり戦を行う決勝リーグが行われ、決勝リーグの上位3名が世界卓球の男子シングルス出場資格を獲得した。
1位 宇田幸矢(明治大学・6勝1敗)
久々に「強い宇田」が帰ってきた。昨年はけがに悩まされ、十分な練習をすることができなかったが、ここ数週間は質の高い練習ができたと今回ベンチを務めた宇田直充コーチ。この選考会では、自身が成長を感じたという台上プレーに加え、持ち前の攻撃力の高さ、特に全身の力を使ったフォアハンドの威力が光った。
決勝リーグ初戦で戸上にストレート勝ちを収めて勢いに乗ると、森薗戦に続いて篠塚大登(愛工大名電高校)とのフルゲームの競り合いも制して、1人最終戦まで全勝を貫いた。
●宇田幸矢選手のコメント
「今大会は自分の納得できる試合が多かったので、1位通過できて素直にうれしいです。1日目が勝負だと思っていたので、そこでしっかり勝ち切れたことが、今日の試合でも自信につながりました。
去年全日本で優勝して、世界卓球2020釜山の出場権は獲得していましたが、大会が行われず、出場することができなかったので、今回も必ず自分の力で出場権を獲得したいと思って臨みました。
オリンピックを間近で見ることができて、選手たちの懸ける思いと試合での駆け引きから大きなものを得ることができました。
自分の中で一番成長を感じているのは台上技術です。去年、故障で伸び悩んだ時期があって、そこから自分のプレーを見失って悩んでいましたが、この大会に向けてしっかり調整してきたので、やっと力が発揮できたと思います。今回は試合を通じて、バックハンドの安定性が欠けていた部分があったので、その課題は克服したいと感じました。
ヒューストン大会まではまだ少し期間がありますが、今回は反省点も多かったので、そこをしっかり克服して、自分の力を精一杯出せるように頑張ります」
2位 森薗政崇(BOBSON・5勝2敗)
今大会の森薗が素晴らしかったのは、パワー、テクニック、スピードなどあらゆるタイプの異なる選手の特性に対して、高い対応力を見せた点だ。対策も十分に行っていたのだろう。戸上戦でのスピードボールに対してのカウンターや、全日本決勝の再戦となった及川戦での、先手を取って相手を下げるプレーなど、ベテランの域に差し掛かった選手らしい予測能力や戦術力は見事だった。
3日目に疲労からだろうか、試合続行が不可能になるほど体調を崩したが、翌日の最終日にもきっちり2勝を挙げて代表権を勝ち取った。
●森薗政崇選手のコメント
「昨日の最終戦で、脳貧血と脱水症状が重なって、途中で棄権することになってしまって、今回帯同してくれた早稲田大学の内田といろいろなケアをして、なんとか今日体調を回復して勝てて本当によかったと思います。今日の朝の練習から最初の篠塚戦の時までは気分がよくありませんでしたが、試合をしているうちにアドレナリンも出てきて、不調も感じなくなってきたので、4ゲーム目当たりからは普通に試合ができました。
前回の選考会も勝って内定をもらっていましたが、コロナウイルスの影響で世界卓球が中止になって本当に残念な気持ちだったので、どうしてももう一度あの場に立ちたいと思って今大会に挑んで、苦しい日程でしたが勝ててよかったです。
オリンピックで金メダルを取ったあの2人(水谷隼と伊藤美誠)のプレーは、本当に劣勢から巻き返したのを見て、こんなことが起こりうるんだと驚いて、自分がああいう状況になってもあきらめないでプレーしようと思っていたので、環境は違いますが、今回追い込まれたところからケアをして回復できたので、先輩たちのすごいところを見て、それが生きたと思います。
水谷さんがこれまで築き上げてきた記録、全日本に10回優勝してオリンピックで金メダルを取ってというところにすぐに追いつこうというのは当然無理だと思っているので、まずは自分にできることをできる範囲でしっかりこなしていきたいと思っています。
これまで何回か世界選手権に出させてもらって、メダルを1枚獲得していますが、前回、伊藤選手とミックスダブルス、大島選手と男子ダブルスなど、チャンスがあるなかでメダルを逃してしまったので、残り3カ月しっかり仕上げてメダルを獲得したいと思っています」
3位 戸上隼輔(明治大学・4勝3敗)
上位進出が予想されながらも、予選リーグで森薗に1敗、決勝リーグ初戦で宇田にストレート負けと、前半戦で苦しんだ戸上。両ハンドのスピードボールは実力者たちの中でも頭一つ抜け出ていたが、勝負所でもリスクを負って攻めざるを得ないなど、得点がほしい場面でのプレーに苦しんだ。
アジア選手権大会の選考会決勝の再現となった木造戦ではゲームオールジュースの末に敗れたが、それ以外の4戦は危なげなく勝利を収めた。スピードで押し切れない相手、対応力の高い相手との戦い方が今後の課題か。
選考は、及川対平野の勝敗に委ねられたが、木造を破った及川が平野にフルゲームの末に競り勝って、戸上の3位が決まった。
●戸上隼輔選手のコメント
「とてもうれしく思っています。最初はとても苦しい展開が多かったんですが、最後は突っ走ってやりきることができて、その結果3位に入賞することができたと実感しています。
最後の試合は、自分が2連勝しないと勝ち上がれなかったので、緊張しましたが、自分のことを信じて精一杯やるだけだと思ってプレーに挑みました。その2試合は全力を出すことができました。
元々僕の戦い方というのは超攻撃型で、いろいろなボールに対して10割の力で打つスタイルですが、それを負けている場面でも苦しい場面でも振り切れたというのが自信になりました。
及川選手と平野選手が試合をしている間は、ずっと自分を責めていました。宇田選手や森薗選手は自力で代表権を獲得していましたが、自分はあきらめていた部分もあったので、自分が情けないと思いながら見ていました。決まった瞬間は、安心した気持ちと自分に対して悔しい部分が半々ありました。
オリンピックには全種目に帯同させていただいて、ミックスダブルスの金メダルには感化された部分があって、自分でも金メダルを取れるという可能性を感じましたし、オリンピックという舞台で戦って、日本に勇気と笑顔を自分が届けたいという気持ちを強く持ちました。
水谷選手の引退というのは僕の中でもすごいショックでしたが、一枠空いたということで、自分がその枠に入ってパリオリンピックでも金メダルを目指して頑張りたいと思います。
世界選手権まで3カ月くらいあるので、今回の合宿で得た経験を整理して、どれだけ成長できるか分かりませんが、まずはアジア選手権に向けて頑張りたいです。
4位 木造勇人(愛知工業大学・4勝3敗)
予選リーグで宇田に敗れたものの、最終日まで1敗をキープし続けた木造。最終日に及川と森薗に敗れ、惜しくも代表を逃したが、早い打球点を捉えた精度の高いバックハンドカウンターは他の選手にとって脅威となっていた。
5位 及川瑞基(木下グループ・4勝3敗)
全日本チャンピオンのタイトルホルダーとして、自力で代表権獲得を目指したが、惜しくもわずかに届かず。ミスの少なさ、戦術の巧みさで予選リーグを1位通過し、決勝リーグでも上位に食い込む可能性はあったが、決定力を欠く場面が見られ、代表となった宇田、森薗、戸上に敗れた。
6位 篠原大登(愛工大名電高校・3勝4敗)
高校の先輩である木造との試合では、1対3から追いついたが、わずかに及ばず。球威が増してきた分、決定打にミスが出る場面があったが、決勝リーグでは唯一の高校生として奮闘し、一般でも十分に通じる力があることを証明した。
7位 田中佑汰(愛知工業大学・2勝5敗)
最終戦で宇田を破った田中。前陣速攻に加え、今大会では、後陣からのロビングを多用するなど多彩さも見せた。
8位 平野友樹(協和キリン・1勝6敗)
ベテランながら、打球点の早さ、コンパクトなバックハンドなど、たゆまぬアップデートを続けている平野。予選では野田学園高校の後輩の吉村和弘(岡山リベッツ)を破り、決勝リーグ進出を決めた。
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公益財団法人 日本卓球協会:https://jtta.or.jp/
(取材=佐藤孝弘)