11月23日から始まる世界卓球2021ヒューストンを目前に、元日本代表として世界を舞台に活躍した梅村礼(タマス・バタフライ・ヨーロッパ)に今大会の見どころを聞いた。
コロナ禍での大会だがフェアネスに期待したい
今大会は従来よりも大会規模を縮小した初の世界卓球ですが、くしくもコロナ禍と重なり、特定の選手にとっては出場が難しい大会となりました。世界ランキング256位以下の選手は出場資格がなく、世界ランキングを上げるための国際大会も開催頻度が少なかったり、WTTの出場資格も厳しかったりと、これからランキングを上げていこうという若手にとっては、不利な点が多かったと思います。実際、私が期待しているパバド(フランス)も、実力ある選手ですが、世界ランキングが基準に満たないため(2021年第46週の世界ランキングは326位)、出場することができません。
加えて、コロナ禍のために、選手の国籍によってはアメリカのビザを取得することが難しいという問題も生じており、大会開催の2週間前の現在(11月12日取材)でも、出場資格を持った選手の中にもアメリカに渡航できない可能性がある選手がいるのが事実です。この問題は、ITTF(国際卓球連盟)とアメリカ卓球協会が全力を挙げて対処してほしいと願っています。
今大会は従来までの世界選手権大会とは異なり、初日からシングルスの第1シードの選手が登場します。各種目とも予選なしで、シード選手も一斉にスタートラインに並ぶので、その点ではフェアだと思います。調整が重要なのは今までと変わりませんが、シード選手も、だんだんとギアを上げていくといった余裕はないので、初戦から全力で臨む必要があるという点では、今まで以上に調整が難しいかもしれません。
また、開催期間が1日短縮され、7日になったので、シングルス、ダブルス、混合ダブルスと3種目に出場する選手は、体力的に厳しいかもしれません。ただ、ダブルスの試合をこなすことで、シングルスの調子も上げていくことができるので、単複に出場する選手は有利な面があるともいえるでしょう。
【女子シングルス】
優勝候補は陳夢、孫穎莎
伊藤、早田にも期待
優勝候補は誰かと聞かれれば陳夢、孫穎莎、王曼昱(いずれも中国)の名前を挙げざるを得ません。その中でも、陳夢が筆頭、孫穎莎が2番手という予想です。いずれの選手も技術レベルの高さ、大舞台での経験も豊富で、競り合いにも強いです。その中でも、王曼昱は崩れやすいところがあるので、陳夢、孫穎莎が有利だと見ています。
そこに食い込んでほしいのが日本の伊藤美誠(スターツ)です。実力的にチャンスはあると思いますが、東京オリンピックでの孫穎莎戦を見た限りでは、かなり緻密に対策されているという印象を受けました。中国選手は、一度負けたり苦戦を強いられた相手には徹底的に対策を講じてきますが、現段階の相手だけでなく、成長や変化を見越して対策してくるため、それを相手がさらに上回ることは至難の業なのです。
例えば、伊藤は以前は孫穎莎にスピード勝負で上回ることが多かったのですが、東京オリンピックでは、この距離でプレーすれば対応できるという距離感をつかまれてしまっていました。さらに、孫穎莎は伊藤の緩急に対しても対応できるようになっていました。今までだったら、孫穎莎が返すのが精いっぱいで、次のボールで得点されていたようなケースでも、孫穎莎は伊藤が決定打を打てないようなギリギリのスピードやコース取りのボールで、伊藤に100%の体勢で打たせないことに集中しているように感じました。ただ、伊藤もそうした相手と対戦する準備をしてきていると思うので、再戦が実現すれば楽しみです。
伊藤に限って言えば、中国勢の中では、孫穎莎よりも陳夢、王曼昱に対してより大きな勝機があると感じてます。陳夢はラリーでの安定感は抜群ですが、打球点が遅れることがあります。また、王曼昱もそうですが、身長が高く、手足が長い選手は両サイドのボールには強い半面、ミドルを狙われると崩れやすい特徴があります。伊藤はこの弱点を突くのがうまいので、組み合わせ的にはこの2人の方が望ましいと言えるでしょう。
日本勢の中で、私が伊藤の次に期待しているのが早田ひな(日本生命)です。早田は世界卓球のシングルスの出場は初めてですが、プレーの幅が広がってきていて、中国以外の強豪選手には簡単には負けないだけの力を備えてきていると思います。また、伊藤と同様に、サービス、レシーブから積極的に仕掛けて、3球目、4球目攻撃で仕留めることができるので、その点は世界でも通用するでしょう。オリンピックはリザーブ選手でうずうずしていたと思いますし、その後のWTTでも優勝するなど、好成績を収めているので、今大会でもダークホース的な活躍に期待したいですね。
石川佳純(全農)は東京オリンピックが終わって、どれだけリフレッシュできたかというのがポイントになってくると思います。5年に及ぶ長い戦いが終わって、一度リラックスできたら、また、エンジンをかけ直すことができると思うので、いい休息が取れていたらいいと思います。オリンピックでは、劣勢のときに集中力を切らせる場面が見受けられましたが、実力も経験もある選手なのでベテランらしい粘り強いプレーができれば、上位進出を狙えると思います。
平野美宇(日本生命)は、故障もあって苦しんだ時期があったようですが、日本女子の中では唯一世界卓球のシングルスでのメダル経験がある実力者ですから、思い切ってプレーしてもらいたいですね。
芝田沙季(ミキハウス)は世界卓球は初出場ですが、異質型の選手やヨーロッパの選手には簡単に負けないと思いますし、国際大会での経験もかなりあるので、気負わずに頑張ってほしいですね。格上の選手に勝とうと思ったら、相手がびっくりするような意外性が必要になってきます。それがないと、芝田のような右シェーク裏裏のラリー志向の選手は対策が立てられやすいので、何か先手を取れるような意外性のあるプレーがあると、格上の相手も崩しやすくなると思います。
世界的に見て、中国と日本のレベルは頭1つ抜け出ていると思うので、それ以外の国や地域で優勝を狙えるような選手の名前はあまり思い浮かびませんが、実力を付けてきているA.ディアス(プエルトリコ)、サウェッタブート(タイ)、申裕斌(韓国)らがトーナメントをかき回してくれたら面白くなりそうです。
【女子ダブルス】
ブダペスト大会で決勝を争った
孫穎莎/王曼昱と早田/伊藤が大本命
32ペアを見渡してみると、本命として挙げられるのは、世界卓球2019ブダペストのチャンピオンである孫穎莎/王曼昱(中国)とそれに肉薄した早田/伊藤の2ペアです。
この2ペアに迫るのが、石川/平野、田志希/申裕斌(韓国)でしょうか。どちらのペアも格下には負けない安定感があります。私が注目しているのが、A.ディアス/M.ディアス(プエルトリコ)の姉妹ペアです。パワーのあるA.ディアスと異質型のM.ディアスはコンビネーションがよく、プレーに意外性もあるので勝ち上がってくれると面白くなりそうです。
【混合ダブルス】
本命は林昀儒/鄭怡静
張本/早田にも期待
中国の2ペア林高遠/王曼昱、王楚欽/孫穎莎が強いですが、どちらのペアも男子の出来次第というところがあると思います。その点で、プレーにムラがない林昀儒/鄭怡静(中華台北)の東京オリンピック銅メダルペアを本命として挙げたいと思います。林昀儒のチキータレシーブは混合ダブルスでも大きな武器になりますし、近年ペアを組み続けて多くの試合をこなしていることも強みになるでしょう。同じく東京オリンピックで香港の黄鎮廷/杜凱琹を破ったルベッソン/ユアン・ジアナン(フランス)も当たれば強いペアです。
日本の張本智和(木下グループ)/早田ひなは2019年のジャパンオープンで樊振東/丁寧(中国)を破る金星を挙げています。中国男子のボールにも対応できるという早田の強みを生かしたプレーをしてほしいですね。
宇田幸矢(明治大学)/芝田沙季はペアとしては未知数ですが、宇田のパワーと芝田の安定感が噛み合えば、表彰台も狙えると思います。
(取材=卓球レポート)
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