数多くの選手をトップレベルへと引き上げ、また勝利へ導いてきた邱建新。世界屈指のプロコーチである邱氏が、その深くて鋭い視点で、世界卓球2021ヒューストンの熱戦を読み解く。
今回は、男子シングルス4回戦の樊振東(中国)対 王楚欽(中国)を解説してくれた。
●男子シングルス4回戦
樊振東(中国) 5,7,-11,7,-8,6 王楚欽(中国)
ずば抜けてハイクオリティだった事実上の決勝戦
樊振東が地力の強さを見せて優勝に大きく近づく
樊振東と王楚欽の男子シングルス4回戦は、「事実上の決勝戦」と呼んで差し支えないハイレベルな試合だったと思います。二人が繰り出し合った技の質や攻め方は、ここまでの世界卓球男子シングルスの中でもずば抜けていました。
第1、第2ゲームは、樊振東が優位に進め、比較的楽に取りました。サービスからの3球目を要所で決め、ラリーになっても前でプレーして威力のあるボールを打ち、王楚欽を圧倒しました。
一方の王楚欽は、気負いからかレシーブにいつものアグレッシブさがなく、サービスもバウンドが高かったり、長くなってしまうコントロールミスが目立ち、樊振東に付け入る隙を与えてしまいました。
第3ゲームの序盤も第1、第2ゲームと同じような展開で樊振東が優位に進めましたが、終盤から王楚欽が積極性を取り戻します。
ここまでの王楚欽はバックハンドをクロス(樊振東のフォア側)に送ることが多く、それを樊振東に狙い打たれていましたが、第3ゲームの終盤でストレート(樊振東のバック側)へのバックハンドを思い切って使い、このゲームを逆転しました。
第3ゲームの終盤までの流れから、普通だったら樊振東の攻めの圧力にあっさり屈してしまうところですが、それに抗う王楚欽のコース変更のひらめきと、それを実行する勇気は非凡だったと思います。
その後、より積極的だった方が取る展開でお互いがゲームを取り合いますが、第6ゲームは樊振東がさらに集中したプレーで得点を重ね、王楚欽を振り切りました。ツッツキからのカウンターや、王楚欽の一撃チキータを読んでカウンターを決めるなど、樊振東の引き出しの多さ、読みの鋭さはさすがでした。
二人のラリーは凡ミスが極めて少なく、とても質が高いものでしたが、終わってみれば樊振東の強さが際立った試合でしたね。樊振東はラブオールから常に揺らぐことなく、自分のプレーに集中できており、長いラリーではほとんど得点していました。
王楚欽は樊振東から2ゲームを取りましたが、それは彼が普段の自分のプレーよりもかなりリスクを負ったからであり、そのリスキーなプレーを樊振東に勝つまで続けるのは難しかったでしょう。
王楚欽がリスクを負わなければ、おそらく樊振東がストレートで勝利していたでしょうから、そう考えると、やはり樊振東の地力、つまり彼が土台にしているベースの強さは抜けているということだと思います。
樊振東は、優勝するまでの最難関といっていい王楚欽を充実のプレーで下しました。この勝利で、世界卓球男子シングルス初優勝に大きく近づいたと思います。
(取材/まとめ=卓球レポート)