数多くの選手をトップレベルへと引き上げ、また勝利へ導いてきた邱建新。世界屈指のプロコーチである邱氏が、その深くて鋭い視点で、世界卓球2021ヒューストンの熱戦を読み解く。
今回は、男子シングルス準決勝のモーレゴード(スウェーデン)対 ボル(ドイツ)を解説してくれた。
●男子シングルス準決勝
モーレゴード(スウェーデン) -8,-8,6,8,-10,8,5 ボル(ドイツ)
驚きのセンスと発想を見せたモーレゴード
チキータを使わないレシーブは大きな武器
これまで私はたくさんの選手を見てきましたが、その中でも、モーレゴードがボル戦で見せたセンスや発想には驚くものがありました。
序盤は、モーレゴードがボルのサービスをうまくレシーブできず、第1、第2ゲームを続けて落とします。ボルのツッツキレシーブに対するモーレゴードの攻撃の質もそれほど高くなく、ボルがカウンターとブロックで優位に立つ展開でした。
第3ゲームに入ると、モーレゴードのプレーが積極的に変わります。フリック(払い)を中心にレシーブが積極的になり、サービスも構える位置を変えるなどしてボルに的を絞らせませんでしたね。ラリーでも、攻撃する1球目から強く打つようになり、プレー位置も前になったので、ボルは時間の余裕がなくなってしまいました。
第3、第4ゲームはモーレゴードが取り、第5ゲームも序盤はモーレゴードの積極性が光る流れでしたが、ボルが気迫で奪いました。けがをしたという左脇腹あたりが痛そうでしたが、このあたりはこれまで多くの国際大会で戦ってきたボルの経験が生きたと思います。
ゲームカウント3対2としたボルでしたが、第6、第7ゲームは、モーレゴードが第3ゲームから続けてきた積極的なプレーを貫いて連取し、ボルを下しました。ボルの重いドライブをバックプッシュで狙い打ったり、カウンターしたりするモーレゴードのプレーには、彼のセンスや発想の良さがよく表れていたと思います。
タッチが光る技術もさることながら、 この試合のモーレゴードは冷静な試合運びも勝因だったと思います。ボル戦までのモーレゴードは、すごいプレーを見せて吠える半面、集中力にムラがある印象でしたが、この試合ではけがをしたボルが相手ということで気遣ったのか、終始落ち着いてプレーしていたように見えました。
いずれにしても、けがをしたボルは不運でしたが、仮にボルが万全の体調で臨んでいたとしても今日のモーレゴードに勝つのは難しかったのではないか。そう思わせるほど、モーレゴードのプレーは良かったと思います。
モーレゴードの良さは、レシーブにあります。
彼の試合を見ればよく分かりますが、モーレゴードはチキータを使いません。その代わりに、ストップやフリックをうまく使います。
特に、フリックはチキータと比べて、回転が少なくスピードが速いという特徴があります。今はほとんどの選手が相手のチキータ対策に練習時間の多くを割くため、フリックを取り慣れていません。そのため、モーレゴードのフリックは相手にとって大きな脅威でしょう。
明日の決勝は樊振東(中国)ということでかなり厳しい相手ですが、モーレゴードには今日のように積極的なプレーで挑んでほしいと思います。
(取材/まとめ=卓球レポート)