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卓球 宇田幸矢がブンデスリーガ挑戦で見つけた試練を乗り越える鍵

 ドイツ・ブンデスリーガ2022-2023に1部ケーニヒスホーフェンから出場している宇田幸矢(明治大学)。パリ五輪の国内選考が激化する中、あえて海外リーグを研鑽の場に選んだ宇田のチャレンジはどのような実を結ぶのか? 現地で取材したスポーツライター高樹ミナ氏のレポートをお届けしよう。

 ブンデスリーガ2022-2023に男子1部のケーニヒスホーフェンから参戦している宇田幸矢がシーズン前半戦を終え12月23日に帰国した。
「海外へ行ってさまざまなタイプの選手と試合をし、経験を積むことが強くなる道」と決意した宇田は10月にドイツへ渡り、9日のグリューベッターズバッハとのデビュー戦で1勝を挙げ一旦帰国。11月24日に再び渡独し、12月21日までに5戦に出場した。
 ブンデスリーガはシングルス4本とダブルス1本の計5本で戦う団体戦だ。世界ランキング23位でチーム最高位の宇田は計3戦でシングルスに2点起用され2勝7敗。ダブルスで1勝を挙げたが厳しい結果となった。

自身4戦目の古豪フルダとの対戦。1番でフィルスに手痛い負けを喫した宇田は、5番のダブルスで快勝


「ダブルスは絶対に勝つ自信があった」と宇田。ケーニヒスホーフェンが地元のオルトと息のあったコンビネーションを見せた


 ブンデスリーガに初参戦した日本の選手が初めから白星を挙げるのは相当に難しい。何しろ中国を除く世界のエース級が集まる欧州最高峰のプロリーグなのだ。結果を出せなければ来季の契約は保証されないシビアな世界で選手たちはしのぎを削る。
 対戦相手のプレースタイルも驚くほど多彩で一筋縄でなく、宇田は初めての環境に飛び込み洗礼を浴びた。
「キツかったですね。最後の1ポイントが取れなかったり、勝てる試合で勝ちきれなかったりして、どうやって勝てばいいのか......。勝てるイメージが持てなくなりました」

 そもそも宇田の不振は2年ほど前から続いている。2020年全日本選手権男子シングルスで優勝し日本一に輝いた直後、腰痛が悪化。そこから全く練習ができなくなり、そうこうしているうちに世界は新型コロナウイルスのパンデミックに飲み込まれた。
 2020年後半にようやく国際大会が再開されたが、宇田は2020年9月のWTTスターコンテンダー・ドーハ男子シングルス1回戦でアポロニア(ポルトガル)のYGサービスに対応できず、ゲームカウント1対3で敗退。
 これを機に得意のチキータだけでなくストップやツッツキからの展開やラリーでもフォアハンドドライブの強打だけでなくブロック技術を身につけ得点の幅を広げようと努めた。だが、弊害が出た。
「細かい技術に偏って動きのスピードが落ちてしまい、守るときと攻めるときの連動がうまくいかなくなったんです」
 自分の良さが消えたと嘆く宇田。だが、その一方で以前から危機感があり、「リスクのある卓球だけでは安定感に欠けるし、相手がうまければ崩される可能性は確実に上がる。このままでは絶対に壁に当たる」と考えていたという。

デュッセルドルフで練習する宇田。ECL参戦中だった張本智和の姿も。左はアサール(エジプト)


 11月上旬に開かれた2022全農CUP TOP32船橋大会の初戦で英田理志(愛媛県競技力向上対策本部)に負けた後、再びスピードを上げる練習に取り組むも、細かい技術の修得とのバランスは未だ取れずにいる。
 それでも、「やっていることは間違っていない。実際、一つ一つの技術は良くなっている」と手応えを口にする宇田。今はそれをどう実戦に結びつけるかに腐心する。
 ブンデスリーガの試合でも例えば、無理にチキータに行こうとせずストップレシーブを使ったり、長いツッツキを入れたりしながら、細かい技術の感覚をつかもうとしていた。
 
 その様子をじっと見つめていたのが、チームメートのバスティアン・シュテーガーだ。41歳にして現役で活躍するシュテーガーはドイツの皇帝ティモ・ボルと並ぶレジェンドで、プレーに派手さはないが競り合いで勝ち切る粘り強さと勝負強さに定評があり、人柄の良さでも人気を集める。2012年ロンドン五輪と2016年リオデジャネイロ五輪のドイツ男子団体銅メダル獲得にも大きく貢献した。

 その大ベテランが宇田に伝えたことがある。宇田はこう明かす。
「自分のプレーが噛み合わないっていう話をバスティ(シュテーガーの愛称)に聞いてもらったら、『選手人生は長いから勝てる時期と負ける時期が大きく分かれる時がある。そういう時にどう戦って、どう勝ちに結びつけていくか。たとえ負けが続いてもめげずに、強い気持ちで勝ちにこだわり続けるんだ』と言われました。バスティの言葉、刺さりました」

 さらに技術面や戦術面においても、「うまくいかないのは、ほんのちょっとの差」と言い、宇田の課題に沿うような台上技術やレシーブ技術などを教えてくれたくれたという。その時、宇田は自身の凝り固まった考えに気づいたそうだ。
「自分は『こういうボールは、こう打つしかない』とか『こういう展開になったら、こうするしかない』と思っていたんですけど、バスティの考え方はクリアで、例えば、僕が打球点を落とさないと打てないと思っていたボールも『落とす必要がない』と言うんです。あぁ、そういう感じでいいんだって、自分の固定観念みたいなのを取り払ってくれました」

勝利を挙げたケーニヒスホーフェン。左から板垣孝司ヘッドコーチ、シュテーガー、ゼリコ、宇田、オルト

 シュテーガーに伝授された技術を宇田はシーズン前半の最終戦となったミュールハウゼン戦で使った。その効果はてきめんで、宇田が任された2点のうち2番のメンゲルには相手の得意なYGサービスに分があり敗れたが、4番のエース対決では、10月の世界卓球2022成都男子団体グループリーグで張本智和に唯一の黒星を付けたO.イオネスク(ルーマニア)にフルゲームで勝利。チームを勝利へと導いた。
 ちなみにシュテーガーも1番でO.イオネスクをストレートで下しており、宇田はその戦いぶりを目の当たりにして、「場面場面でしっかり試合をコントロールしていて、堂々としているところも勉強になります。自分は調子が上がらず迷いながらプレーしていたけれど、バスティのように集中力を切らさず最後まで勝ちにこだわりたい」と、ここ最近では見たことのない闘志を瞳の奥に燃やしていた。

 世界ランキング23位の宇田は日本男子2番手(2022年第51週現在)につけながら、国内のパリ五輪代表選考ポイントでトップ10圏外と厳しい立場に置かれている。巻き返しにはもう一山、二山、試練を乗り越えなくてはならないだろう。
 ブンデスリーガに挑戦したことで見えた微かな光を、現状を打破する鍵にできるかどうか。それは本人の踏ん張りにかかっている。

シーズン前半最終戦を勝利で飾り喜びを爆発させる宇田。手を差し伸べたのはドイツの英雄シュテガーだった
(写真=TSV Bad Königshofen)


(文・写真=高樹ミナ/スポーツライター)

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