間もなく世界卓球2023ダーバンが5月20より南アフリカのダーバンで開幕を迎える。
アフリカ大陸での世界卓球開催は1939年のカイロ大会以来で、南半球での開催は初だ。
卓球レポートでは大会に先駆けて、世界卓球2017デュッセルドルフでベスト16、世界卓球2019ブダペストでベスト8という好成績を残し、世界のトップ選手たちとの豊富な対戦経験を持つ加藤美優(吉祥寺卓球倶楽部)に、女子シングルスと女子ダブルスの見どころを聞いた。
女子シングルスの見どころ前編では、加藤美優が見た世界卓球という舞台と、今大会にエントリーされている中国選手についての話を聞いた。
私が経験した世界卓球という舞台
私は世界卓球2017デュッセルドルフ、世界卓球2019ブダペストの2回、女子シングルスに出場しました。いずれも国内の選考会で優勝して出場権を獲得したので、うれしかったですね。ただ、大変な思いをして出場枠を手に入れたので、特に初出場のデュッセルドルフ大会の時は、うれしいと同時に本番への不安もありました。
でも、事前合宿の練習では、そんなにピリピリした雰囲気もなく、普通に選手同士で練習もしましたし、ご飯もみんなで食べたりという感じで、リラックスできました。ほかの選手もプレッシャーで押しつぶされそうという感じではなかったと思います。
また、世界卓球はほかのワールドツアーなどと違って、食事もチームが用意してくれて、大会期間中、毎日日本食のお弁当が支給されていたので、最後まで疲労感がないままプレーできたのを覚えています。私の場合、海外に長期滞在していると食が細くなってくるので、助かりましたね。
実際に大会が始まってみると、もちろんそこで勝つことが目標ではありますが「世界選手権に出られた」という達成感のようなものはありました。それまでも世界ジュニア選手権大会などで日本代表として国際大会でプレーしていましたが、ジュニアの時の方が勝たなければいけないというプレッシャーも大きかったし、ほかの選手と比較されることが多かったので、精神的には世界卓球の方が楽でしたね。
私が出場した2大会とも、大会序盤は第2会場での試合だったので、メーン会場の方で試合をしたいというのもモチベーションになっていました。ブダペスト大会では、前回のベスト16を上回ることが目標でしたが、3回戦で鄭怡静(中華台北)に勝って、4回戦で同じ日の夜に陳思羽(中華台北)にも勝つことができました。2試合目は体力面で不安がありましたが、すごく集中できて完璧に近い内容で勝てたのでうれしかったですね。普段は試合を楽しいと感じることはありませんが、あの時はすごく楽しくプレーできたのを覚えています。
日本は競争が厳しいので、世界卓球に出場するだけでも大変ですよね。その中でものすごい大変な試合を乗り越えてきているので、それも自信になってメンタル面でもいい状態で臨めたと思います。
余談ですが、ブダペスト大会の時に印象的だったのが、シングルスのドローの中継をホテルの部屋で見ていた時に、3回戦で石川さん(石川佳純)かひらみう(平野美宇)か美誠ちゃん(伊藤美誠)か鄭怡静と対戦する組み合わせになってしまったんです。日本人同士で当たるのはどうしても嫌だったので、そこが一番緊張しました。それで、結果的には鄭怡静になってほっとしたのをよく覚えています(笑)
優勝候補筆頭は中国のトップ3
王曼昱、孫穎莎、陳夢
さて、世界卓球2023ダーバンでの優勝争いを考えたときに、やはり外せないのが、中国勢、その中でも東京オリンピックチャンピオンの陳夢、前回(世界卓球2021ヒューストン)王者の王曼昱、決勝を争ったライバルの孫穎莎の3選手でしょうか。
この3人のプレーの特徴を見ていくと、陳夢は、とにかく強いボールに強いです。中国人選手同士のパワー対パワーの対決でも安定感で相手を上回っている印象です。パワーがあってピッチも速いので、孫穎莎もラリーで振り回されていることがよくありますね。私が陳夢に勝った時は、サービスやレシーブで崩すことができました。長いラリーになってしまうと相手の方が強いので、ラリーになる前に得点することがポイントだと思います。ラリーになったら陳夢の強さは中国選手同士の中でも頭1つ抜け出ていると思います。
王曼昱は、対戦してみると、とにかく身長差やリーチの差を感じさせられます。左右に振り回しても全然抜けないし、相手を台から下げるところまで追い詰めてもボールに手が届いてしまうので、そこから盛り返されてしまう。圧倒的なパワーがあるというわけではありませんが、とにかく抜けなくて、前でも後ろでもプレーできるので、1点を取るのが大変な相手です。
孫穎莎は安定感があります。小柄だけどパワーがあって、フルスイングでこちらが絶対に取れないようなボールを打ってくるし、フィジカルも強くて、決まりそうなボールに対してフォア側に飛びついた時でもすごいボールを打ち返してきます。ただラリーに強いだけではなくて、スーパープレーも決めてくるので、なかなかこちらが主導権を取りづらく、やりにくい相手です。
そのほかの中国選手も強く、王芸迪は、バックサイドが特に強くて、サイドを切るようなボールにもうまく対応していて、バックハンドは私もお手本にしているところがあります。ラリー戦に強くて、安定感も増してきているので、勝ちにくい相手だとは思いますが、上の3人に比べると異質型やカット主戦型などの変化に弱いところはあると思います。
陳幸同は、陳夢と同様、強いボールに対して強いタイプの選手です。ものすごいパワーボールはありませんが、ラリー戦に強く、打っても打っても決まらないという感じで、打ち勝つのは難しいですね。ただ、陳幸同もジュニア時代から見ていますが、カット主戦型には苦手意識があるのではないかと思っています。
優勝という点では、中国の上の3人が有力ですね。変化にも対応できるし、相手選手の対策もきっちりしてくるので、簡単には崩せないと思います。
(まとめ=卓球レポート)