欧州卓球クラブナンバーワンを決める「ヨーロッパチャンピオンズリーグ(ECL)男子2023-2024シーズン」の第1ステージで、オーストリアの強豪ウィーナー・ノイシュタットがAグループを1位通過。同チームから初出場の上田仁も9月23、24日の2日間で第2ステージ進出に大きく貢献した。
A〜Dまで4グループあるうちAグループのウィーナー・ノイシュタットは4チーム総当たりのリーグ戦を3戦全勝で終えた。次の第2ステージは3チームずつ4グループで、各グループ1位の4チームが決勝トーナメントで王座を競う。
ちなみに昨シーズンは張本智和(智和企画)が"銀河系軍団"と呼ばれるドイツのノイウルムからオフチャロフ(ドイツ)、林昀儒(中華台北)、モーレゴード(スウェーデン)らとともにECLに初参戦し話題となったが、惜しくも準決勝でドイツの古豪デュッセルドルフに敗れた。なお、決勝ではザールブリュッケン(ドイツ)がデュッセルドルフを破り初優勝を飾っている。
Aグループの第1ステージ、ウィーナー・ノイシュタットの試合はクロアチアのドゥブロブニクを舞台に3試合が行われた。
世界遺産にも登録されている要塞都市ドゥブロブニク。世界有数のビーチリゾートとしても人気なことから、「卓球の試合をやるところじゃないですよね」と上田も思わず苦笑いだ。
2日間で3試合全てに出場した上田は5戦3勝という成績。
1試合目はハンガリーのカロ・メーヘ戦に2番で登場し、初戦の緊張もある中でうまくデメテル(ハンガリー)のミドルを攻め、3対0で危なげなく勝利。チームもストレートで勝って幸先のいいスタートを切った。
しかし、同日夜の2試合目は地元チームのリベルタス・マリンコール(クロアチア)と大激戦に。
上田は1番に起用されたが、相手チームのエース、チピン(クロアチア)にゲームオールで敗れECLで初黒星を喫した。最終ゲームは6点先取のジュースなし。慣れないスピード決着とあって多少の戸惑いがあったようだ。
だが、続く2番ハニン(ベラルーシ)と3番コイッチ(クロアチア)とチームメートが勝ち、上田にバトンをつなぐと、上田もそれに応えるように今度はシモビッチ(クロアチア)にストレート勝ち。チームは2勝目を飾った。
そして、迎えた翌日の最終戦。第2ステージ進出をかけた大一番はポーランドのグヴィアズダと対戦した。今季、高木和卓(ファースト)が在籍するチームだ。
再び1番と4番を任された上田は、またも1番でゲームオールにもつれ込んだが、6点先取のルールにも慣れて最終ゲームは6-0で鮮やかな勝利。続く2番のウィーナー・ノイシュタットの大黒柱コイッチも、持ち前の闘志むき出しのプレーで相手チームのエース、ウルス(モルドバ)に立ち向かったが、1ゲームしか奪えず敗れた。
すると3番のバン(クロアチア)が気を吐き、ウルスと並びエース級の高木和にゲームオール6-4で勝利。変則オーダーで勝負をかけてきたグヴィアズダの作戦を一蹴し、チームに勢いをもたらした。
ここで上田が再登場。1次リーグ通過に王手をかけた重要な局面で、相手はエースのウルス。
威力のある両ハンドが武器のサウスポーで鋭いチキータもあるウルスは、「一発で決めてくる怖さがあってプレッシャーだった」と上田が話すように、特に上田のバック側に何本もパワードライブをたたき込みポイントを奪った。
この試合も最終ゲームに突入。3点を先取された上田は落ち着いて3-3に追いつくも、あと一歩及ばず4-6の僅差で惜敗した。
ベンチで悔しさを押し殺す上田。
一方、チームの命運を託された5番の熱血漢コイッチは過去の対戦成績で分の悪いムッティ(イタリア)と渡り合い、上田もコイッチの我慢のプレーに必死で応援を送り、コイッチはストレート勝ちを収めた。
この勝利でウィーナー・ノイシュタットの第2ステージ進出が決定。
大会本番のわずか5日前に初めてチームに合流し、クロアチアのザグレブで3日間の合宿を経たのみの上田だったが、勝利の瞬間、まるで長年そこにいたかのようにチームに溶け込み、ともに激戦を乗り切った仲間たちと喜びを分かち合った。
2日間で3試合、自身は5戦をプレーした上田は「団体戦のシングルスでこんなに試合をしたのは約1年ぶり。久々に楽しかったし、体がバキバキです」と疲労困憊(こんぱい)ながらもすがすがしい表情。
「初めてのチャンピオンズリーグで試合に起用してもらってプレッシャーもありましたし、最後の3試合目、自分が勝って終われなかったのが少し複雑です。でも、熱いチームメートたちがみんな1点ずつ取って勝てて本当に良かった。ヨーロッパでは40代の選手も多くて、僕が1試合目に当たった選手は46歳。だから僕が31歳だと言うと『おぉ、若いね』と言われます。ドイツに来てまだ1カ月ちょっとですけど、自分の気持ちが『意外とやれるな』というマインドにどんどんなっていて、すごくいい方に作用しています」(上田)
一方、惜しくも第2ステージ進出を逃したグヴィアズダの高木和は「僕が勝って左のエース(ウルス)が2点取るつもりだったんですけど、僕が負けちゃったからチームが負けたみたいなもの」と悔しさをにじませ、こう続けた。
「僕もECLは初めてで、最後の5ゲーム目がデュースなしの6点先取だから、ちょっと考えないとダメだと思いました。悔しいですけど、これからポーランドスーパーリーグなので落ち込んでいられない。今回悪かった点を頭に入れて次の試合に向かいたいです」
高木和はすぐさまポーランドへ戻り、30日に行われるスーパーリーグのボゴリア戦に出場予定。ボゴリアには今シーズンから同リーグに参戦している神巧也(ファースト)がおり、日本人同士の対戦になる可能性もある。
上田も新たな拠点のドイツ・バイエルン州バート・ケーニヒスホーフェンへ帰っていった。
まずフランクフルト空港に降り立ち、そこから鉄道でブルツブルク駅を経由してシュバインフルト駅まで移動する。バート・ケーニヒスホーフェンには鉄道が通っていないため、シュバインフルトからはバス移動だ。
8月に家族でドイツへ来た時には板垣孝司監督がチームの車で迎えに出たが、いつまでも「お客様」ではいられない。今回は迎えを断り、初めて自力で帰宅するという。
「ドイツへ来たばかりの頃はかなり不安でしたけど、ちょっと逞(たくま)しくなりました。日本で過ごす1カ月よりも濃くてタフな経験ができています」と上田。
思い起こせば、本来出場するはずだったドイツ・ブンデスリーガの前半戦に、チームの選手登録ミスで出られず、急きょECLを戦うことになった。
当時は「頭が真っ白」と狼狽(うろた)えていた上田だが、今は見違えるように生き生きとしている。環境が人を作るとはまさにこのことを言うのだろう。
ECLの第2ステージの組み合わせは9月27日の抽選会で決まる。
(文・写真=高樹ミナ)