コンピューター制御ではバラつきが出てしまう。最後は職人の腕の世界だ
ゴムはまるで生き物だ。環境の変化によって、刻一刻とその性質を変えていく。
スポンジの試作を繰り返していた時期、試作を行う部屋は室温を正確に管理していたが、室内に置いた空調の向きひとつでスポンジの品質にバラつきが出ることさえあった。
原料のゴムにしても、自然由来の天然ゴムは品質が一定ではないので、そのバラつきも加味しなければならない。ラバーに使用する天然ゴムは、東南アジアから輸入した最高級品の中から、さらに品質が安定しているものだけを厳選しているが、それでもバラつきはある。
「同じ原料、同じ薬品を使っても、初心者とその道20年の職人とでは仕上がりが違います。ずいぶんアナログなことをやっているようだけど、蕎麦打ちと一緒ですよ。まさに職人芸の世界です」(山崎)
スポンジは機械の微妙な「クセ」にも影響を受ける。全く同じ設計、同じ部品で作られている機械にも「個性」がある。
例えば、スポンジをプレスする機械。「今日は、1号機は30分、2号機は29分30秒」というように、秒単位で加熱する時間を調整する。あるいはスポンジのゴムを練るローラー。ローラーを加熱したり、逆にローラーの中に水を流して冷やしたりしながらゴムを練り上げていくが、機械によって微妙なクセがある。温まり方、冷え方ひとつで品質が変わってくるのだ。
試作の現場でも、生産の現場でも、空調や排気・吸気を24時間、完璧に近い状態でコントロールしていても、最後の微調整は人間の手で行わなければならない。ゴムという繊細な材料に対して、最後にモノを言うのは職人の腕だ。
コンピューター万能の時代、人間が生産現場から姿を消しつつある時代に、山崎は満々の自信を込めてこう語る。「すべてをコンピューターで制御しようとすると、逆にバラつきが出ると思いますよ」。
バタフライでは社内で資格制度を設けており、設備や機械によっては数カ月間の研修の後、資格を取得しなければ操作ができないという。「ゴムを練るローラーのように、操作する上で危険なものがあるからですよ」。研修で後輩たちを指導する土屋はそう言うが、相応なトレーニング期間も必要ということだ。
「うちの研究開発チームのメンバーは、非常に慎重ですね。性能をテストした数値を見て、私が『これならすぐ発売できるんじゃないか』と思っても、『品質面での課題はまだまだある』『クリアしなければならない』という声が上がってきます」と久保は言う。「そして結果的に、尖った性能というか、ラバーの特徴が薄れてしまうという失敗も何度も経験しています。それくらい、バタフライの信念として『品質へのプライド』があるんです」(久保)。