今後は選手の方が良いと評価する要素を科学的に解明していきたい

発売当初の売れ行きこそ鈍かったものの、2008年9月にスピードグルーが禁止になったことを境として、記録的な大ヒットを飛ばす『テナジー』。
それまでのハイテンション ラバーと一線を画しているのは、プレースタイルの枠を超え、幅広い戦型の選手に受け入れられたことだ。裏ソフトラバーとしての圧倒的な総合力。それに大きく貢献したのが、新しい評価システムであることは言うまでもない。しかし、カット主戦型にまで支持を広げたことは、研究開発チームにとっても想定外だったという。当時、研究開発チームのマネジャーだった久保真道(現・マーケティングチーム)はこう語る。
「カットを切って得点を狙うプレースタイルのカット主戦型が減ったことが、理由として挙げられると思います。最近はカット主戦型にも攻撃力が求められる傾向があり、弾まないラバーを使うカット主戦型は非常に少なくなりました。
私は、カット主戦型にはボールを薄く捉えられてツッツキがすごく切れる『テナジー25』が合うと感じていたのですが、朱世赫(韓国)をはじめ、回転の影響を受けにくい『テナジー64』(現在は『テナジー05』を使用)を選ぶカット主戦型が多かったですね」


当初は『テナジー64』、現在は『テナジー05』を使用する朱世赫(韓国)。フォアの攻撃も強烈な、世界最強のカットマンだ

2013年にはシリーズ4作目となる『テナジー80』を発売。すでにスプリング スポンジと粒形状の相性、発揮される性能の全体像は把握できており、『テナジー05』と『テナジー64』の中間性能というユーザーのニーズに応える製品開発ができた。粒形状として、粒の直径は3枚とも共通の1.7ミリだが、粒の高さや間隔に細かい調整を加えた。
新しい評価システムは、実際の選手の打球感覚に近づくことができた。しかし、ハイスピードカメラで撮影したものを物理的に解析するのと、打球時の打球音に対する聴覚、手に伝わる振動、打球したボールの軌道などに対する視覚の3つから総合的に判断する選手の感覚はやはり違う。「例えば打球音が鼓膜から神経回路を通じて脳に行く生理的な影響があり、その情報を脳がどう整理するかという心理的な影響もあります。まさに選手によって千差万別なんです」(西田)。
株式会社タマスの第5代社長に就任した大澤卓子は、「今後は選手の方が良いと評価する要素を、科学的に解明していきたい」と語る。「評価システムの進化というのは、大きなテーマです。そこには時間や労力、人員も割いてきましたし、相当な投資をしてきました」。
14年のプラスチックボール導入に際して、あらためて『テナジー』の機械測定を繰り返した。導き出された結果は、セルロイドボール時代と変わらぬ『テナジー』の優位性を証明していた。

同時に、品質管理にも力を入れている。現在のスプリング スポンジは、ほぼ狙った硬度にスポンジを焼き分ける高い技術力があり、ルールで定められた「最大4ミリ」というラバーの厚さも厳守されている。
「トップシートに製品の個体差はほとんどありませんが、ミクロレベルで見れば、ほんのわずかな厚みの差があります。それを検査した上でスポンジにセットし、わずかでも厚いトップシートは、わずかに薄いスポンジと合わせています。0コンマの世界まで修正をかけていく。その点は、相当シビアにやっています。
スポンジの厚みの履歴も残っていますし、最終的なラバーの厚みもしっかり測定しています。すべては性能のバラツキをできるかぎり抑え、確実にルールに合致したラバーを作るためです」(大澤)
『テナジー05』の発売から8年が経過した今、バタフライでは次世代ラバーの研究開発も進められている。
石橋をたたいて渡るように、慎重に歩みながら、時に従来の方法にとらわれず、大胆に突き進む。そして、バタフライは次なる「常識」の壁に挑戦していく。

【卓球王国 2017年2月号掲載】
■文中敬称略
取材=卓球王国
撮影=江藤義典