最初に選んだラバーはなぜ『テナジー05』ではなかったのだろうか?

日本のみならず、数多くの世界トップ選手が使う『テナジー05』。高い弧線と強い回転を生み出す『テナジー・シリーズ』のトップラバーを、宇さんは息子には使わせなかった。もちろん、試さなかったわけではないが、まだ小学生の張本にとって『テナジー05』は重く、打球感が硬すぎた。
「私が試打した時に『テナジー05』はスピードが速くて良かったのですが、智和はまだ体が小さかったので、パワー不足になり、ラバーの性能を引き出せないと判断しました。用具は威力よりも安定性が大事です。そして、小学生の選手にとって、重量も注意しないといけません。だから、フォア面に『テナジー64』を選び、バック面は特に安定性と重量を考えて『テナジー64FX』のアツにしました。軟らかいスポンジにすることで、少しでも重量を軽くしたかったのです」と宇さんは語る。
打球感の硬いラバーは練習時には確かに良いボールを打つことができるが、打球点が遅れたときや十分な体勢で打てないときにボールが飛ばない。何よりも安定感を軸に用具を選ぶこと、それは今も変わらないという。

張本自身も操作性の良さを一番に考えていた。「最初に『テナジー05』を使った時はボールが落ちてしまい、やりづらいと思いました。そのときはまだ小学6年生だったので、パワーがなくて、使いこなせませんでした。父が選んだ『テナジー64』は打球感が軟らかくて安定感があったし、スピードも出るので使いやすかったですね」と当時を振り返る。
スポンジ硬度は同じだが、トップシートの粒形状が違うふたつのラバー。『テナジー05』は打球感が硬くてグリップ力を感じ、『テナジー64』は打球感が軟らかくて食い込みを感じることができる。張本は15年4月に『テナジー64』と『テナジー64FX』を使い始めた後、同じ組み合わせのままラバーの重量を上げていった。1グラム、2グラムとゆっくり重量を重くしていくことにより、それに比例してラバーが硬くなっていく。それは張本の筋力とも比例していた。

バック面は15年9月に『テナジー05FX』に変更。そして、すぐにスポンジの厚みをアツからトクアツにした。ラバー、そして厚みの変更はさらにスピードを求めたためだ。重量が重くなっても「振れる」と宇さんが判断した時、ラバーはより打球感の硬いものに変更されていく。それは張本が知らないところで宇さんが調節していた。
特にチキータを使い始めてからバックハンドのスイングスピードが飛躍的に上がっていき、『テナジー05FX』でもしっかり食い込ませて打てるようになっていた。パワーの向上だけではなく、打法が増えればラバーへの要求も変わる。より強い回転を求めるチキータには『テナジー05FX』の方が適していた。

強い回転力を持ちながら、抜群に安定する張本のチキータは、優勝した世界ジュニアでも猛威を振るった。横回転が強く、相手のタイミングを外して曲がるチキータ、上回転を強くかけて打ち抜くチキータが次々と決まる。そして、張本はチキータでラリー戦に持ち込むだけでなく、ブチ切れのツッツキも混ぜるため、相手は打ちあぐむ。伸びるボール(チキータ)と落ちるボール(ツッツキ)の質が高いことが張本の特徴といえるだろう。ラリーになる前に優位な展開を作るためにはコースを狙える安定性はもちろん、相手を追い込むスピードが必要だ。バックハンドのスイングスピードが上がったと判断した宇さんは早い段階でラバーを変更させたのだ。

一方でフォア面のラバーは長い間変えずに、調整をしながら『テナジー05』を試しては戻る。そして、16年3月には『テナジー80』に変更した。水谷隼(beacon.LAB)でも「使いこなすまで1年かかった」と語った『テナジー80』だが、張本は半年で「もっとスピードがほしい」と感じていた。
「スイングスピードが上がっているけど、ボールが速くなっていない。『テナジー05』に変える時が来た」と宇さんの目には映っていた。