理にかなった用具選び用具の変化が進化の証

用具選びでは、ラバーのみならず、ラケットも外せない。宇さんは「ラケットもラバーもコンセプトは同じ」と言う。「子どもですからラケットは扱いやすいものを使わせたい。ラバーと同じで安定するものが良いと思います。智和は特殊素材が外側に配置された打球感の硬いラケットではコントロールできない。技術力が上がって、パワーが上がってもコントロールを大事にしたいですね」。
宇さんが張本のために最初に選んだラケットは『福原愛プロ ZLF』。その後は弾みを少し向上させた『インナーフォース レイヤー ALC』をベースにした特注ラケットを使っている。前陣ブロックとカウンターで振り回す張本にとって、打球感の硬いラケットでの飛距離はそれほど必要としない。
「打球感の硬いラケットだと回転がかかる前にボールが飛び出してしまい、打球が落ちてしまいます。今はボールをつかむ感覚のラケットの方が使いやすい」と、張本は回転のかけやすい現在のラケットに信頼を寄せる。


張本が使用するラケット。『インナーフォース レイヤー ALC』のブレードにグリップは特注

張本の用具選びを見てきた久保真道はこう語る。「非常に理にかなった用具選びの順路だと思います。ラケットは飛びを抑えたコントロールが良いものを選び、その後にじっくりと弾みを上げています。そして、ラバーは当時も今も、スイングスピードを考えると実に適正に選んでいます。私たちが想定するより『テナジー05』を使い始めるのが早かったですが、しっかり使いこなせていますね。
宇さんは用具選びでも何でも、本当に真剣です。仙台から埼玉県所沢市にあるバタフライ・テックに来られて試打をした時も、夕方にはまた仙台で練習があるからと言って帰っていきました。本当にストイックで意識が高い。プロ中のプロだと思います。目標が高いので、私たちも相当な緊張感を持って接しています」。

張本をサポートするバタフライにとって、彼が強くなればなるほど求められるものが大きくなっていく。その要望に応え続けることは、決して簡単なことではない。担当の馬佳も次のように語る。「両親は彼のことに関してはひとつも、少しも失敗したくないのです。お母さんの凌さんは彼のメンタル指導をしています。技術はいろいろなコーチが付いていますが、彼の心の変化を理解してアドバイスできるのは両親しかいません。もちろん、本人しか分からないこともありますが、その中でベストを尽くそうという姿勢があります。私たちはご両親から卓球以外のことでも相談を受けていますし、これからも親身になってサポートしていきます」。
張本智和の活躍を期待する人は多く、今後の日本卓球界の主軸になることは間違いないだろう。そして、これからも彼は最適の用具を選び続けていく。用具の変化こそ、彼がさらなる進化を遂げている証拠なのだ。


父と子の強い信頼関係が怪物・張本智和を誕生させた

【卓球王国 2017年3月号掲載】
■文中敬称略
文=卓球王国
写真=江藤義典