元全日本王者の梅村礼が見た世界卓球ハルムスタッド2018。女子決勝、日本対中国の戦いぶりを聞いた。
伊藤は勝ちたい気持ちがアグレッシブなフォアハンドに表れていた
勝ちたいという気持ちが全面に出た好試合だった
トップの伊藤対劉詩雯は、伊藤が思い切ってプレーしたの一言に尽きますが、特に、レシーブからの読みがよかったですね。また、伊藤のチキータ、フォア前に来たボールなどもチキータで処理していましたが、このチキータに劉詩雯が対応できていなかったので、2ゲーム目からはほとんどバック側かミドルにロングサービスを中心に出してくるようになりました。伊藤はそれを読んで、勝負どころでは回り込んでレシーブ強打していました。試合勘も冴えていましたし、内容的には押せ押せで進めていたと思います。
スピード対スピードの勝負では伊藤も劉詩雯に負けていませんでしたが、要所で伊藤が回り込んでフォアハンドで攻撃できていたことが勝利につながった要因のひとつだと思います。劉詩雯は伊藤のフォア側にロングサービスを1本出しておけば、伊藤の思い切った回り込みを防げたかもしれませんが、それがなかったので、伊藤は最後まで思い切って回り込むことができました。
最後は8-10とマッチポイントを握られましたが、開き直るしかない場面ですね。伊藤はそこでもミスしたらしかたないというくらい思い切りよくプレーしていまたした。「勝ちたい」という気持ちが全面に出たいい試合だったと思います。逆に劉詩雯は最後考えすぎという印象でした。出すサービスを迷った感じがあったり、3球目を入れにいったり少し弱気になっている部分も見受けられました。この1番で流れはぐっと日本に傾きました。
「速さ」に「緩急」が加われば平野はもっと強くなる
平野は丁寧に勝ったことがありますが、丁寧は一度負けてから対策をばっちり立ててきていますね。それに、平野のスピードに振り回されても下がらないのはさすが世界チャンピオンといったところでしょう。普通、あのスピードに振り回されたら下がらざるを得なくなりますが、自分の距離から一歩も引かなかったことが丁寧の強さですね。一方、平野は攻めてはいましたが、「速い」だけになっている場面がありました。あのラリーの中で、速いボールのあとにゆっくりのボールを打つことはとても難しいと思いますが、この先中国選手に勝っていくに「緩急」は絶対に必要です。速いボールには慣れることができますし、練習でも速さには対応できるようになりやすい。なぜ緩急が有効かというと、速いボールに遅いボールを混ぜると、相手の足が止まるんですね。そういうボールを入れないと、丁寧ほどの相手は崩せないですね。あとは、平野はバックハンドで両サイドに打ち分けるのが上手ですが、この試合ではミドルをもっと効果的に突いた方がよかったですね。これも1本入れることで相手の足を止めることができます。中国選手が相手でなければ平野はそうしたプレーができていますが、丁寧に対しては速さで突破しようとしたことが裏目に出たという感じですね。
一度勝った中国選手に2回、3回勝つというのは本当に難しいことです。
朱雨玲のバックに足を止められた石川
今日は少し石川の足が止まっている印象がありました。朱雨玲の得意なバック側にボールを集めて振り回されてしまいました。朱雨玲のバックハンドの守りの堅さ、技の多彩さはなかなか攻略できるものではありません。本来であれば、石川が相手のフォア側をもっと突いて、相手を下がらせた方がチャンスがあったと思います。
昨日、コリア戦であれだけ踏ん張っていい試合をしましたが、今日は彼女の得意な広角打法が出せなかった、出させてもらえなかったというところに敗因があるのかなと思います。特に、ミドルやフォアを突かれたときに体が浮いてしまっていて、その次のボールを上から攻められるという展開がよく見受けられました。自分から攻めるという気持ちと戦術がかみ合わないと中国選手に勝つことは難しいと改めて感じました。
平野はミドル処理に課題。チームとして大きな収穫のある大会だった
平野対劉詩雯は劉詩雯がうまくコースを突いて、特にうまくミドルを入れて優勢に試合を進めていました。平野はミドルを突かれたときに、体が少し起き上がっていたのと、とっさのときにフォアのラケット面が閉じてしまって、ミスを誘われていました。自分から攻めるときはちゃんと開いたラケット面が出ているので、先に攻められたときのミドル処理にはまだ改善の余地があると感じました。。試合を通してミドルから崩されたという印象ですね。
劉詩雯は前半で1点落としてしまったので、気持ちを切り替えていいプレーをしていました。丁寧もですが、平野の速さに対応してくるというのはさすが中国選手というところですね。戦術的な対策も万全でした。逆に言えば、日本もそこまで中国に対策を立てられるところまで強くなったということだと思います。
日本女子は、この試合でもチャンスはありましたが、今後の打倒中国に向けてすごく大きな収穫のある大会だったのではないでしょうか。各々がしっかり自分の役割を果たしたいいチームですが、3人そろって調子がいいということは滅多にありません。いかに決勝にピークを持っていけるかというところが今後の課題になるかなという気がします。
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(写真=佐藤孝弘 文=猪瀬健治)