数多くの選手をトップレベルへと引き上げ、また勝利へ導いてきた邱建新。世界屈指のプロコーチである邱氏が、その深くて鋭い視点で、世界卓球2021ヒューストンの熱戦を読み解く。
今回は、男子シングルス2回戦のディヤス(ポーランド)対張本智和(日本)を解説してくれた。
●男子シングルス2回戦
ディヤス(ポーランド) -7,5,-7,6,-6,8,9 張本智和(日本)
レシーブに苦慮した張本智和。もっとタイミングの早さで勝負したかった
第1ゲームは二人とも良い出足ではなく、特に張本はディヤスのサービスに手こずっている印象でした。しかし、張本はうまくレシーブからツッツキを使ってディヤスのループを誘い、第1ゲームを先制しました。
先制したことで張本が一気に行くかと思いましたが、第2ゲームはディヤスがフォア前サービスやバック側へのロングサービスなどサービスの種類やコースをうまく振り分け、打ち合いでも優位に立って取り返しました。
このように、張本が取ってディヤスが取り返すという形が続き、試合は最終の第7ゲームまでもつれましたが、終始、張本はやや受け身のプレーが目立ち、一方のディヤスは果敢でしたね。第7ゲームのポイント5−4で張本はレシーブを中途半端に入れにいきましたが、このプレーが張本の状態を表していたと思います。
張本の敗因としては、まずレシーブです。
チキータが相手のバック側に集まってしまったことと、バック側に来るロングサービスへの対応がうまくいきませんでした。チキータのコースをもっとフォア側からミドル(センターライン付近)に散らしたかったし、バック側に来たロングサービスに対しては思い切ってストレート(ディヤスのフォア側)を狙うべきでした。そうすれば、ディヤスにもっとプレッシャーを与えることができたと思います。
また、張本はフォア前に来たサービスに対してほとんどバックハンドでレシーブしようとしていましたが、もっとフォアハンドを使っても良かったと思います。フォアハンドの方がバックハンドに比べてボールの長さを見極めやすいので、レシーブからフォアハンド強打で得点できるチャンスをもっと見つけられたのではないでしょうか。
レシーブに加え、張本は台との距離もあまり適切でなかったように思います。
威力を重視するためか張本は少し台から離れてプレーしていましたが、結果的にディヤスの打ち合いに付き合う形になってしまいました。
張本はもう少し前について、「ボールの速さ」ではなく、「タイミングの早さ」で勝負したかったところです。ディヤスは決して振りがコンパクトな選手ではないので、張本は台に近づき、強打ではなく、少し伸ばすようなボールを多く使っていけば、相手の打ち損じを誘うことができたと思います。
いずれにしても、張本にとってはシングルスの初戦ということで、気持ちの入り方や技術の選択などが難しかったでしょう。簡単なことではないと思いますが、気持ちを切り替えて、この後の男子ダブルスと混合ダブルスに臨んでほしいと思います。
一方、勝ったディヤスは、格上の張本を相手にリスクを負った攻めが決まりました。特に、ラリーになったときの思い切りの良さや、ここぞという場面での回り込みフォアハンド攻撃は見事だったと思います。
(取材/まとめ=卓球レポート)