数多くの選手をトップレベルへと引き上げ、また勝利へ導いてきた邱建新。世界屈指のプロコーチである邱氏が、その深くて鋭い視点で、世界卓球2021ヒューストンの熱戦を読み解く。
今回は、男子シングルス2回戦の戸上隼輔(日本)対 ガルドシュ(オーストリア)を解説してくれた。
●男子シングルス2回戦
戸上隼輔(日本) 8,13,8,-4,8 ガルドシュ(オーストリア)
全てのボールでプレッシャーを与えていた戸上隼輔
3回戦の王楚欽には序盤のゲーム奪取が鍵
ラブオールから戸上はものすごく集中していました。「やってやるぞ」という気迫がみなぎっており、自信に満ちた顔をしていましたね。
そのたたずまい通り、プレーも素晴らしいものでした。体のキレやフットワークの速さは圧巻と言ってよく、サービスからレシーブ、ラリーに到るまで、戸上のボールはほとんど全ての場面でガルドシュにプレッシャーを与えていました。
特に良かったのが、相手のドライブに対する両ハンドでのカウンタードライブです。この試合でガルドシュは台からワンバウンドで出てくるかどうか微妙な長さのボールに対するミスが目立ちましたが、それは「中途半端にドライブでつなぐと戸上に強烈なカウンターを食らってしまう」という警戒心が生んだミスでしょう。
この試合では、戸上のベンチに入った田㔟監督のベンチワークも光りました。
田㔟監督は第2ゲームのジュースの場面でタイムアウトを取りましたが、仮にこのゲームをジュースで落としてゲームカウント1対1に並ばれていたら、ガルドシュは経験豊富ですから試合はどう転んでいたか分かりません。
戸上を落ち着かせ、第2ゲームを勝ち切らせたこのタイムアウトは田㔟監督のファインプレーだったと思います。
圧倒的といって差し支えないプレーを見せた戸上ですが、課題も見えました。
戸上は第4ゲームを簡単に落としましたが、それはガルドシュが遅くリズムチェンジしてきた台上やブロックのボールに対して打ちあぐんだためです。
戸上は振りも打球後の戻りも鋭いので、速いボールや早い展開に対しては全く問題ありません。
戸上がさらに勝ち上がっていくためには、相手がタイミングをずらそうと遅く送ってきたボールに対して、しっかりタイミングを計って打てるようになることがポイントの1つになるでしょう。
快勝した戸上ですが、明日行われる男子シングルス3回戦では王楚欽(中国)と対戦します。
中国が次期エース候補として期待を寄せる王楚欽は、戸上にとってかなり手ごわい相手です。ボールの威力はすごいですし、サービスも巧みです。王楚欽はフォア前とバック側へのロングサービスを中心に組み立てて、戸上を崩そうとしてくるでしょう。
決して簡単に勝てる相手ではありませんが、戸上は今日のガルドシュ戦のように集中して、そして自信を持って立ち向かってほしいと思います。
そうして、序盤の第1ゲーム、第2ゲームを連取できれば理想ですが、連取できずともどちらかを取ることができればチャンスが出てくると思います。
(取材/まとめ=卓球レポート)