11月23〜29日にジョージ R.ブラウン コンベンションセンター(ヒューストン/アメリカ)で世界卓球2021ヒューストン(2021年世界卓球選手権ヒューストン大会ファイナル[個人戦])が開催中。
大会5日目は混合ダブルス準々決勝、男女ダブルス準々決勝、男女シングルス準々決勝が行われ、女子シングルスのベスト4が決まった。
<男子シングルス準々決勝>
ボル(ドイツ) -4,5,10,7,-9,7 ジャア(アメリカ)
間違いなく追い風はボルに吹いている。
初戦で中国の周啓豪を破ったボルは、シンガポールの若手パン・コーエンを一蹴すると、4回戦では対戦相手のワン・ヤンが濃厚接触者に認定され、ボルは不戦勝。故障を抱えた体で、カット主戦型の選手との対戦を免れたことの意味はとても大きいだろう。そして、この試合だ。
最初はどこか精彩を欠いているという程度の印象だったが、動きのぎこちなさ、ラリー後にお腹を押さえる仕草などからボルが万全の状態でないことが分かった。そして、痛みに耐えかねたかのように取った3ゲーム目のタイムアウトだ。プレーは続行したが、フォア側のボールに素早く反応すると顔を大きくしかめ、ラリー後には緩慢な動作で呼吸を整えた。
それでも一度ラリーが始まると、ボールはうそのように走った。このような相手に対して、心身ともに何の影響も受けずにパフォーマンスを発揮することが難しいことは想像に難くない。だから、ジャアには万全なボルと対戦してほしかったというのが多くの卓球ファンの本音だろう。
だが一方で、ボルが準決勝に勝ち残ったという事件に心が躍るファンが多いことも事実だろう。いずれにしても、ボルは勝った。今は、準決勝でボルの高いパフォーマンスのプレーが見られることを祈るばかりだ。
●ボル選手のコメント
「今は、試合の内容や勝ち方を考えると、とても不思議な気持ちです。けがもあったので戦術面の工夫や、バリエーションを駆使して得点しなければなりませんでしたが、運良くそれがうまくいきました。自分のベストを尽くして戦いました。カナックには申し訳ないですね。体調が万全ではない人と、特に世界選手権大会の準々決勝で対戦することがどれほど難しいか知っていますから。でも、あきらめず、とにかく戦いました。
正直に言うと、しばらくの間このけがを抱えていました。それほど悪くない日もあれば、今日のように少しずつ悪くなる日もあります。医者や理学療法士の助けを借りて、明日には少しでも良くなるといいです。
今回はドローに恵まれました。初戦の周啓豪戦はいい出来だったし、昨日は相手が棄権だったので体力的にも助かりました。コンディションが良ければ私はまだ戦えると思います。戦術的にも技術的にも、私は今でもベストプレーヤーの一人だと信じています。でも、フィジカル面ももちろん重要な競技なので、しっかり動けなければいけません。
準決勝に進出したからには、もちろん決勝に進みたいですよね。ヒューストンでプレーするのは楽しいですし、観客も非常に熱狂的です。若いアメリカ人選手と対戦しましたが、それでも何人か私のファンが来てくれて、本当に感謝しています」
●ジャア選手のコメント
「試合が終わったばかりなので、何とも言えません。準々決勝でのプレーはとてもエキサイティングだったと思います。でも、やはり経験がものを言ったのかもしれません。彼のテンポやバリエーションの変化にうまく合わせるのは難しく、特に接戦の場面では、彼は常にサービスを変え、配球を変えていたので、私は彼のプレーにうまく合わせることができませんでした。特に第3ゲームや最終ゲームが重要だったと思います。
今大会での自分のパフォーマンスを振り返ってみたいと思います。分析するのが好きだし、そもそも卓球が大好きなので。
この大会の前に、もし準々決勝に進出できたら嬉しいかと聞かれたら、私は『はい、素晴らしい結果です』と答えていたでしょう。でももちろん、準決勝まであと一歩のところで負けてしまったのは悔しいですね。
正直なところ、子どもの頃は世界選手権に出場することすら夢にも思っていませんでした。2014年に初めて世界大会に出場したとき、周りでプレーしているトッププレーヤーたちを見て、とても感動したのを覚えています。世界上位の卓球の国とは見なされていないアメリカ出身の私は、その壁を破ってみせたいと願っています。今、アメリカには若い才能ある子供たちがたくさんいますが、私のパフォーマンスが彼らを刺激することを願っています。今回の世界選手権は、アメリカで初めて開催されたという意味で歴史的ですし、アメリカの卓球界の将来にとって重要な出来事になると思います」
<男子シングルス準々決勝>
モーレゴード(スウェーデン) 11,8,-2,4,-12,7 アルナ(ナイジェリア)
「卓球は面白い」とはさまざまな場所でさまざまな人々によって語られる言葉だが、世界卓球の準々決勝という場で、このような試合が行われるのだから、卓球は面白い。
アルナは卓越したフィジカルをベースに技術・戦術よりも大きなフットワークとセオリーを無視したフォアハンドドライブでここまで勝ち上がってきた。彼よりもバックハンドがうまい日本の中学生はいくらでもいるが、世界卓球でベスト8に入っているのはアルナなのだ。一方のモーレゴードは人を食ったようなキャラクターに加え、横殴りのスマッシュやワルドナーを思わせるフラットなバックハンドなど、オリジナリティーあふれるプレーが魅力の選手だ。
試合は、モーレゴードのリスキーなプレーの精度に寄るところが大きかったが、アルナの粘り強いプレーも素晴らしかった。張本、林昀儒といったシード選手が敗れ、このような異色な選手2人が勝ち上がったことも今大会の特徴と言えるかもしれない。
モーレゴードがボル戦でどのようなプレーを見せるのか。答えはもうすぐだ。
<男子シングルス準々決勝>
樊振東(中国) -8,7,5,8,9 林高遠(中国)
優勝候補筆頭の樊振東がまた一歩頂上に向かって歩みを進めた。並外れた実力を備えながらも、これまで世界卓球のシングルスのタイトルはことごとくチームメートに阻まれてきた樊振東。どれだけ国内で分がよくても油断できないのが世界卓球という場だ。
1ゲーム目は林高遠の思い切った速攻で樊振東のミスを誘い先行したが、2ゲーム目からは落ち着いてじっくり攻めた樊振東が、持ち前の破格の攻撃力で林高遠の速攻を封じ、4ゲーム連取。まさに横綱相撲といった内容で同士打ちを制した。
<男子シングルス準々決勝>
梁靖崑(中国) -4,-12,-8,8,4,8,8 カルデラーノ(ブラジル)
カルデラーノには「こうすれば梁靖崑に勝てる」という明確なプランがあり、それは3ゲーム目まで彼のイメージに忠実に実行されたのではなかったか。
梁靖崑のカウンターを封じる、もしくは精度を著しく下げるほどの両ハンド強打。それが、カルデラーノの取った戦術だ。中陣からの両ハンドの威力、コースは今大会でも随一と言っていいだろう。3ゲームを連取した時点でほとんどの観客がカルデラーノの勝利を疑わなかったのではないだろうか。
だが、梁靖崑はあきらめなかった。それに加え、勝ちを意識したカルデラーノのプレーは明らかにそれまでのアグレッシブさを欠いていた。
梁靖崑は4ゲーム目から、強打をやや控えたカルデラーノに対してそれまで封じられていたカウンターで得点を重ねて3対3に追いつくと、どこか弱気になったカルデラーノにとどめを刺すように自分から攻め続けた。
勝利が決まると、梁靖崑は中国の応援団の声援にこたえて手を挙げて吠え続けた。
(この試合の詳しい解説は世界卓球2021ヒューストン 邱建新が見た世界卓球 男子シングルス準々決勝 梁靖崑対カルデラーノをご覧ください
<男女シングルス準決勝の予定>
18:00 [29日 9:00] 陳夢(中国) 対 王曼昱(中国)
18:50 [29日 9:50] モーレゴード(スウェーデン) 対 ボル(ドイツ)
19:40 [29日 10:40] 王芸迪(中国) 対 孫穎莎(中国)
20:30 [29日 11:30] 樊振東(中国) 対 梁靖崑(中国)
(写真・文=卓球レポート)