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2022年全日本卓球 
前男子NT監督・倉嶋洋介が語る男子シングルスの行方

 いよいよ2022年全日本卓球選手権大会(一般・ジュニアの部)が1月24日より東京体育館で開催される。東京での開催は4年ぶりとなる。
 昨年は、新型コロナウイルスへの感染対策の一環としてダブルス種目が中止されたが、今大会から復活。また、24日から28日までは無観客だが、終盤の29日と30日は有観客で行われる。
 卓球レポートでは大会に先駆けて、男子ナショナルチームの前監督の倉嶋洋介氏(木下グループ卓球部総監督)に、男子シングルスとジュニア男子の見どころを聞いた。
 ここでは、男子シングルスの優勝の行方を占ってもらった。

初戦をどう乗り越えるかがポイント
対戦相手の研究しすぎは両刃の剣

 私が現役選手時代、全日本卓球選手権大会(以下、全日本)に臨むに当たって最も重視していたのが初戦でした。特にスーパーシードの選手の場合、2、3試合をこなして調子を上げてきた選手と対戦しなければいけないので、準備不足だったり、緊張していたりすると、ここで負けてしまうことがしばしばあります。
 ですから、この初戦をどう乗り越えるかをいつも念頭に準備していました。具体的には、対戦相手の動画を見て対策を立て、戦術を複数用意しておくことで、一つの戦術が通用しなかった時にもあわてずにプレーできるようにするなど、余計なことを考えずに自分のプレーのイメージを持っておくことに専念しました。できるだけ緊張しないように、余裕を持ってプレーできるだけの材料を頭に入れておくということですね。
 練習の面では、相当やりこみました。全日本の1カ月前くらいからは故障してもいいくらい練習量を増やして、僕の場合は、大抵ここで肩などを痛めて、それから1週間はゆっくりとした練習で、最後は調整というのがパターンになっていました。けがをすることは望ましくはありませんが、私の場合は意外とそれが全日本前のルーティーンとしてはうまくいっていました。
 いずれにしても、初戦が大事です。あまり上の方を見ていても足をすくわれることがあります。山登りと同じで、足元を見ないで上ばかり見ていると、足を滑らせ、転落してしまいます。しっかりとした準備をして、一歩一歩踏みしめながら登っていく。そしていつの間にか素晴らしい景色が見えるところまで登っていたり、頂上に到達したりしている。まさに「1戦1戦」「1球1球」です。

 初戦以降は、対戦が想定される選手をイメージして練習したり、対策練習もしておきますが、国内の選手の場合は誰がどのようなプレースタイルかは大体分かっているので、前日でも対策は立てられます。逆に、考えすぎることで、思い通りにならなかった時に混乱してしまうので、なんとなくのイメージを持って試合に臨み、対戦して様子を見ながら進めていく方があわてないと思います。
 相手も自分のことを研究してきていますし、今まで使ってきたことのない戦術を使ってくることもあります。例えば、それまでずっとフォアハンドサービスを使っていた選手が、いきなりバックハンドサービスを使ってきた時に、あわてるのではなく、「まあ、そういうこともあるか」くらいの気構えで対策しておいた方がいいと思います。卓球は相手がある競技なので、研究しすぎ、考えすぎは両刃(もろは)の剣になることがありますね。
 国内最高峰の大会「全日本」。特別な雰囲気に呑まれないように、逆に全日本の雰囲気を楽しむことができるようになることが全日本に強い選手になるポイントだと思います。

開催地が再び東京に
コロナ禍の影響は引き続き

 昨年まで3回の全日本が大阪で開催されていたことで、全日本のイメージが大阪の会場(丸善インテックアリーナ大阪)のイメージになっている選手も多いでしょう。今回会場になるリニューアルされた東京体育館は、東京オリンピックで使用されましたが、照明やプレーするところから見える景色や色合いも変わっているので、従来の東京体育館とはかなり雰囲気が違うと思います。慣れるまではやりにくさを感じる選手もいるかもしれませんが、「ここが新しい全日本の聖地なんだ」といい方向に捉えてプレーできるといいですね。
 さらに、今回は1月26日までは会場で練習ができないので、従来はなかった苦労もあると思います。東京近郊に本拠地がないチームや選手は、練習場所の確保などにも苦労するかもしれません。

 昨年に引き続き、コロナ禍で感染対策をしながらの全日本になりますが、どれほど卓球に適していない状況、環境であろうが、そこで勝つ選手が強い選手です。
 例えば、昨年の全日本でベスト4に入った及川瑞基(木下グループ)、森薗政崇(BOBSON)、吉田雅己(木下グループ)は、ドイツで8〜9時間の移動の直後に試合をするなど過酷な条件でプレーをした経験があり、風でボールが揺れる、光が入ってまぶしいなどの多少の不利な条件があっても、淡々と自分のプレーに徹していました。今回もどんな環境であってもハングリーな気持ちで戦える選手が強いことには変わりないと思います。
 ただ、前回はコロナ禍で初の全日本でしたが、多くの選手がこのような状況下での試合に慣れてきていると思うので、昨年ほどイレギュラーな状況を警戒する必要はないかもしれません。
 また、先ほども述べましたが、大会前半に会場での練習ができない中で、朝の試合など1試合目にどう臨むかというのは大事になってくると思います。ラブオールの1本目からどれくらい良い状態で入れるようにするかは今大会の課題になるでしょう。
 今大会も1月28日までは無観客です。選手たちは卓球ファンにいいプレーを見てもらいたいという気持ちがあると思うので、残念ではありますが、そうした中でも高いモチベーションで試合に臨むことができた選手が力を発揮できると思います。

 さて、トーナメントの全体を見渡すと、昨年の王者第1シードの及川は、Tリーグでも好調を保っていて、プレーも進化し、本人もパリオリンピックを本気で目指している中で、今回の全日本でどういう結果を残せるか、去年の優勝がまぐれではなかったということを示せるかどうか、楽しみですね。ただ連覇というハードルは想像以上に高いものだと思います。その高いハードルをどのように超えていくのかに注目です。
 世界ランキング日本人最上位の張本智和(木下グループ)がやはり実力的には頭ひとつ抜け出ていると思いますが、この3年間、優勝候補筆頭に挙げられながらも優勝を取り逃しているので、この3年間の敗因を考えてどう調整できるかがポイントになると思います。
 注目の戸上隼輔(明治大)は、世界卓球にも出場して自信をつけていると思います。昨年出場できなかった悔しさも含めて、相当な覚悟でこの大会に臨んでくるのではと思っています。

自身も好成績を残した全日本について倉嶋洋介監督が語る

【第1ブロック】
Tリーグで好調の及川が優勢か
爆発力のある宇田にもチャンス

 ここからは各ブロックごとの予想、見どころについて述べていきたいと思います。
 第1ブロックは第1シードの及川瑞基が強いとは思いますが、及川のパートには日本代表経験のある村松雄斗(東京アート)と木造勇人(愛知工業大)がおり、他にも若手の強い選手がいるので、組み合わせ的には厳しいですね。その隣の山には、吉山僚一(愛工大名電高)の下に日本リーグで活躍する平野友樹(協和キリン)がいて、スーパーシードの選手は初戦から強敵と当たることが予想されるので、しっかりとした準備が必要ですね。
 その下のパートは世界卓球で肩を痛めていた宇田幸矢(明治大)がどこまで復調しているかが鍵になりそうです。世界卓球後はTリーグにも出場していないので、様子は分かりませんが、試合勘を取り戻すことができれば、優勝まで突っ走るだけの爆発力は持っている選手だと思います。
 対抗の御内健太郎(シチズン時計)は、宇田にとっては怖い存在ですね。去年は張本と大接戦の末に敗れはしましたが、実力のある選手なので、勝ち上がる可能性は大いにあります。
 小林広夢(日本大)と横谷晟(愛知工業大)の2人の大学生がスーパーシードですが、そのパートに、田添健汰(木下グループ)と松平健太(ファースト)と2人の実力者がいるので、この2人が勝ち上がってくる可能性もありますね。松平は守備的な選手ですが、技術的には衰えていませんし、若手の勢いに立ち向かっていくことができれば、勝ち上がることはできると思います。
 近年では、町飛鳥(ファースト)、神巧也(T.T彩たま)、吉村和弘(岡山リベッツ)らが決勝まで行くことがありましたが、そういうダークホース的な存在の選手が出てきてもおかしくないブロックだと思います。

及川はディフェンディングチャンピオンとして全日本に臨む

宇田は持ち前の爆発力を発揮できればV2の可能性も大いにある

ベテランの松平健太も技術的にはまったく衰えを見せていない

【第2ブロック】
本命は日本のエース張本智和
対抗はドイツで経験を積んだ田中佑汰

 強さ的にはやはり、張本が頭ひとつ、ふたつ抜けています。対抗するとすれば、経験値の高い吉村真晴(愛知ダイハツ)か、ドイツで武者修行をして実力をつけてきている昨年ベスト4の田中佑汰(愛知工業大)がどこまでいけるかというところですね。
 張本が警戒しているとすれば有延大夢(琉球アスティーダ)でしょう。Tリーグで敗れたことがあり、怖い存在だとは思いますが、有延がそこまで勝ち上がってくるかどうかにかかっていますね。神巧也、高木和卓(東京アート)、町飛鳥らベテラン勢にも頑張ってもらいたいですね。

東京オリンピックに出場した張本は3大会ぶりの優勝を狙う

田中はドイツでの経験をどこまで生かすことができるか?

【第3ブロック】
4回戦は丹羽孝希と篠塚大登に注目
大島祐哉も仕上がりは上々

 注目は丹羽孝希(スヴェンソンホールディングス)の山に篠塚大登(愛工大名電高)がいるところですね。篠塚が勝ち上がれば面白い試合になると思います。篠塚はこの1、2年でかなり力をつけてきているので、それを丹羽がどう迎え打つかが見どころになりそうです。丹羽は東京オリンピック後、すぐにTリーグに出場して、始動が早かったので、全日本に対してのモチベーションが高ければ2度目の優勝の可能性もあるでしょう。
 吉田雅己は全日本の戦い方がうまいので、やはり、勝ち上がる可能性はあると思います。松島輝空(星槎中)にも注目しています。松島は身長が伸びて、フットワーク力、パワーがついてきており、一般でも通用すると予想しています。
 大島祐哉(木下グループ)もいい状態です。Tリーグでも好調ですし、決勝進出経験もあります。両ハンドのバランスも良くなってきて、欠点のない選手になってきました。
 全日学(全日本大学総合卓球選手権大会 個人の部)で2位の髙見真己(愛知工業大)は、バックハンドのうまい選手です。宮川昌大(明治大)とのライバル校対決も注目です。

丹羽はモチベーションが鍵になる、と倉嶋監督

急成長中の篠塚は丹羽越えなるか?

【第4ブロック】
若手、ベテラン、実力者が入り乱れる激戦区
世界卓球を経験した戸上隼輔が一歩リードか

 スーパーシードの顔ぶれを見ても、ここが1番の激戦区になりそうです。その中でもランク決定(ベスト16決定)で曽根翔(愛知工業大)と戸上隼輔の対戦が実現すれば要注目の一戦ですね。団体戦では曽根、個人戦では戸上の対戦成績がいいと思いますが、持ち前の球威に加え、世界卓球での経験を積んできた戸上が有利と見ています。ただ、曽根は最近のTリーグのようなパフォーマンスが発揮できれば決勝まで行くだけの力を持っていると思います。
 英田理志(愛媛県競対)はなかなか他にいないようなクセのある選手なので、しっかりと研究して臨まないとトップ選手でも簡単に勝つことはできないでしょう。ちなみに英田と吉村和弘(岡山リベッツ)はここ2大会連続で当たっていて、一昨年は吉村、昨年は英田が勝っています。
 小西海偉(東京アート)は、強さという点では以前ほどではないかもしれませんが、ベテランらしいいやらしさのある選手ですね。上田仁(T.T彩たま)はクレバーな選手なので、そういう相手に対してもうまく弱点を突いて対処する力はあると思います。
 第2シードの森薗政崇とインターハイ三冠王の谷垣佑真(愛工大名電高)は、Tリーグではチームメートです。森薗の粘り強さを谷垣が打ち破れるかどうかが見どころでしょう。

昨年出場できなかった戸上。今大会に臨む覚悟は強そうだ

全日本社会人V4の上田。ベテラン選手としての存在感を示したい

(まとめ=卓球レポート)

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