2022年(令和3年度)全日本卓球選手権大会(一般・ジュニアの部)が1月24日から30日まで東京体育館で開催された。
日本の頂点を決める戦いで、どんな攻防が繰り広げられていたのか。卓球レポートでは、鋭い観察眼で知られる元全日本王者の渋谷浩に、選手たちの戦いぶりを聞いた。
ここでは、渋谷が男子シングルス決勝を分析する。
▼男子シングルス決勝の結果
戸上隼輔(明治大) 9, -10,7,-8,6,6 松平健太(ファースト)
戸上は高い集中力で松平の老獪なプレーを攻略した
一言で言うと「戸上がよく耐えた」という試合でした。
具体的には、松平が思うように攻めさせてくれない中で、神経をすり減らしながら戦い抜いた印象です。その証拠に、気持ちよく得点を決めて大きな声を挙げるシーンが他のそれまでの試合よりも大幅に少なかったと思います。
松平のレシーブ、台上プレーは派手さはありませんが素晴らしく、戸上は攻撃のチャンスを作ることに苦労していました。なかなか攻撃のチャンスが来ない分、攻撃できるときに焦ってミスするという場面が戸上にはありましたが、松平の台上に翻弄されながらも、攻撃の機会を見逃さずに勝ちきったという内容でした。
松平の台上プレーの優れた点は、ボールタッチの良さはもちろんですが、ボールを打つまでどのコースに、どんな深さのボールが来るのか分からないようなモーションです。これは他の選手にはなかなかまねのできないプレーです。
例えば、打球点を落としたストップです。打球点を落としたら、当然相手は長いボールが返ってくると思いますが、そこを短く止めたり、また、ラケットの角度ひとつだけでコースを変えたり、とにかく、意外性のある多彩なプレーが随所に見られました。こうした持ち味を生かすためにも、松平はチキータレシーブはあまり使っていませんでした。
2対2で迎えた5ゲーム目から、均衡状態を打開すべく松平も自分から攻め始めましたが、やはり、攻撃対攻撃では戸上に分がありました。かといって、松平があのまま守備的なプレーを続けていても厳しかったのも事実だと思うので、総合力で戸上が上回ったと見るのが妥当でしょう。
技術以外で、今大会における松平の特筆すべきポイントは、焦りや力みが微塵も見られなかったという点です。どのような場面でも冷静でしたし、余分な力が抜けていたからこそのあのような老獪ともいえるプレーを披露することができたのだと思います。
戸上について一番強く感じたのは、普段からすきのない、集中力の高い訓練をしているのであろうことを想像させるような緊張感のあるプレーをしていたことです。ちょっとでも甘いボールが来たら、1歩でも半歩でも前で攻撃する。できるだけ十分な体勢で打球する。1球1球のボールに対して最大限の力で打てるところまで動いて高い打球点で打つ。戸上の威力のある両ハンドでそれができたら、誰も勝てません。今大会では、最初から最後までそのようなプレーに徹していました。
特に、台上のせめぎ合いというのは集中力の高い練習でしか身に付いていかないものです。ハーフロングのボールが台から出るかでないかの判断も集中力がないと遅れますが、戸上はこのハーフロングのボールを攻めるのが群を抜いてうまかった。決勝でもこの戸上の特長はよく出ていました。
また、戸上の特長として、精神的なムラがない。一定の調子で試合を進められるというところがあります。決勝でも2ゲーム目を逆転されて落としましたが、そのダメージを3ゲーム目で引きずることなく自分のプレーができていました。
もちろん、戸上の代名詞でもある両ハンドドライブの強打は対戦相手にとっては大変なプレッシャーになっていたと思います。あの強打をなんとしても避けようと、サービスもレシーブも慎重になりすぎたり、攻撃的になりすぎたりする場面が何度も見られました。
技術的にはバックストレートに打つバックハンドドライブの精度に大きな成長が見られました。バウンド直後を捉えたスピードドライブですが、コンパクトなスイングで、ミスが少なく、大きな得点源になっていました。
ただし、今大会の戸上の勝因を挙げるなら、技術よりも、集中力と精神力で誰よりも秀でていたということだと思います。
詳しい試合の結果は大会公式サイトでご確認ください。
全日本卓球:https://www.japantabletennis.com/AJ/result2021/