元ナショナルチームコーチとして数々のトップ選手の指導に携わり、現在はTリーグの解説者としても活躍する渡辺理貴氏が、その卓越した観察眼で世界卓球2022成都を鋭く分析する企画。
今回は、10/5に行われた男子団体決勝トーナメント1回戦の4試合について分析していただいた。
【日本対ブラジル】
ツインエースとしての戸上の才能が開花したカルデラーノ戦
▼男子団体決勝トーナメント1回戦
日本 3-0 ブラジル
○戸上 -11,10,8,7 カルデラーノ
○張本 4,5,7 ジョウチ
○及川 8,4,9 イシイ
張本 - カルデラーノ
戸上 - ジョウチ
トップの戸上対カルデラーノの試合は、非常に見ごたえのある内容の試合で、勝利した戸上が完全に日本の流れをつくりました。試合の流れとしては2ゲー目をポイント7-10から5本連取でひっくり返したのが大きかったですね。
では、なぜ世界ランキング45位の戸上が、世界ランキング5位のカルデラーノに1ゲーム目を先制されながらも逆転で勝利を収めることができたのか。
私が考える要因はいくつかありますが、1つは、いうまでもなく「攻撃力」です。彼の両ハンドによる得点能力はすでに世界トップレベルにあるので、両ハンドを振ったときにチャンスをつくったり、そのまま得点に結びつくケースがとても多かったですね。
次に、「対応力」です。カルデラーノが戸上のような攻撃力の高い相手と試合をするときは、ミドル(センターライン付近)前やフォア前のストップをうまく使って攻略しようとしてくるのですが、戸上はそれらのストップに対して対応力と持ち前のフットワークの速さを生かし、得意のチキータや切るストップ、ツッツキでしっかり対応できていました。特に、カルデラーノのストップレシーブを3球目でチキータしたときの得点率はとても高かったと思います。
対応力と関連して、試合を通して戸上は台からあまり下がらず、カルデラーノのパワフルなボールに対しても前中陣で対応し、タイミングが合うときはカウンターするなど、打球タイミングの速さに重きを置いたプレーに徹していたことも良かったですね。
そして、攻撃力や対応力を支え、引き出しているのが「揺るぎない自信と強いメンタル」です。戸上は、世界卓球という大舞台で試合を重ねることで、自信がみなぎってきたように見えます。カルデラーノ戦は、戸上が張本とならぶ日本のツインエースとしての才能が開花した一戦になったと思います。
2番の張本は、グループリーグの戦い方と違って、攻守のバランスの良さが戻ってきました。グループリーグでは攻めすぎる試合が見受けられましたが、この試合では攻めるだけでなく、壁のようなブロックを要所で使い、相手に攻められているようでいつの間にか有利な展開に持ち込む張本らしい戦い方が随所で見られました。
3番の及川も緊張がほぐれ、勝負強さが戻ってきましたね。ベンチでも言葉を発するシーンが多く見られたので、今後に大いに期待が持てるでしょう。
【フランス対イングランド】
ユース世代のルブラン兄弟は世界でも斬新なプレーをしている
▼男子団体決勝トーナメント1回戦
フランス 3-2 イングランド
F.ルブラン 8,-9,2,-7,-7 ピッチフォード○
○A.ルブラン 5,4,9 ウォーカー
○ロラン 6,-9,6,-8,7 マクベス
A.ルブラン 9,-6,9,-6,-8 ピッチフォード○
○F.ルブラン 4,10,12 ウォーカー
ドイツと同じ組のグループリーグを1位通過したフランスは、決勝トーナメントでは第2シードに入り、イングランドと対戦しました。
試合はラストまでもつれる接戦になりましたが、イングランドのエース・ピッチフォードに2点を取られたものの、ルブラン兄弟とロランが1点ずつ取ったフランスに軍配が上がりました。
ピッチフォードには惜しくも敗れましたが、まだユース世代のルブラン兄弟(シェークハンドの兄アレクシスが19歳。ペンホルダーの弟フェリックスが16歳)のプレースタイルは世界卓球の中でも極めて斬新です。サービスの種類や工夫はもちろん、ラリーでの打球タイミングの速さや戦術的な打球点の使い分けなどは、すでに世界のトップクラスに十分通用しています。
フランスは準々決勝でドイツとクロアチアの勝者と対戦しますが、ルブラン兄弟がメダルのかかる大一番でどんなプレーを見せてくれるのか楽しみです。
【香港対エジプト】
足がよく動いていた香港がストレート勝利
▼男子団体決勝トーナメント1回戦
香港 3-0 エジプト
○呉柏男 3,7,8 エル ベイアリ
○黄鎮廷 5,10,9 アブデル アジズ
○林兆恒 -11,4,3,-8,7 マグディ
グループリーグでの健闘が光ったエジプトの善戦に期待しましたが、香港の打球点の早い攻撃やコース取りに台から下げられる場面が多くなってしまい、ストレートで敗れました。
勝った香港は選手全員の足がよく動いていて、勝負どころでは相手のバックハンドドライブをフォアハンドで狙うプレーでエジプトに流れを渡しませんでした。
【韓国対ポーランド】
台上とパワーで上回った韓国がポーランドに完勝
▼男子団体決勝トーナメント1回戦
韓国 3-0 ポーランド
○趙勝敏 8,9,8 クルチェツキ
○張禹珍 8,2,11 レジムスキ
○趙大成 8,13,10 キュービック
トップでフォアハンドドライブにパワーのあるサウスポーの趙勝敏と、サービスが多彩でラリー戦にめっぽう強いクルチェツキが当たりました。この対戦が両チームの勝敗を左右すると思って見ていましたが、趙勝敏がサービスからの得点力の高さと、台上のストップと深いツッツキで先手を取ってクルチェツキをストレートで退け、韓国勝利の流れをつくりました。
2番の韓国エース・張禹珍も全面をフォアハンドで動けるフットワーク力を存分に発揮してレジムスキに勝利し、3番の趙大成が前陣を意識したプレーでキュービックのパワーを封じ、韓国の勝利を決めました。
韓国選手は総じてフォアハンドのストップの精度の高さと台上のボールを一撃で決めるテクニック、それからパワーに優れており、さらに勝ち上がっていく可能性は高いでしょう。
(まとめ=卓球レポート)