元ナショナルチームコーチとして数々のトップ選手の指導に携わり、現在はTリーグの解説者としても活躍する渡辺理貴氏が、その卓越した観察眼で世界卓球2022成都を鋭く分析する企画。
今回は、10/5に行われた女子団体決勝トーナメント1回戦の8試合について分析していただいた。
【日本 対 韓国】
準々決勝以降も期待の高まる戦いぶりで日本が勝利
▼女子団体決勝トーナメント1回戦
日本 3-0 韓国
○伊藤 -5,7,7,8 キム・ナヨン
○木原 8,10,10 リ・シオン
○長﨑 -6,9,6,8 ユン・ヒョビン
伊藤の多彩で変化に富んだサービスに対して、17歳のキム・ナヨンがレシーブでどれくらいの対応力を見せるかが勝負を分けるポイントの1つになると思っていましたが、キム・ナヨンは伊藤が得意とするアップダウンの左回転系ショートサービスとロングサービスに的を絞り、攻撃的なレシーブで対応してきました。このレシーブに伊藤が面食らう場面があり、キム・ナヨンが第1ゲームを先制しました。
しかし、経験値の高い伊藤は、相手の待ちを読んでサービスを変えるという戦術転換の早さを見せて、あっという間に形勢逆転に成功して、3ゲーム連取して、流れを日本に呼び寄せました。
2番は、チーム内競争の厳しい日本女子チームで2点起用された木原は、思い切って攻めてくるリ・シオンに対して、攻撃だけでなく、ラリー中に相手のミスを誘うようなボールを織り交ぜることで相手の連続得点を阻止して、流れを持っていかせないようにゲームメークした所が大変効果的でした。自分の好不調でプレーの内容を変えないところに木原の成長を感じました。初出場ながら日本チームに欠かせない存在になってきましたね。
3番はグループリーグの試合から両ハンドの球威が凄まじく、調子の良さをアピールしていた長﨑が起用されました。第1ゲームでは、ユン・ヒョビンが長﨑の打球タイミングを外すような高いコントロール力を見せて先制しましたが、球威で押していける長崎は台との距離感やバックスイングのタイミングなど調節をする対応力の高さで流れを自分に引き寄せ、続く3ゲームを連取して勝利しました。
準々決勝以降の戦いに向けても期待の高まる日本女子チームのプレー内容でした。
【中国 対 ハンガリー】
決勝を見据えた派手さのないプレーに中国の地力を実感
▼女子団体決勝トーナメント1回戦
中国 3-0 ハンガリー
○孫穎莎 4,2,2 ハルトブリッヒ
○陳夢 4,4,3 マダラズ
○王曼昱 3,2,8 ダリ
世界ランキングTOP3を並べた中国のオーダーにハンガリーはなす術なく、中国は1時間もかからずに完璧な試合をしました。孫穎莎、陳夢、王曼昱の試合の様子は、目の前の相手というより少し先のファイナルに向けて各自が万全な状態を作っているかのように、派手なプレーも笑顔もなく、淡々とミスの少ない堅実なプレーに徹していました。中国の地力の高さを感じた試合でした。
【ポルトガル 対 ルクセンブルク】
強気のオーダーで挑んだポルトガルが倪夏蓮をねじ伏せた
▼女子団体決勝トーナメント1回戦
ポルトガル 3-1 ルクセンブルク
○ユ・フ 13,-7,3,4 倪夏蓮
○シャオ・ジェニ 3,5,-7,6 デヌッテ
マトス 9,-9,-9,9,-7 ゴンデリンガー○
○シャオ・ジェニ 9,-8,-12,3,6 倪夏蓮
ポルトガルの1番でエースのユ・フ(世界ランキング17位)を、ルクセンブルクのエース倪夏蓮(世界ランキング41位)に当てにいく強気のオーダーには驚かされました。このオーダーがはまって、接戦の末にユ・フが3対1で勝利しました。
続く2番でも左利きでスマッシュに力のあるシャオ・ジェニ(世界ランキング53位)がデヌッテ(世界ランキング68位)に3対1で勝利し、ポルトガルの目論見通りの展開となりました。
3番は、フルゲームの末にルクセンブルクが取り返しましたが、4番のシャオ・ジェニ対倪夏蓮は内容の濃い激戦になりました。倪夏蓮の揺さぶりに対してシャオ・ジェニは、必死に対応しながらツブ高ラバーのブロックが浅くなったボールを見逃さずにスマッシュへと繋げました。倪夏蓮はブロックだけでなく、相手コートにボールがバウンドする落下点をコントロールできる回り込みシュートボールなど、ベテランらしいテクニックで対抗しましたが、最後はシャオ・ジェニのパワーに押された形となり、3対1でポルトガルが勝利を決めました。
【中華台北 対 インド】
異質型への高い対応力を見せた中華台北が勝利
▼女子団体決勝トーナメント1回戦
中華台北 3-0 インド
○陳思羽 7,9,3 バトラ
○鄭怡静 8,-5,6,9 アクラ
○劉馨尹 6,-9,-9,8,7 チタレ
中華台北は、前半にツインエースの陳思羽と鄭怡静を並べ、インドもツインエースの片面にツブ高ラバーを使うバトラとアクラを配置するガチンコ対決となりました。
中華台北は2人のツブ高対応力が想像以上に高く、相手の失点をうまく誘いながら攻めるべきタイミングは逃しませんでした。また、ツブ高の揺さぶりに対しても、あまりバランスを崩すことなく、安定した戦いぶりを見せました。
3番も劉馨尹が勝利してストレートでインドを下して、中華台北が理想的な形で準々決勝進出を決めました。
【シンガポール 対 チェコ】
選手層の厚さで差を付けたシンガポールが8強入り
▼女子団体決勝トーナメント1回戦
シンガポール 3-1 チェコ
ジョウ・ジンイ -8,9,-6,-9 マテロバ○
○ツォン・ジェン 10,9,9 タマノフスカ
○ウォン・シンル 7,12,7 セフチコバ
○ツォン・ジェン 6,4,7 マテロバ
エースでパワーのある右シェークドライブ攻撃型のマテロバ(世界ランキング28位)を中心に、ラッキールーザー(予選グループリーグ3位で決勝トーナメント進出)のチェコは、1番でマテロバがジョウ・ジンイ(世界ランキング130位) に勝利しましたが、2番以降は、中堅選手をそろえ、層の厚さで差を付けたシンガポールが3対1でチェコを退けました。
【香港 対 ルーマニア】
ラストの朱成竹対サマラは1回戦随一の好ゲーム
▼女子団体決勝トーナメント1回戦
香港 3-2 ルーマニア
○朱成竹 10,-5,-16,3,10 スッチ
○杜凱琹 9,7,-8,6 サマラ
李皓晴 -8,12,-6,-13 ディアコヌ○
杜凱琹 -5,-9,5,-6 スッチ○
○朱成竹 -6,11,-4,7,9 サマラ
この試合が、女子1回戦のメインイベントとなりました。
グループリーグで中華台北とポルトガルに惜敗したルーマニアは、ラッキールーザーで決勝トーナメント進出を果たしましたが、本来のチーム力は首位通過をしていてもおかしくないほど高いので、決勝トーナメントで勢いをつかめば大いにチャンスはあると思っていました。
実力伯仲の両チームの対戦は、案の定ラストまで回り、朱成竹対サマラの対決となりました。ベテランらしいサマラの緩急をつけた変化に富んだラリーに対して、カウンタープレーをしたい朱成竹がタイミングを合わせることができず、勝負は最終ゲームにもつれ込みました。「ここが勝負どころ」とサマラが攻めに転じたポイントをカウンターで待っていた朱成竹に勝利の女神が微笑み最後は11-9で勝利。世界卓球らしいアジア対ヨーロッパのプレーを存分に味わうことのできた好ラリー満載の一戦でした。
【ドイツ 対 プエルトリコ】
プエルトリコはドイツの守護神ハン・インの固い守りを崩せず
▼女子団体決勝トーナメント1回戦
ドイツ 3-1 プエルトリコ
ミッテルハム -6,7,-7,8,-4 A.ディアス○
○ハン・イン 2,3,6 M.ディアス
○シャン・シャオナ 8,-10,6,3 リオス
○ハン・イン 1,1,5 A.ディアス
1番のA.ディアス(世界ランキング11位)のパンチ力あるカウンター攻撃は、台から距 離を取って戦うミッテルハム(世界ランキング14位)のパワードライブを封じました。両者とも右シェーク攻撃型なので、必然的にバックサイドのラリーが多くなりますが、A.ディアスは、裏ソフトながらバックハンドのミート打ちを多用するので、バウンド後に多少ボールが沈むドライブに比べてバウンドが高く、ミッテルハムの反撃を防ぐことができたのも勝因のひとつでしょう。
チーム力としては、この試合でもカット主戦型の守護神、ハン・インの2点起用が相手チームに非常に大きなプレッシャーをかけていました。2番以降はハン・インとシャン・シャオナの2人で3点を挙げ、危なげなくドイツが勝利して準々決勝進出を決めました。
【スロバキア 対 フランス】
エースの不調に泣いたフランス。スロバキアは日本との再戦へ
▼女子団体決勝トーナメント1回戦
スロバキア 3-1 フランス
バラゾバ 7,-10,8,-8,-9 パバド○
○ラボソバ -9,9,10,9 ユアン・ジアナン
○ククルコバ -4,10,-6,7,3 シャスラン
○バラゾバ 9,8,-10,10 ユアン・ジアナン
フランスチームとっては、エースのユアン・ジアナンの不調が結果に大きく響いてしまいました。フランスは、1番で18歳のホープのパバド(世界ランキング110位)がスロバキアのエース・バラゾバに逆転勝利を収め、これでフランスが勝つ可能性は高いと思われましたが、頼みのユアン・ジアナンがまさかの2点落としという想定外の展開となってしまいました。スロバキアは準々決勝で、グループリーグで敗れた日本に再び挑戦することになりました。
(まとめ=卓球レポート)