元ナショナルチームコーチとして数々のトップ選手の指導に携わり、現在はTリーグの解説者としても活躍する渡辺理貴氏が、その卓越した観察眼で世界卓球2022成都を鋭く分析する企画。
今回は、10/7に行われた男子団体準々決勝4試合について分析していただいた。
【日本対ポルトガル】
張本がチキータからのピッチの早い攻めでエース対決を制す
▼男子団体準々決勝
日本 3-1 ポルトガル
○戸上 -8,6,4,7 フレイタス
○張本 8,5,6 ジェラルド
及川 -6,5,9,-9,-8 モンテイロ○
○張本 -7,7,4,3 フレイタス
トップは、普段なら中陣でのラリー戦に持ち込むフレイタスが、戸上対策からか前陣で攻撃を仕掛けて先制しました。しかし、2ゲーム目から戸上のチキータが火を噴きましたね。レシーブや3球目で積極的に台上で攻め続ける戸上に対し、フレイタスは徐々に台から下がらざるを得ない展開になってしまいました。そうなると、フレイタスのラリー力をもってしても、動ける戸上の猛攻を止めるのは無理でしたね。
戸上の勝利に明らかに感化された様子の張本は、スタートから攻撃的な姿勢が強く見られました。攻めのパターンが単調になってジェラルドに連続得点を許す場面もありましたが、張本は世界トップレベルのバックハンドでジェラルドをフォア側へ大きく動かして連続攻撃を決め、快勝しました。
3番の及川は、持ち味のしつこさでモンテイロを振り回し、ゲームカウント2対1とリードしましたが、徐々に相手の前後の揺さぶりに対して動ききれなくなってしまいましたね。5ゲーム目は前半大きくリードを許す展開から、モンテイロのフォア側を突いて台から下げるパターンで追い上げましたが、わずかに届きませんでした。
4番の張本対フレイタスのエース対決は、張本の変化幅の大きい下回転とナックル(無回転)性サービスに対して、明らかに準備していたフレイタスが深いツッツキなどをうまく使って先取します。フレイタスの好レシーブになかなか波に乗れない張本でしたが、活路を開いたのはチキータでした。フレイタスも張本にチキータさせまいとサービスやレシーブで必死に揺さぶりましたが、張本には通じませんでしたね。張本のチキータからのピッチの早い攻めに、フレイタスは追い付くことができませんでした。
日本は総じて良いプレーを見せてくれました。準決勝で中国と対戦した際は、「連続得点される前にサービスの組み立てを変える」などの柔軟性が必要になると思います。
【中国対スウェーデン】
中国勝利も、スウェーデンに可能性
▼男子団体準々決勝
中国 3-0 スウェーデン
○樊振東 7,9,5 ファルク
○馬龍 11,8,6 モーレゴード
○王楚欽 -7,-10,3,9,6 K.カールソン
樊振東がスタートから声を出して本気モードでした。ファルクの攻撃も決して悪くありませんでしたが、樊振東がことごとくファルクの強打をはね返し、そのコースもミドル、ストレートと厳しいため、勝負どころでファルクは点数を取る術がありませんでしたね。
2番の馬龍対モーレゴードは、馬龍が守る展開が多くなりました。彼がここまで防戦になる展開はあまり見ることがありません。それだけモーレゴードのプレーが多彩で想定外でしたね。単調とはほど遠いモーレゴードの攻めに苦しんだ馬龍でしたが、ボールがほんの数個分浅くなったボールは見逃さずに回り込んで攻撃し、ゲームを渡しませんでした。これだけ攻め立てられてもストレート勝ちする馬龍はさすがですが、モーレゴードの球威と予測不能なプレーには、中国を倒すポテンシャルを感じました。
そして、3番はラブオールで王楚欽の台上ドライブをK.カールソンがカウンタードライブで抜き去りましたが、これが激闘の始まりでしたね。K.カールソンの攻め方はシンプルかつ精巧でした。縦回転系サービスの長さを調節して王楚欽の強烈なチキータを防ぎつつ、回転系のチキータは狙っていく。一方、自分からは不用意にチキータせず、ストップを中心に王楚欽を前に寄せてからパワードライブで狙うという戦術に徹し、K.カールソンが2ゲームを連取しました。
スウェーデンが一矢報いるかという展開でしたが、ここから王楚欽の本領発揮でしたね。K.カールソンのストップに対してナックル性のボールでチャンスをつくり、K.カールソンのカウンターに対してもすぐに台から距離を取って対応できるようになりました。勝負は第4ゲームでしたね。8ー7と王楚欽がK.カールソンに追い付かれそうなったところで中国が絶妙なタイミングでタイムアウトを取りました。次のスーパーラリーを制した王楚欽が逃げ切るかと思いきや、K.カールソンが食らいつく展開でしたが、最後は王楚欽が回転量の多いループドライブでK.カールソンのオーバーミスを誘い、逃げ切りました。勝利を決めた後の王楚欽の雄叫びが、この試合の苦しさを物語っていたと思います。
【韓国対香港】
エース対決で驚異的な攻めの姿勢を見せた張禹珍
▼男子団体準々決勝
韓国 3-1 香港
趙勝敏 -9,6,-9,9,-9 黄鎮廷○
○張禹珍 4,3,4 呉柏男
○趙大成 -8,6,5,4 林兆恒
○張禹珍 6,-8,9,10 黄鎮廷
1番の趙勝敏対黄鎮廷は互角の戦いでしたが、勝敗を分けたのは終盤の選択でした。パワーに勝る趙勝敏は、そのパワーで優位なラリー展開をつくることができます。一方、台上に長けている黄鎮廷は、高い先手率で攻撃回数を増やして有利なパターンをつくります。勝つためには、相手のパターンを封じ、自分の展開に持って行く必要がありますが、終盤にそれを選択できた黄鎮廷が趙勝敏を振り切りました。
2番は地力に勝る張禹珍が圧倒し、韓国が試合を振り出しに戻します。
3番は、1ゲーム目こそ硬さが見られた趙大成が落としますが、2ゲーム目以降は、多彩なチキータや柔らかいスイングから繰り出す伸びのある両ハンドドライブで林兆恒を圧倒しました。まだ19歳の趙大成は、これから長きに渡って世界で活躍する逸材といって差し支えないでしょう。
4番の張禹珍対黄鎮廷は、これぞエース対決と言わんばかりのハイレベルな内容に加え、お互い一歩も譲らないメンタルの強さもあふれ出た好ゲームでしたね。
中盤、黄鎮廷はカウンターで張禹珍を台から下げ、得意のフットワークを潰しましたが、張禹珍の苦しい状況を救ったのが、打球点の早い両ハンドでした。吹っ切れたようにミスを恐れずに両ハンドを振り続ける張禹珍の攻めの姿勢は、驚異的でした。
【ドイツ対フランス】
新生ドイツの底力が生んだ大逆転劇
▼男子団体準々決勝
ドイツ 3-2 フランス
ドゥダ 5,4,-9,-11,-11 A.ルブラン○
ダン・チウ -10,-8,6,-9 F.ルブラン○
○シュトゥンパー -9,6,6,4 ロラン
○ダン・チウ 10,5,-9,7 A.ルブラン
○ドゥダ 6,7,10 F.ルブラン
1番は完全にドゥダの流れでしたが、若いのにもかかわらず柔軟な戦い方ができるA.ルブランが、緩急を使いながらドゥダのボールを狙い打てるようになっていきましたね。それまでパワーで押していたドゥダでしたが、A.ルブランの緩急に対して後手を踏む展開が多くなり、A.ルブランが逆転でフランスが先制しました。
2番のダン・チウ対F.ルブランは、グループリーグではダン・チウが勝ちましたが、どのゲームも接戦だったので、16歳のF.ルブランが戦い方をどのように工夫してくるか注目しました。F.ルブランはバック側を詰められてダン・チウに動いて狙われないよう、少し台から距離を取って裏面ドライブでしっかり返し、ラリーの主導権を握っていましたね。加えて、守りの固いダン・チウのミドル(右腰あたり)をうまく突いて足を止め、3対1で勝利しました。大金星といっていいと思います。
3番のシュトゥンパーが結果的にドイツチームの大殊勲になりました。フランスは、3番にグループリーグでシュトゥンパーに破れているルベッソンからロランに変えてきました。あとがない場面で伝統あるドイツチームの命運を背負うのは19歳のシュトゥンパーには厳しいかと思って見ていましたが、シュトゥンパーは緊張した様子もなく平常心で持ち前の安定した両ハンド攻撃で勝利し、望みをつなぎました。
これで逆転の糸口をつかんだドイツは、ダン・チウがA.ルブランとのエース対決に勝利し、試合を振り出しに戻します。ダン・チウは、A.ルブランの多彩な戦術に対してライジングを狙う対応策ができており、前後の揺さぶりも効果的に使っていましたね。
逆転の流れを完全につかんだドイツは、ラストでドゥダが充実のプレーを見せます。ドゥダは、F.ルブラン得意のピッチの早い攻撃パターンを食らわないよう、ループドライブとためのきいたパワードライブを使い分けて台から下げ、優位なラリー展開をつくっていました。加えて、要所でフォア前へのストップから鋭い攻撃を決めてF.ルブランをストレートで退け、ドイツの勝利を決めました。
この試合は、ルブラン兄弟に前半で2点を奪われ、フランスが圧倒的有利の状況でした。その窮地を跳ね返したところに、新生ドイツの底力を垣間見ましたね。
(まとめ=卓球レポート)