2023年(令和3年度)全日本卓球選手権大会(一般・ジュニアの部)が1月23日から29日まで東京体育館で開催された。
日本の頂点を決める戦いで、どんな攻防が繰り広げられているのか。卓球レポートでは、鋭い観察眼で知られる元全日本王者の渋谷浩に、選手たちの戦いぶりを聞いた。
ここでは、渋谷が男子シングルス決勝と準決勝を分析する。
▼男子シングルス決勝の結果
戸上隼輔(明治大) 8,-10,15,6,-7,4 張本智和(IMG)
男子シングルスの決勝は、1ゲーム目の最初の3,4本のラリーで戸上が張本のバックハンドの飛距離に対して、一番いい位置でプレーしているのが分かり、それが最も印象的でした。張本の威力のあるバックハンドに対して、カウンターもブロックもできるし、コースを突くこともできる戸上が得意な位置取りでプレーできていましたね。
この位置取りが台に近すぎると、緩急も使えないし、粘ることもできません。逆に台から離れすぎると、相手に余裕を与えてしまうし、相手にコースを突かれると防戦一方になってしまいます。戸上がこの位置取りにどれくらい意識的だったのかは分かりませんが、通常はこの最適のプレー位置は対戦相手の球威やコース取りによって異なるため、このプレー位置を見つけるために1ゲーム、2ゲームを費やすこともあるので、戸上がラブオールからこの最適の位置取りをできていたことには大きな意味があったと思います。
戦術というよりも、メンタル面の方が大きいかもしれませんが、戸上は「連打で攻めるぞ、何本でも打ってやるぞ」という気持ちで臨んでいたと思います。
試合展開としては、2ゲーム目は戸上が先にゲームポイントを握っていながら、アンラッキーな落とし方をしましたが、1対1の3ゲーム目のジュースを勝ちきったことがポイントになりました。張本は何度もゲームポイントを握りましたが、戸上はそれに耐えて、このゲームを物にしました。このジュースはスーパーラリーの連続でしたね。
戸上は従来の超攻撃型の卓球に変わりはありませんが、その中でいかに安定感を出していくかということを考えていると思いますが、安定性ばかりを追い求めたら戸上のよさがなくなってしまうので、そのバランスがうまく取れていましたね。特に、ボールコントロールを磨いてきたのだと思います。
張本は戸上の強打に対して強引にカウンターをしたらミスが出ると分かっていたので、ブロックを選択しましたが、この試合ではそれが最善策だったと思います。準決勝の曽根翔(T.T彩たま)戦でも見せていましたが、相手の強打を利用して逆に厳しいコースに返球するフォアミドルのブロック処理は他の日本選手にはできないような技術でした。守備でも点が取れるというのは大きな強みになっていたと思います。
昨年の国内外での実績からも、今大会の勝ち上がりを見ても、張本の強さは誰もが認めるところだと思いますが、この試合では戸上の方が上回っていました。これも対人競技である卓球の面白さであり、怖さであると思います。
▼男子シングルス準決勝の結果
戸上隼輔(明治大) -8,-6,3,8,7,-7,7 篠塚大登(愛知工業大)
張本智和(IMG) 11,7,6,-9,8 曽根翔(T.T彩たま)
戸上は準決勝で篠塚大登(愛知工業大)と対戦しましたが、篠塚が2対0とリードする展開で戸上は苦戦しましたね。この日の1試合目で、お互い同じ条件ではありますが、戸上の方が動きが硬かったというのは感じました。決勝では0-0からエンジン全開でしたからね。
篠塚のプレーで特筆すべき点は、フットワークですね。それも動き方というよりは読みのセンスとでも言うのでしょうか。水谷隼(木下グループ)がそうでしたが、「なぜかボールが来るところにいる」とでもいうようなフットワークで、無理な体勢で打たされることが少ないので、いいボールがたくさん打てます。フットワークに関しても、打球の威力・精度を増すことに関しても、大きな伸びしろを感じました。先に攻めたときの得点力は高かったと思いますが、後半も先手を取ってプレーしたかったと思うので、ラリーの序盤で先手を取ることが篠塚の課題ですね。
曽根はバックハンドの技術レベルがものすごく高いですね。スイングの小ささは日本トップクラスだと思います。小さいだけでなく、威力もあり、コースも突ける。打球点もライジングでも、ちょっと待ってからでも打てる。しかも、準備動作も小さいから打つコースが分かりにくい。タイミング、コースが分かりにくくて、威力があるので、前陣であのバックハンドドライブを打たれる相手は怖いと思います。総合力では張本が上回りましたが、曽根のバックハンドはこれからも大きな武器になると思います。
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全日本卓球:https://www.japantabletennis.com/AJ/result2022/
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