スポーツライターの高樹ミナ氏がダーバンから選手の声と現地の様子をお届けする本企画「高樹ミナのダーバン便り」。国内外で選手たちを間近で見続けてきた高樹氏の目に、大舞台でプレーする選手の姿はどのように映るのか。デイリーで配信中!
今回は大会2日目の模様をお届けします。
世界卓球2023ダーバン(2023年世界選手権ダーバン大会ファイナル〔個人戦〕)2日目はハプニングで幕を開けた。
現地時間の朝10時。混合ダブルス初戦の宇田幸矢(明治大学)/木原美悠(木下グループ)ペアの相手が試合開始時刻になっても現れず、2人は不戦勝で2回戦へ。
宇田も木原も拍子抜けした様子だったが、すぐさま気持ちを切り替え、翌22日に控えた2回戦突破を誓った。
3回戦へ進むと張本智和(智和企画)/早田ひな(日本生命)との対戦が濃厚な組み合わせだ。世界卓球2021ヒューストン銀メダルの張本/早田ペアを超えなければ上位進出はないとあって、宇田と木原は同士打ちに燃えている。
シングルスでは長﨑美柚、平野美宇(ともに木下グループ)、早田ひな(日本生命)、伊藤美誠(スターツ)が女子1回戦をストレートで勝ち、男子では張本智和も1回戦ストレート勝利と好発進を見せた。
中でも目を見張るのは平野の好調ぶりである。空気の乾燥で喉を痛め声が出にくいが、それ以外はすこぶる元気。
「1回戦にしては強敵だなと思った」と警戒していたシンガポールのツォン・ジェンに対し、得意の超高速バックハンドに加えフォアハンド強打で次々と得点。相手選手がフォアに回してくるボールも飛びつきでカバーするなど守備力もアップした。
聞けば、「ダーバンに来てから(平塚の)選考会の反省点を練習していて、その1つにフォアに来たボールがあった」と平野。
さらに安定してきた台上プレーについて、「ストップは最近自信を持っている技術なので自然にできた」と話す。その表情はプレー中も笑顔、試合後のインタビューでも笑顔。
団体戦だった世界卓球2022成都は代表メンバーから漏れたため、世界卓球はヒューストン大会以来、2年ぶり。
今大会では銅メダルを獲得した2017年デュッセルドルフ大会と同等、あるいはそれ以上の成績も期待されているが、本人は「2回戦以降も1球ずつというのを考えて、試合できる喜びとか楽しさを忘れずに頑張りたい」と精神面での充実ぶりも際立っていた。
ナイトセッション(夜の部)では男子ダブルス1回戦で、張本智和/吉村真晴(TEAM MAHARU)ペアが強敵中国の林高遠/林詩棟ペアにストレート負けを喫した。
張本と吉村は腰を痛めた篠塚大登(愛知工業大学)の棄権によって急きょ、組むことになった即席ペアだ。練習したのも2、3回だといい、コンビネーションの厳しさは否めない。
加えて2人が右利き同士のペアなのに対し、相手はダブルスで有利とされる右利きと左利きのペア。さらに張本のチキータを封じるサービスや精度の高い台上技術で上回った中国に分があった。
張本も「動けば動くほどこっちの方が難しい動きになったが、相手は小さい動きの中でより精度の高いプレーができていた。ペアワークだったり右左という利点を考えても難しい試合になった」と話していた。
男子シングルス1回戦に臨んだ及川瑞基(木下グループ)はスロベニアのコズルとフルゲームの末、無念の初戦敗退となった。
悔しい結果に「最終ゲーム、簡単なミスが相手を勢いに乗せてしまった。勝ちたい思いが前に出過ぎてプレーの質を落としてしまった」と肩を落とす及川。
及川の武器であるバックストレートへのボールをカウンターでクロスに返すなど豪打を浴びせてくる相手に対し、「久しぶりのヨーロッパの選手との対戦ということもあって、ラリーのタイミングや『これは抜けただろう』というボールも鋭角に返ってきて、そういうボールに対応できなかった」と振り返り、体格差の面から見ても「パワーじゃなくて自分の長所のスピードとか俊敏性が物足りなかった」と話していた。
この日、日本勢最後の試合に臨んだのは宇田だった。相手はチリのブルゴス。
直前に試合を終えた及川に次ぐフルゲームの死闘となったが、こちらは最終ゲームで相手を引き離し勝利をもぎ取った。
自分の持ち味が出せず長らく不振続きだった宇田。特に競り合いで勝てず、あっさりとゲームを落とすような試合が目立っていたが「我慢しながら相手のミスも上手く誘いながら戦った」と話し、打球点が早くよく止まるブルゴスのストップレシーブに苦心しながらも、サービスの配球を意識して打開を図ったことを明かした。
一方、自身のレシーブに関しては「相手に狙われるようなチキータをしてしまった」と反省を口にしたが、「最低限バランスよくチキータとストップができたのかなという感じ。ただもう少し精度を上げていかないと次の試合は厳しい」と2回戦に目を向けていた。
宇田の2回戦の相手は及川を下したコズルだ。
それにしても卓球の大会は取材時間が長い。この日は朝9時頃に会場入りし、会場を後にしたのは午後10時半過ぎ。実に13時間以上、会場にこもっていたことになる。
そんな長丁場でエネルギーをくれるのは選手たちの熱い戦いと日本から持参した疲労回復薬。1日3回の服用で乗り切っている。
(文=高樹ミナ)