スポーツライターの高樹ミナ氏がダーバンから選手の声と現地の様子をお届けする本企画「高樹ミナのダーバン便り」。国内外で選手たちを間近で見続けてきた高樹氏の目に、大舞台でプレーする選手の姿はどのように映るのか。デイリーで配信中!
今回は大会3日目、梁靖崑(中国)に挑んだ吉村真晴の心中に迫る。
世界卓球出場は2019年ブダペスト大会以来。日本代表として日の丸を背負うのも同年に東京で開かれたチームワールドカップ以来、4年ぶりとあって、今大会に懸ける吉村の思いは強かった。
だが、男子シングルス2回戦で世界ランキング5位の強敵・梁靖崑(中国)と初対戦し、ゲームカウント1対4で敗退。格上を相手にラリーでは互角に打ち合ったものの、「ラリーになる前のミスがすごく多くて、それがすごい悔やまれます」と肩を落とした。
例えば、相手のチキータレシーブに対する自身の3球目攻撃やブロックにミスが出たといい、「(梁靖崑は)タイミングをずらすのが上手い」と舌を巻く。
そして、ミスが続くと最初は向かっていく気持ちだったのがだんだん消極的になり「やられるんじゃないかという脅威」が膨らんでいったとも明かす。
特に最後のゲームとなった第5ゲーム。吉村のストップやツッツキに対し梁靖崑のミスが出て7-1でリードしたにもかかわらず、「もっとミスしてくれるんじゃないか」という期待で勝負を仕掛けるタイミングが遅れ反撃のチャンスを逃した。
「自分をもう少し信じて戦いたかった。もっと自分がどうすべきかにフォーカスして戦うことができれば......」
もちろん練習の成果を出せた部分もある。
「バックハンドでストレートにコースチェンジしたり、そこからのラリー戦というところで、いい形でやれている部分もあった。でも、競った場面でそれができないと意味ないですし、後半でちょっと腰が引けてしまったり、クロスにボールが集まって自分が苦しい展開になってしまったり」
終わったばかりの試合を詳細に振り返る吉村からは、この対戦に向けていかに入念な準備をしてきたが見てとれる。実際に戦ってみた梁靖崑の強さをどこに感じたのだろう?
「バック対バックの緩急の上手さ、あとはフォアハンドのミスの少なさ、そういったところはイメージしていたんですけど、予想以上にバックハンドの浅いボール、深いボール、あとはフォアハンドも速いボールだけじゃなく浅いボールでタイミングを崩されて自分の足が止まってしまった。ちょっと他の中国選手とは違ったやりにくさや上手さがありましたね」
パリ五輪代表選考レースで8位につける吉村は、ベスト32以上にポイントが付くこの世界卓球で加点はならなかった。
だが、「やっぱり世界卓球なんで、パリ(五輪)がどうこうとかじゃなく、ここが全てだと思って戦ってきた」と本人。
最近は加熱する代表選考争いに目が向きがちだ。しかし、今年8月に30歳を迎える吉村のようなベテラン選手には、若い選手たちのように日本代表として世界の大舞台に立つチャンスはそう多くはない。
2016年リオデジャネイロ、2020年東京とオリンピック2連覇中で現在34歳の馬龍も今大会に向けた国際卓球連盟のインタビューの中で、「今回は目標を設定していない。あとどのくらいプレーできるか、世界選手権でプレーするチャンスがどれだけあるか分からないので、後悔を残してダーバンを離れないことを願うばかりです」と話している。
吉村や馬龍の言葉から、目の前の一戦一戦に注ぐ思いとエネルギー、世界卓球本来の重みをあらためて教わった気がした。
(文=高樹ミナ)