スポーツライターの高樹ミナ氏がダーバンから選手の声と現地の様子をお届けする本企画「高樹ミナのダーバン便り」。国内外で選手たちを間近で見続けてきた高樹氏の目に、大舞台でプレーする選手の姿はどのように映るのか。デイリーで配信中!
今回は大会4日目、男子シングルス2回戦で王楚欽(中国)に挑んだ戸上隼輔の心中に迫る。
世界卓球2023ダーバン(2023年世界選手権ダーバン大会ファイナル〔個人戦〕)4日目は男子日本にとって重要な一戦があった。
パリ五輪代表選考レースで2番手の戸上隼輔(明治大学)と中国若手のエース王楚欽(中国)との再戦だ。
戸上にとっては前回対戦した2022成都大会(団体戦)、そして1年半前の2021ヒューストン大会(個人戦)のリベンジマッチ。
ヒューストンでは男子シングルス3回戦で戸上がストレート負け、成都でも準決勝の5番でやはり戸上がストレートで敗れていた。
世界卓球初出場だったヒューストンでは「中国選手との差は今の2倍、3倍努力しないと埋められない。悔しいし絶望的かもしれないけど」と悲痛な面持ちで話した戸上。
あれから1年半、試行錯誤と挑戦を重ね世界卓球の舞台に戻ってきた戸上は奇しくも王楚欽と同じブロックに入り、シングルス2回戦でぶつかることとなった。
果たして結果は厳しいものだった。
ラリー戦になることを想定し、「サービスを散らしつつ相手のミドルをうまく使う戦術を用意していた」と言うが、その予想はすぐさま裏切られた。
王楚欽のスピードのあるナックルサービスに対応しきれず、戸上自慢のチキータレシーブがことごとくオーバーミスになる。加えてハーフロングにも手を焼き、戸上は第1ゲームから第3ゲームまで、いずれも3-11で落とした。
「他の外国選手と違って、体をうまく使って勢いのあるナックルサーブを出してくる。(自分の)ストップはもちろん浮きますし、チキータも球のスピードが速いぶん、こっちが回転をかけないと台にうまく収まらない」(戸上)
さらに、戸上は「下回転とナックルを同じフォームで、同じ球の弾道で出してくるので分かりづらい」とも。
なかなかラリー戦まで持っていけない展開の中、第4ゲームは王楚欽の出すフォア前サービスに戸上が対応。逆に王楚欽に3球目攻撃のミスが出て戸上がこのゲームを11-6で奪った。
しかし、第5ゲームになると王楚欽が戸上のバック深くへロングサービスを出すなどして再び先手を取り、勢いを盛り返してゲームオーバー。軍配はゲームカウント4-1で王楚欽に上がった。
「相手のサービスに対して苦戦してしまって、1ゲーム目から最後の5ゲーム目まで何も出来ずに終わってしまったなという印象です」と落胆する戸上は、「悔しいですね。これだけ圧倒されるとは思っていなかったので。自分の中では1、2ゲーム目のどっちかを取ってアグレッシブにいける展開になるかなと思っていたんですけど」と唇を噛んだ。
だが落ち込んでいる暇はない。翌5月24日の午後には宇田幸矢(明治大学)とのペアで男子ダブルス3回戦に臨む。対戦相手はまた強敵ペアのオフチャロフ/フランチスカ(ドイツ)。
「残されているのはダブルスしかない。そこでメダルを目指して、ダブルスで中国選手にリベンジすると切り替えるしかない」
中国の男子ダブルスペアは樊振東/王楚欽と林高遠/林詩棟の2組がいるが、25日の準々決勝で同士打ちとなる。そして、中国勢と反対のブロックにいる宇田/戸上は決勝まで中国と当たらない組み合わせだ。
そこまで何とかたどり着き、借りを返したい。
(文=高樹ミナ)