元日本代表の経歴を持ち、その真摯な人柄から「卓球界の賢人」として名高い上田仁が、確かな実力と経験に裏打ちされた深く鋭い洞察力で世界卓球2023ダーバンの攻防を読み解く。
今回は世界卓球6日目に行われた伊藤美誠対A.ディアス（プエルトリコ）の女子シングルス4回戦を解説してくれた。
▼女子シングルス4回戦
伊藤美誠 8,9,12,10 A.ディアス（プエルトリコ）
伊藤がベスト8をかけて戦う相手はA.ディアスでした。
あらためて述べるまでもなく、伊藤は変化をつけたり待って狙い打つような嗅覚とセンスが抜群の選手ですが、私はA.ディアスもまた違ったセンスの持ち主だと思っています。恐らく今の世界の女子の中でボールタッチや男子さながらのロビングを駆使するなどのセンスは1番ではないでしょうか。A.ディアスは最近かなり力をつけているので、伊藤とはいえ侮れない相手との対戦でした。
試合は第1ゲームから、お互いのセンスとセンスがぶつかり合う展開になりました。A.ディアスは仕掛けや攻めが早くはないので、伊藤の速い攻めに台から下げられる展開が多くなりました。それでも先述した通り、A.ディアスは女子の中ではロビングが抜群にうまいので何本でも返してきます。伊藤も自分の身長より高くバウンドしたボールを何本も打つ場面があり、女子の試合ではあまり見ないようなラリーの応酬がありました。卓球を初めて見る方でも楽しいと思ってもらえるような試合でしたね。
第1ゲームを伊藤が取り、第2ゲーム以降もタイミングが少しゆっくりなA.ディアスに対し、時間のある伊藤は表ソフトラバーでのバックハンドで振り回したり、回り込んで攻めたりと変幻自在なプレーで優勢に立ちます。A.ディアスも時折、伊藤の株を奪う「みまパンチ」のようなカウンタースマッシュで見せ場をつくりますが、伊藤が終始落ち着いてプレーし、ストレートで勝利しました。
試合前の予想では、伊藤が優勢だとは思いつつも少し競る場面があるかなと思いましたが、ふたを開けてみれば完勝でしたね。伊藤は中国選手以外、もはや太刀打ちできないレベルにいることをあらためて感じさせるA.ディアスとの試合でした。
次はメダルをかけた試合になりますが、伊藤らしく見る者がわくわくするような発想とプレーで相手をほんろうし、勝利してほしいと思います。
※文中敬称略
（まとめ＝卓球レポート）
