元日本代表の経歴を持ち、その真摯な人柄から「卓球界の賢人」として名高い上田仁が、確かな実力と経験に裏打ちされた深く鋭い洞察力で世界卓球2023ダーバンの攻防を読み解く。
今回は世界卓球6日目に行われた長﨑美柚/木原美悠対マテロバ/バラゾバ(チェコ/スロバキア)と、王芸迪/陳夢(中国)対早田ひな/伊藤美誠(日本)の女子ダブルス準々決勝を解説してくれた。
▼女子ダブルス準々決勝
長﨑美柚/木原美悠 8,-9,-6,2,3 マテロバ/バラゾバ(チェコ/スロバキア)
長﨑/木原はメダルをかけて、チェコのマテロバ、スロバキアのバラゾバの国際ペアとの対戦になりました。
第1ゲームから国際ペアが男子顔負けのパワーボールで攻めてきましたが、長﨑/木原がフォアハンドでの絶妙なストレート攻撃を生かしてゲームを先取します。
ローテーションが変わった第2ゲームは、長﨑/木原が鋭い両ハンドで攻めますが、マテロバ/バラゾバが打球点を落としながらもパワーのあるボールでしつこく対応し、ゲームを返します。
第3ゲームは、長﨑/木原が素直に打ち合いにしすぎました。打ち合いに強いマテロバ/バラゾバに対し、ほとんど長いボールからラリーを始めていたので相手ペアに調子を出させてしまいましたね。
第3ゲームを奪われ、あとがなくなった長﨑/木原でしたが、第4ゲームは台上からのラリー展開を増やしたことと、長﨑が得意のチキータをより思い切って打つ戦い方へシフトします。この戦術転換により、マテロバ/バラゾバは打ち合いに持ち込むまでのミスが増えて、長﨑/木原が第4ゲームをあっさり奪います。
第5ゲームは、スタートから長﨑が思い切りました。難しいコースへチキータを2本決めて、日本ペアがスタートダッシュをかけると、この勢いを失わずに勝ち切りました。長﨑/木原は第3ゲームあたりで少し凡ミスが出て気持ち的に焦りがあったと思いますが、しっかり立て直してメダルを決めてくれました。
早田/伊藤が敗れたので、二人にはその分まで金メダルを目指して頑張ってほしいですね。
▼女子ダブルス準々決勝
王芸迪/陳夢(中国) 10,9,10 早田ひな/伊藤美誠
優勝候補同士の一戦は、第1ゲームからお互いに目の覚めるような高速ラリーを展開しました。両ペア譲らない展開で試合が進みましたが、中国ペアは競り合うほど打球点が高くなるあたりがすごかったですね。私から見ても、狙っているのか、それとも単に反応しているだけなのか定かではないようなファインプレーで王芸迪/陳夢が第1ゲームをジュースで先取します。王芸迪/陳夢は右利き同士のペアなので、レシーブからバックハンドで回り込んでチキータやストップ、フリック(払い)など多彩な技を繰り出してきたことも最後まで中国ペアのアドバンテージになっていましたね。
続く第2ゲームは、早田/伊藤が右利き同士の中国ペアの動きを重ねるようなコース取りを見せますが、王芸迪/陳夢は前陣を譲らずに食らいつきます。早田/伊藤はストレートに活路を見出そうとしていましたが、二人が前陣でストレートを突いた時は有効でしたが、台から少し離されてストレートを突いたときは球威が落ちるので狙われてしまいました。このあたりの日本ペアを台から離す中国ペアのコース取りは見事だったと思います。
第2ゲームを奪われて追い込まれた早田/伊藤は、サービスに変化をつけたり、台のサイドラインを切るようなコースに配球して相手に持ち上げさせてからたたく展開で打開しようと試みますが、それらに素早く対応する中国ペアはさすがでした。早田/伊藤はジュースまで競り合いましたが、第1、第2ゲーム同様、あと1点が遠く、王芸迪/陳夢にストレートで敗れました。
早田/伊藤はけがの影響で練習があまりできていなかったこともあり、中国ペアに比べると少し細かい部分でのミスが多くなってしまいましたね。連続のメダル獲得はなりませんでしたが、伊藤は女子シングルス、早田は女子シングルと混合ダブルスで勝ち残っているので、持てる力を振りしぼって頑張って欲しいですね!
※文中敬称略
(まとめ=卓球レポート)