元日本代表の経歴を持ち、その真摯な人柄から「卓球界の賢人」として名高い上田仁が、確かな実力と経験に裏打ちされた深く鋭い洞察力で世界卓球2023ダーバンの攻防を読み解く。
今回は世界卓球7日目に行われた陳夢（中国）伊藤美誠の女子シングルス準々決勝を解説してくれた。
▼女子シングルス準々決勝
陳夢（中国） 7,5,5,5 伊藤美誠
伊藤は、メダルをかけて陳夢との対戦になりました。数々の中国選手に勝利経験のある伊藤ですが、陳夢にはまだ勝ったことがありません。その難敵に、伊藤がどのようなプレーで挑むのかワクワクしながら注目しました。
伊藤は出足から思い切ったプレーで陳夢に対抗しますが、陳夢は前日の木原戦同様、伊藤の表ソフトラバーを貼ったバックハンドをうまく攻めてきましたね。伊藤のバック側を狙ってロングサービスをいろいろな位置から出し、ラリーでは回転量の多い両ハンドを伊藤のバック側に集めてミスを誘うプレーで、終始、陳夢が優勢にゲームを進めていました。その戦いぶりは徹底しており、中国への勝率が1番高い伊藤への対策は、木原以上に磨かれていると感じました。
伊藤もなんとか食らいつこうと速攻を仕掛けましたが、なかなか点差は縮まらずにストレートで陳夢に敗れました。
ここまでの見事な勝ち上がりから、伊藤が中国選手にどう戦うのか興味深い一戦でしたが、伊藤の良さを全く出させない陳夢の、そして中国の強さを見せつけられた形の試合でした。
伊藤はこれまで陳夢に勝利したことがありませんが、その結果が良い意味での開き直りのプレーにつながるのか、それともプレッシャーに感じてしまうのかによって試合展開は大きく変わります。この試合の陳夢は、途中から「伊藤に負けたことがない」というこれまでの対戦経験が自信につながっていたように思います。
しかし、東京オリンピックで水谷さん（水谷隼）と混合ダブルスを組んで金メダルを獲得したときもそうでしたが、勝利経験のない相手との試合は、大一番では相手側に大きなプレッシャーがかかるものです。今回は準々決勝というステージだったからか、陳夢にプレッシャーがかかっている感じはありませんでしたが、仮に決勝の大舞台で対戦していたら、試合内容や結果は大きく変わっていたかもしれません。
推測はさておき、今大会でのメダル獲得はなりませんでしたが、伊藤は中国以外への強さは見せつけました。あとは中国だけです。けがの影響で今大会への調整が難しかった面もあったと思いますが、東京オリンピックで成し遂げた快挙を思い出しつつ、今回の敗戦の結果をしっかり見つめながら次につなげてほしいと思います。
※文中敬称略
（まとめ＝卓球レポート）
