スポーツライターの高樹ミナ氏がダーバンから選手の声と現地の様子をお届けする本企画「高樹ミナのダーバン便り」。国内外で選手たちを間近で見続けてきた高樹氏の目に、大舞台でプレーする選手の姿はどのように映るのか。デイリーで配信中!
大会8日目は、女子シングルス準決勝で孫穎莎(中国)に敗れ、銅メダルが確定した早田ひな(日本生命)の言葉から、彼女の成長とこれからの展望に迫る。
世界卓球2023ダーバン(2023年世界選手権ダーバン大会ファイナル〔個人戦〕)が佳境を迎えた。
大会8日目の5月27日は日本勢男女を通じて唯一、シングルス4強に入った早田ひな(日本生命)が決勝進出をかけ、女子世界ランキング1位の孫穎莎(中国)と準決勝で対決。
前夜には世界ランキング3位の王芸迪(中国)とゲームオール21対19の死闘を演じ競り勝った勢いを駆って、孫穎莎にも激しい打撃戦で迫ったが、技術、戦術ともに上を行く中国にゲームカウント4対1で敗れた。
これで早田の銅メダルが確定。2017デュッセルドルフ大会銅メダルの平野美宇(木下グループ)以来、6年ぶりの世界卓球シングルスのメダルを日本にもたらした。
第1ゲームと第2ゲームは孫穎莎が早田のフォア側を抜くバックハンドドライブと回り込みのフォアハンドドライブで得点を重ね主導権を握った。だが、第3ゲームに入ると早田が徐々に対応し始め、何本もノータッチエースを献上していたバックハンドを次々にブロック。
すると第4ゲームは早田が反撃に出て、得意のフォアハンドドライブやスマッシュ、バックハンドドライブ強打など多彩な攻撃で1ゲームを奪い返した。
そして、ゲームカウント1対3で迎えた第5ゲーム。早田が僅差で孫穎莎を追う展開で、その背中を捉えようとした8-9ビハインドの場面。ここで早田が「あの1本が勝負の分かれ道だった」と悔やむレシーブがあった。
「なんであのコースに行ってしまったのか。チキータだったんですけど、勝負をかけようと思って(相手の)フォアへ打った」というボールを孫穎莎がカウンター。「それ(チャンスボール)を見逃さないのが彼女の強さ。1本の重みをすごく感じました」と早田は振り返る。
その一方で大きな成長も自覚した。早田が「中国人選手の中でもダントツに強いイメージがある」と話す孫穎莎に対し、以前はむしゃらに向かっていったが、今回は同じ土俵で勝負をしている確かな手応えがあったという。
「いつもの孫穎莎選手とやるときと全然違って、本気で自分が勝負をしにいってる感覚。だから向こうにすごい応援があってアウエーでも別に何とも思わなくて、周りの音が聞こえなくて2人だけの勝負をしているような感覚に入り切れていた」
しかし、今大会ベスト4という結果を早田は最低限と捉えている。銅メダルを取れたことは誇りに思いながらも、「負けてしまったらそこで終わり。輝くのは優勝する一人だけ。そこにいけなかった悔しさの方が大きいし、目指すべき場所はここじゃない。勝たないと何もない」と言い切った。
自身を努力の人と自負し、卓球だけでなく生活面でもストイックな早田。こうした発言にも彼女の志の高さが見て取れる。
それにしても孫穎莎は強い。前後左右へ揺さぶられ体勢が崩れそうになってもすぐリカバリーし、涼しい顔で強打を浴びせてくる。打球スピードとタイミング、コース取りの上手さもピカイチだ。
早田いわく「本当に穴がない」。そんな相手に勝つには、さらに質の高い練習が必要になってくる。
「今の私のレベルで急激に成長するってなかなか難しいことなんですけど、毎日『良くなった。強くなった』と感じるぐらい自分のことを研究して練習している。だから、今回の試合で感じた課題も修正して練習して、またそれを試合で試してとやっていったら、多分着実に一つずつですけど進んでいくはず」
王芸迪戦を制し、初めて中国勢に勝ったことでまた一つの上の次元にランクアップした感のある早田。インタビューが終わった瞬間、「あー!悔しいよー!」と思わず素が出るところもチャーミングな彼女の魅力である。
(文=高樹ミナ)