スポーツライターの高樹ミナ氏がダーバンから選手の声と現地の様子をお届けする本企画「高樹ミナのダーバン便り」。国内外で選手たちを間近で見続けてきた高樹氏の目に、大舞台でプレーする選手の姿はどのように映るのか。デイリーで配信中!
大会9日目(最終日)は、シングルスで優勝を決めた樊振東と孫穎莎(ともに中国)、そして、現役選手にして三連覇のセレモニーに登壇した馬龍(中国)の3人の言葉に焦点を当てた。
世界卓球2023ダーバン(2023年世界選手権ダーバン大会ファイナル〔個人戦〕)最終日。5月28日に行われたシングルス決勝で、女子は世界ランキング1位の孫穎莎(中国)が東京2020オリンピック金メダルの陳夢(中国)をゲームカウント4対1で下して世界卓球シングルス初優勝。
男子も世界ランキング1位の樊振東(中国)が若手で最も勢いのある王楚欽(中国)をゲームカウント4対2で制し大会2連覇を達成した。
これまで幾度となく繰り広げられてきた中国の同士打ちは今回も超ハイレベル。ラリーのミスの少なさや巧みな台上技術、要所での戦術に惚れぼれする。
火を噴くような打撃戦に会場が沸き立つ中、あまりの強さにため息が出た。
孫穎莎は早田ひな(日本生命)との準決勝でも多用した高速バックドライブを何本もクロスに決めて主導権を握った。陳夢をもってしてもなかなか止められないウイニングボールだ。
中国勢同士の試合は1ポイントを競るような接戦になることが多いが、この一戦は孫穎莎の快勝だった。
チャンピオンシップポイントを決めた瞬間、床に仰向けになりガッツポーズで勝利を噛み締めた孫穎莎。新女王に輝いた喜びをこう語っている。
「本当に嬉しくて興奮しています。先輩である彼女(陳夢)に心から勝ちたいと思っていました。私たちは一緒に練習をしていて、彼女から多くのことを学んでいます。今日は本当に良い戦いをして、得られた結果にも満足しています。常に1試合1試合を大切にする気持ちが常に自分の助けになっています。最高の結果です」
一方、樊振東と王楚欽の決勝はどちらが勝ってもおかしくない激戦だった。
第1ゲームを先制したのは王楚欽。だが第2ゲームは僅差の攻防を樊振東が制し、続く第3ゲーム、第4ゲームも樊振東の両ハンドが王楚欽の攻撃を打ち砕く。
ところが、優勝に王手をかけた第5ゲーム。10-5でマッチポイントを握ったところから王楚欽が6連続得点。樊振東も負けじとサイドを切る強烈なフォアハンドドライブを浴びせ11-11と並んだが、そこから2連続得点した王楚欽がこのゲームを勝ち切った。
流れは王楚欽に傾くかと思われた第6ゲーム。樊振東が猛チャージ。一気にポイントを重ねてリードを広げ11-3で優勝を決めた。
マッチポイントの自身のレシーブがネットインし、王楚欽のサービス3球目がオーバーしたため、樊振東が観客の大歓声を制すジェスチャーで幕を閉じたが、世界王座決定戦にふさわしいエキサイティングなタイトルマッチだった。
2021ヒューストン大会に次いで男子シングルス2連覇達成の樊振東はこう語っている。
「今日の王楚欽はとても良いプレーをしていた。彼の戦術によって自分が第1ゲームを落とした後、どうすれば彼のボールをブロックできるか考え戦術を変更しました。第5ゲームは非常に難しくて、王楚欽がいい展開を見せ自分はまたゲームを失いましたが、まだ試合は終わっていない、まだチャンスはあると自分に言い聞かせ、第6ゲームはとても上手くいきました。そして何とかそのゲームを奪い、勝つことができました。努力が報われ世界卓球で優勝できたことは自分にとって大きな意味があります。とても幸せですし、私をサポートしてくれたみんなに感謝したいです」
若手の突き上げに遭いながらも樊振東がエースの座を堅持し、激しい競争の中でよりレベルアップしていく世界最強の中国。その一方では絶対王者・馬龍が34歳になり、かつての勢いを失いつつある。
そんな中、男子シングルス決勝開始前に、馬龍の世界卓球男子シングルス3大会連続優勝を讃えるセレモニーが行われた。
2015年蘇州、2017年デュッセルドルフ、2019年ブダペストで世界王者に輝いた馬龍。今大会では準決勝で23歳の王楚欽に敗れ銅メダルという結果だった。
あと何回、世界卓球の舞台で馬龍の雄姿を見られるだろう。会場中、いや世界中の卓球ファンが一抹の寂しさを覚えているのではないか。
初めてアフリカにやって来たという馬龍は、「ここアフリカでも卓球ファンが増え、近い将来、アフリカチームが世界卓球で素晴らしい結果を出すことを願っています」と卓球新興国のアフリカにエールを贈り喝采を浴びていた。
大会開幕から9日間、スポーツライター「高樹ミナのダーバン便り」をお読みいただきありがとうございました。現地時間29日夕方の便で日本代表選手団と一緒に日本へ帰ります。Dankie!(ありがとう!)
(文=高樹ミナ)