初優勝を遂げた世界卓球2021ヒューストンから2年。世界卓球2023ダーバンにおいて、男子シングルス2連覇という期待にたがわぬ成果を挙げた樊振東(中国)。
このインタビューでは、準決勝で梁靖崑(中国)、決勝では勢いのある王楚欽(中国)と実力伯仲の中国勢を連破しての見応えある優勝劇を繰り広げた樊振東に胸の内を明かしてもらった。
前編では、大会前の準備と、男子シングルス初戦(2回戦)から準決勝までの話を聞いた。
2連覇できるという強い自信があった
--世界卓球の男子シングルス2連覇に臨み、どのような準備をしましたか?
樊振東 試合前はしっかりとやるべきことはやりましたが、結果についてはあまり考えず、試合中の細かい部分も含めて、しっかりやることだけを心掛けました。
私が大切にしているのは、どのような困難に遭遇しても、自分自身への揺るぎない自信を持ち、困難を解決する方法を積極的に見いだそうとすることです。そして、この姿勢は最終的に連覇を達成した重要な要因になったと思います。
--2連覇できる自信はありましたか?
樊振東 強い自信がありました。前回優勝した時から、連覇を達成するまでにはさらなる困難に遭遇するであろうこと、厳しい大会になるであろうことは分かっていました。
ただ、自分には強い自信があったので、特に大事な場面で迷うことなく最も合理的な技術や考え方を選択することができました。自信という点では、大会を通してうまく調整することができたと思います。
--大会を通して、調子はいかがでしたか?
樊振東 序盤の調子は普通でした。特にシングルスの最初の数試合は、調整段階だった上に、連続してシェーク攻撃型以外の戦型の選手と当たり、スムーズな試合運びはできませんでした。(注=2回戦でカット主戦型のジオニス[ギリシャ]、3回戦と4回戦ではペンホルダーの黄鎮廷[香港]、ダン・チウ[ドイツ]と対戦した)
しかし、試合を重ねるごとに次の試合に向けての感触がよくなり、自信も持てるようになっていきました。調子は、後半に行くにつれてよくなっていったと思います。
--それでは各試合について、振り返っていただきたいと思います。
樊振東 世界卓球の試合は最初からトーナメント方式なので、自分自身に高い要求を課していました。
初戦の対戦相手はカット主戦型のジオニス(ギリシャ)でした。しばらく彼とは対戦しておらず、シングルスの初戦でもあったため緊張感があり、思い切りプレーできない部分もありましたが、大きな問題はなく、勝つことができました。
2試合目は、黄鎮廷(香港)との対戦でしたが、彼は非常に特徴があるペンホルダーの選手です。彼とも久しぶりの対戦となりました。1ゲーム目、2ゲーム目ともにリードされる展開で、受け身になる場面もありましたが、試合中に調整して、対策を講じることができました。
この黄鎮廷との試合を通して、緊張感を含め、試合の感覚を少しずつつかんでいくことができたので、自分にとっては重要な試合になりました。対攻撃選手のリズムや試合中の位置取り、距離感もよくなってきました。
次のダン・チウ(ドイツ)との試合は、彼との初対戦となりました。この1年で彼は急成長を遂げました。私は入念に準備し、多くの困難を予想しました。1ゲーム目は、彼がバックハンドから両サイドに打ったボールは私にとって大きな脅威になりましたが、このゲームを取ることができて、徐々に流れがよくなり、自分の思い通りのプレーができるようになってきました。
準々決勝の対戦相手はO.アサール(エジプト)でしたが、彼はアフリカカップの優勝者で、今大会でも、ホームといえるアフリカでとてもいいプレーをしてベスト8に入っていました。対戦経験はあまりありませんでしたが、前回の対戦は東京オリンピックの団体戦でした。今回、対戦してみて、とても強くなっていると感じましたし、その気迫や頑張りはとても深く印象に残りました。非常に尊敬できる選手です。
--危なげなくベスト4入りを決めましたが、準決勝の対戦相手の梁靖崑にはどのように臨みましたか?
樊振東 梁靖崑とは、お互いの実力に大きな差がなく、大きなアドバンテージはなかったので、6、7ゲームに及ぶ厳しい試合を覚悟して臨みました。勝つことができたのはメンタル面がよかったからだと思います。
以前、世界卓球で彼に負けたことがあった(世界卓球2019ブダペスト)ので、今回は出足から動いて、なるべく早くベストの状態に入れるように心掛けました。1ゲーム目はよく動けて、順調に取ることができました。2ゲーム目は自分に凡ミスが出たのと、梁靖崑が自分のプレーに対応してきて、粘りきれずに落としてしまいました。
試合の中でポイントになったのが第3ゲームでした。リードされていましたが、強気なラリーで流れを変えることができ、挽回するチャンスを得ることができました。終盤に10-7でリードしましたが、出来過ぎだという印象がありました。ここからの3ポイントは梁靖崑の計算通りになってしまいましたが、10-10になった後の2球はとてもいいプレーができました。このゲームが、その後の試合全体の流れにおいても重要だったと思います。私はこの3ゲーム目を取ったことで、4ゲーム目からは試合の主導権を取り戻すことができたと感じています。
試合を通して、梁靖崑のボールの質はとても高かったのですが、それに対して、自分はラリーや3球目で強い気持ちでプレーできました。もちろん、迷ったり受け身になったりする場面もありましたが、4ゲーム目も3ゲーム目と同じ考え方で勝つことができました。
5ゲーム目はリードされならがもわずかにチャンスがありましたが、ミスしてしまい8-11で競り負けました。
6ゲーム目は、引き合いも含め、自分のペースで試合を進めることができました。特に試合終盤は、彼に激しい攻撃をさせませんでした。力加減や、コースやリズムの変化も明確に意識して、冷静に考えることができました。その結果、試合を制することができたと思います。後半の重要な場面では、かなりよいパフォーマンスが発揮できたと感じています。
--もう一方の準決勝で、王楚欽が馬龍を破り、決勝の相手が王楚欽になったことについてはどう思いましたか?
樊振東 決勝戦の対戦相手について考える時間はあまりありませんでした。男子ダブルスの決勝が行われ、その後、馬龍対王楚欽、私と梁靖崑の準決勝が行われました。
ですから、まずはダブルスの準備をし、そのあと少し休息を取って、シングルスの準決勝に備えました。だから、馬龍対王楚欽の準決勝にはまったく関心がありませんでしたし、その結果についても考えませんでした。決勝の対戦相手よりも、準決勝で勝つことだけを考えていたのです。
最終日は、夜の決勝に向けて準備をしました。午後に、王楚欽と馬龍の試合を見る時間が少しありました。両者とも非常によいプレーをしていて、勝負の分かれ目は勝負どころの1点の対応の差によって決まりました。
その時は試合に関係のないことは考えず、王楚欽との試合に向けて全力で準備しました。実際に決勝の対戦相手が誰であろうが、間違いなく試合は非常に厳しく難しいものになったでしょう。私は、自分が勝つために、そのように考えていました。
(まとめ=卓球レポート)