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世界卓球2023ダーバン 
‪樊振東‬が振り返る世界卓球(後編)

 初優勝を遂げた世界卓球2021ヒューストンから2年。世界卓球2023ダーバンにおいて、男子シングルス2連覇という期待にたがわぬ成果を挙げた樊振東(中国)。
 このインタビューでは、準決勝で梁靖崑(中国)、決勝では勢いのある王楚欽(中国)と実力伯仲の中国勢を連破しての見応えある優勝劇を繰り広げた樊振東に胸の内を明かしてもらった。
 後編では王楚欽と繰り広げたハイレベルな決勝を振り返るとともに、用具について、ビッグイベントでの中国勢の強さについても言及してもらった。

試合に入ると、準備不足だったと感じた

--決勝の王楚欽戦にはどのような戦術で臨みましたか?

樊振東 王楚欽に対しては、私は戦術面で優勢であるとは考えていませんでした。実際に、彼の3球目までの技術において、彼のサービスの種類の豊富さ、チキータの威力に私は苦しみました。試合全体を通しても、6ゲーム戦っている間、私は常にさまざまな困難に対処するためにあらゆる手段を尽くそうとしていました。
 ラリー戦においては、互いの技術レベルは高く、スピードもありますが、最終的にはどちらがより多くの攻撃を仕掛け、1本でも多く返すこと、そして、より自信を持ってプレーすることが重要でした。

--試合内容を振り返っていかがですか?

樊振東 王楚欽との決勝戦は、非常に難しい試合になることは予想できました。しかも、今回は彼の調子が非常に良く、お互いの実力差がなく、私も彼も優勝を熱望していました。
 難しい試合になることは予想していましたが、実際に試合に入ってみると、私は準備不足だったと感じました。
 彼の技術面、戦術面での準備を含め、特に彼の3球目までのラリー序盤での変化は大きかったです。試合序盤から、彼の実行力と精度の高さにかなりプレッシャーを感じていました。特に、最初の2ゲームは、対策を模索しながらプレーしていましたが、完全にその局面を打開することはできませんでした。
 しかし、2ゲーム目の終盤に6-8でリードされている場面で、私は自分の頭がクリアになっているのを感じました。非常に落ち着いていて、小さなチャンスをも生かすことができたのです。9-9からの2ポイントは自分のバックハンドがとてもよく、2ゲーム目を取ることができました。
 ここは、この試合を通して、ターニングポイントだったと思います。第2ゲームを取ったことで、1対1のスタートラインに戻すことができました。
 3、4ゲーム目も競り合いになりましたが、2ゲーム目を取った後、自分の勢いを感じ、自信を持って戦うことができたので、続く2ゲームも取り、3対1でリードすることができました。

--1、2ゲーム目に比べて、3ゲーム目からはバックハンドが改善されたように見えましたが、実際にはいかがでしたか?

樊振東 お互いに決勝まで勝ち上がってきたわけですから、彼の調子もよかったですね。いつもと違うことをやってくるのも予測してはいましたが、その変化や精度の高さにプレッシャーを感じ、私のバックハンドにミスが出たことは当然だと感じました。特に、第1ゲームはずっとリードされていたので、台からの位置取りやバック対バックでは思い切り振れない部分がありました。
 2ゲーム目は悪くはありませんでしたが、点差が離れず、チャンスを探っている状態でした。2、3点リードされている展開でしたが、最後、9-9からのバックハンド2本がよかったため、その後も攻めるバックハンドとブロックの切り替えがうまくいくようになりました。
 1、2ゲーム目は彼の巻き込みサービスに対して、レシーブに限界を感じていて、4球目への連係もうまくできず、思うようなプレーができていませんでした。
 王楚欽はこれまでの対戦では、通常の横回転(左回転)サービスからスタートしていましたが、この試合では出足から巻き込みサービスを使ってきました。このような変化は予想していましたが、やはり、本番では慣れるのに時間がかかってしまいました。

2ゲーム目の競り合いをバックハンドで制し、自信を持って思い切り振れるようになったと樊振東


--4ゲーム目のゲームポイント(11-10)でそれまでとは異なるサービスを出しましたが、その意図はどのようなものでしたか?

樊振東 あの最後のサービスは戦術の1つでした。あのゲームは終盤までリードしていましたが、追い付かれてからのサービスには非常にプレッシャーを感じていました。私は、なんとしても彼にチキータをさせたくなかったので、リズムの変化、長さの変化、モーションの変化で彼のチキータを崩そうと考えました。 
 最終的には、特に重要な場面の1回1回の選択がポイントになります。私は非常に幸運なことに、最後にはよい結果につながる選択をすることができました。

--第5ゲームではチャンピオンシップポイント(10-5)から、まさかの逆転を許しました。この時の心境はどのようなものでしたか?

樊振東 5ゲーム目も自分がコントロールできていると感じましたが、終盤になると少し焦りが生じてしまいました。戦術はそれほど細かいところまで考えていませんでした。
 10-5になったあとは、ただ1ポイントを取ることだけを考えていましたが、どのようにポイントを取るかまでは考えていませんでした。
 王楚欽はいくつかの素晴らしいプレーをしましたし、私のプレーには本当にチャンスがありませんでした。
 しかし、5ゲーム目を失ったあと、自分の心は比較的落ち着いていて、全体の流れを整理することができました。5ゲーム目の敗北のみに集中するのではなく、より広い視野で考えることができたのです。
 そのため、6ゲーム目はメンタルを安定させるための調整を含め、試合前に考えていた戦術を強い気持ちで実行できました。このゲームでは自分のプレーはより良くなったと感じています。それは、技術や戦術の面だけでなく、自分の心のコントロールや、その場面にふさわしい調整能力など、総合的に、より優れたパフォーマンスを示すことができたと思います。
 このゲームで勝つことができてとてもうれしかったですし、最終的に連覇することができたことも非常にうれしかったです。
 大会前から厳しい大会になるとは思っていましたが、結果についてはあまり考えずに、その過程をよくすることを考えてきました。その点では、自分には強い自信がありました。
 実際にいろいろな困難がありましたが、積極的に解決策を考え、逆転できた場面も何度かありました。連覇を決めた後は、もちろん、より自信を深めることができたと思います。

--優勝後、周囲の反応はいかがでしたか?

樊振東 試合後、いろいろな方にお祝いをいただきました。初優勝ではありませんが、優勝の意義は毎回違うし、得られるものも違います。時が違えば感じることも違います。
 私はもちろんうれしかったし、大会後には短い休暇がありましたが、すぐに次の国内の試合や国際大会に向けて練習を再開しました。
 この優勝で、自信は強くなりましたが、さらに高い目標を掲げているので、この大会での経験を生かして、次の大会でよりよいプレーをできるようにしなければならないと思っています。

自分自身を突破することを心掛けて挑戦した

--用具についてもお聞かせください。

樊振東 自分の名前のついたラケット『樊振東 ALC』でシングルスの世界チャンピオンになったのは今回が初めてです。用具は選手にとって、すごく大事なものです。昨年から少しずつ細かく調整してきて、自分が求めている感覚にだんだん近づいてきました。
 デザイン面でも、自分のラケットは個性的で、他にはないものにしたかったので、グリップエンドにゴールドのロゴプレートをつけてもらいました。自分の名前が入っていて、デザイン面でも特別なラケットで試合ができたことはとても光栄なことです。
 試合中にはミスもありましたが、性能面で用具を疑うことはありませんでした。用具を疑わずに済むことは「いい用具」「自分に合う用具」の条件だと思っています。いい用具でプレーすることができれば、ミスしても自信を失わずに、より前向きになれて、困難を克服できます。
 バタフライの用具は、ラケットもラバーも性能がすごく安定しています。大会中には安定性がとても大切です。メインラケットもスペアラケットの性能にも差があってはいけません。用具についての心配をしなくてもいいことは、大きなメリットになりました。

樊振東とともに戦ったラケットも彼に勝利をもたらす一因となった


--余談になりますが、決勝の前に対戦相手の王楚欽と練習をしている映像を見ました。これは通常のことなのでしょうか?

樊振東 そうですね。これは中国チームの伝統です。確かに、大きな大会の決勝では双方の選手が勝ちたいと思っています。これは疑いようのないことです。それにお互いのことをよく知ってもいます。例えば、今回、王楚欽は私のダブルスパートナーでもありました。
 しかし、私たちはお互いをよい競争相手だと思っていて、それは試合中のプレーにも表れていると思います。私は試合以外の場面ではチームの団結力を重んじていますし、選手間でも広い心であるべきだと思っています。
 自分としては、周りが思うほどはこだわってはいません。先輩たちもそうだったし、自分も同じようにできると思っています。

--中国選手は、国際大会の準決勝や決勝といった重要な試合で同士打ちになることが多いと思います。ベンチコーチなしで試合をする時に心掛けていることはありますか?

樊振東 私は普段からコーチとよく話し合いをしていますし、自分で考える時間もあります。若い選手ならば、試合中にコーチからの指示を受けて、それを実行する場合が多いかもしれませんが、自分の場合は、コーチとの話し合いを通じて、考える能力を養うような訓練をしています。大事な試合で、準決勝や決勝まで勝ち進むような選手ならば、試合でどのようにすべきかは分かっていると思います。
 もちろん、メンタル面も重要ですが、自分で考える能力を身に付けていれば、戦術を立て、実行することはベンチコーチがいなくてもできると思います。

--WTTなどでは外国選手に負けることがあっても、世界卓球やオリンピックでは中国選手が外国選手に敗れることは非常にまれです。この「本番」での強さはどのようにして培われているのでしょうか?

樊振東 それだけ大きな大会を重視しているからだと思います。大きな大会の前には必ずナショナルチームの合宿があります。この合宿はとても重要で、体調、けがのケア、メンタル、技術などすべての面において調整でき、自分のすべての能力を発揮できる最高の状態で大会に臨むことができます。
 普段の大会ではこれほど長い時間を費やして準備、調整することはありません。ですから、私たちも集中力が欠けていることもあるのだと思います。

--最後に、今後の目標をお聞かせください。

樊振東 今回の大会前も結果については考えていませんでした。結果よりも、むしろ、自分への挑戦、自分自身を突破することを心掛けていました。それが実現できたことは成果の1つです。
 今後の大会についても、得られるものがあるように、それが結果であれ、自分への挑戦であれ、一つの大会での優勝を目標にするのではなく、どんな大会でもこのような精神状態、考え方で向かうことが今後も最も自分がやりたいことです。
 結果を求めすぎると、自分への試練は小さくなります。結果よりも内容を求めることに価値があると私は考えています。

「結果について考えなかった」という樊振東が手にしたのは優勝という最高の結果だった


 世界卓球2連覇で、確実に「樊振東時代」を世界に印象付けることに成功した樊振東だが、2013年パリ、16歳で世界卓球に初出場を果たしてから王座への道のりは決して生やさしいものではなかった。張本智和インタビューで語っていた印象的な言葉を引用すれば、「彼の番」が回ってくるまでには桁外れの忍耐を強いられたことだろう。
 今回のインタビューの最後に彼が残した言葉、「結果を求めすぎると、自分への試練が小さくなる」には、常人には理解しがたい側面がある。試練が小さくなることを喜ばない者はいないだろうと安易に考えてしまうからだ。
 だが、樊振東は、優勝という結果(小さな試練)よりも、どのようにそこに至るか(大きな試練)にこそ価値があると考えているのだ。私たちは彼を世界王者ともてはやし、それこそが最高の栄誉だと想像しているが、ひょっとしたら、それは大きな試練を乗り越えた者に与えられたご褒美のほんの一部なのかもしれない。
 いつかじっくり彼の話を聞いてみたいと思う。

(まとめ=卓球レポート)

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