三 道場十五戒
幸福は芸術の敵だ(ショパン)
ポーランド生れの大音楽家ショパンのこの言葉の原語はよく知らない。ある雑誌で読んだこの言葉に感銘してこれを掲示した。
昭和五十八年五月のある日、世界卓球選手権東京大会で来日されたポーランド卓球協会のダハルスキー会長と新聞記者に、その話をしたところ非常に感激され、来年ポーランドで開催の世界学生スポーツ大会に招待され、ショパンの博物館を案内することを約束された。
ショパンの人生は波乱に富んだ流浪の旅であったようだ。何度かの浮沈を味わったその人生の中で、優れた作品をつくったのは、常に彼の不幸な時期であったようだ。人にもてはやされ、その生活が幸福になると、彼の作品はダメになった、ようである。
彼自身がふりかえって、「幸福は芸術の敵だ」と述懐した気持は、長い人生を体験した人にはよくわかるのではあるまいか。スポーツ選手で大成した人も、その選手のきびしい生活環境を背景にした場合が多い。
人間は元来怠け者であるのかもしれない。ちょっと生活が豊かになり、ちょっとその人に幸福が訪れると努力心が薄れやすい。常に訪れる大小の誘惑とたたかい、それに打ち勝つ、質の高いハングリーな精神を持ちつづける人が、自らの道をひらき、より高い境地に達するのであろう。
[卓球レポートアーカイブ]
「卓球は血と魂だ」 第二章 三 道場十五戒⑧
2013.08.12
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