第三章 卓球の炎をかかげて
十三 新道場のスタート
卓球の大選手づくりには小学生時代から、とする考え方は今や世界の常識である。日本でも早くからこれに着目してきた人は少なくないが、その最たる一人は青森県弘前市の佐藤久蔵氏。二〇年間に六〇人以上の好選手を育成し、今なお自宅の道場で年中無休の少年訓練を続けておられる。卓球王国青森県からは、戦前の大選手今孝選手をつくり出すまでに長い歴史がある。戦後、日本人初の世界チャンピオンとなった佐藤博治選手以来も数々の名選手を輩出してきた。最近では河野満選手であるが、その形だけをマネしたんではそれ以上の選手にはなれない。
佐藤久蔵さんは「河野がチャンピオンになって日本の卓球がスケールの面で弱くなった、と見ている。第二の河野を目指すなら、すべてが河野を上回る努力が必要だ」という。「糖塚でもそうです。フォームは速く振れば小さくまとめてもよい、というものではない。球威がなければ中・高生のレベル以上にはなれない」「フォアハンド系打法の基本は単純なドライブではなく、威力のあるロング性スマッシュ性ボールでなければならない」「バックサイドの基本は完璧なショート、プッシュ、バックロング、ハーフボレ―、それに回り込みの連けいプレーと、フォアへの飛びつき強打」など、長いお手紙をいただいた。
こういう少年訓練に情熱を燃やす方々の間で討論会をやったらどうだろう。私達は長い念願の少年訓練、一流同士の切磋琢磨と勉強の場をつくることにした。そしてママさんやベテラン選手の講習会も行ないたいし、各国からジュニア選手を受け入れて国際交流もやりたい。国際的な一流コーチを招いての指導者講習等もやりたい。そんな場所をいま建設中である。このために土地六億、建物四、五億、各種撮影設備等一・五億、計一二億円を投じ新年四月にオープンする。
長年の私達の夢の実現といわせていただきたい。読者皆さんご上京の時にはご利用いただきたい。ただし、私たちはこの計画で簡単に日本が強くなると思っていない。二〇年前までの日本とちがって、今は豊かな生活ができる日本となった。いろんな遊びや誘惑の多い日本になった、ということが日本が弱くなった大きな原因である。少年選手たちも、一流選手たちも、優秀な素質と強い信念をもって、たゆみなく高いレベルを目指す人物が出てくるかどうか。また、それを助け、激励する水準の高い情熱的指導者が出てくるかどうか。
理論や施設だけで人物はつくれない。また元名選手がいれば人が出来るわけでないことを私はよく承知している。ただ、ハッキリ言えることは選手にとっては常に大きな刺激が必要ということだ。それは試合に出て負けることであり、勝つことであり、よい選手や試合を見ることである。高い水準を目指す選手にとっては練習の場が一つであってはマンネリ化する。こうした道場があちらこちらに出現してほしい。道場同士で競争をすることだ。大学同士や実業団同士も訓練を競いあい、その質が向上することを望むと同時に、この道場が選手たちにとっての光明となることを祈る気持ちだ。私達の努力が日本の再建への火つけ役になれば光栄である。
(卓球レポート一九八三年一月号)
[卓球レポートアーカイブ]
「卓球は血と魂だ」 第三章 十三 新道場のスタート
2013.10.03
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