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「卓球は血と魂だ」 第四章 六 ファミリースポーツの育成

六 ファミリースポーツの育成
-昭和56年8月1~2日、余暇開発センター主催により、日本で初めてスポーツ文化会議開催されました。その時、パネラーの一人として田舛彦介の講演の一節です-
 
 スポーツとお国柄

 田舛 ごく最近、アラブ首長国連邦の卓球のコーチをしている人から、いろいろ相談を受けてお話し合いをしたのです。アラブでは、大体月給が二〇〇〇ドルから三〇〇〇ドル。邦貨に直して四八万円から七二万円ぐらいが月給でございます。そしてホテル付、車付、一年には二ヵ月の休暇が与えられ、国へ帰る飛行機代も皆持ってくれると。そういうことで非常に恵まれたコーチ生活ができるわけです。

 その国の選手たちはどんなふうかといいますと、練習手当というのがつき、一日練習に出てくれば七〇〇〇円の日当がつきます。しかしながら、選手はあまり練習をやりたがらない。休んだ方がよいということで、試合にも無断で出てこないというようなことがありまして、恵まれたコーチであるようですが、四五度の暑さの中で、そういう選手をどうやって練習させるかというようなことで、いろいろ苦労がある。そういうようなことで、恵まれた国という場合、恵まれ過ぎましても、スポーツにならないというような状態もございます。もちろん世界にはカンボジア、ベトナム、その他非常に貧乏な、飢えに苦しんでいる所も多いわけでして、そういう所ではスポーツどころではありません。

 ですから、そういうことを除いて世界を見ますと、社会主義国と自由主義国という、世界を大別すればその二つに分かれると考えられます。社会主義国のスポーツはご承知のように、勝利主義と言いますか、チャンピオンスポーツ中心でございまして、みんなの楽しみという方向には重点がないわけで、選手の英才教育ということに国が力を入れ、オリンピックで国旗を上げ国歌を歌うということが目的です。
 自由主義国の場合、西ヨーロッパ、アメリカ、日本というような豊かな国の場合が、これからの話の例になるというふうに思います。私、いろいろな国を見てまいりました実感でございますけれども、西ドイツのスポーツが一番進んでいるのではないかと思います。
 
 西ドイツの例

 田舛 スポーツゴールデンプランというものが、いまここで話題になっておる段階のものは、すでに二〇年前に話題にされ、二〇年計画でスポーツゴールデンプランというものが西ドイツでは進められております。国と州と市で、あらゆるスポーツの施設をあらゆる都市につくるというようなことで、国民であればだれでもが好きなときに好きなスポーツをやれるというような施設づくりが進んでおりまして、私は一〇年前に、ジュイスブルグという人口五~六万人の一都市でございましたけれども、そこのその施設を見ました。サッカー場が7つ並んでおりまして、もちろんテニスその他の屋外競技場も並んでおります。それから、バスケット、バレー、その他のスポーツがやれる室内競技場もむねを並べておるわけです。そして近くには人工でつくられた川がございまして、そこではボートとかヨットをやっております。それからすぐその周りには合宿施設がございまして、夏休みとか学校の休み期間は、学校の先生その他が希望すれば、そこでスポーツの指導者になれる教育を受けられる。そういうような、国と州と市で進められておる「スポーツゴールデンプラン二〇年計画」というものがございます。

 これはさておきまして、今度は町の中でどのようなスポーツ活動をしているかという点で申しますと、小学校、中学校等の公共体育館というものは、夜は各種のクラブ活動に利用されております。この辺は日本がすぐまねのできるところでございます。ジュイスブルグの町の、ある小学校に夜行ってみますと、そこはある卓球クラブ専用練習場にしております。それから隣にある小学校は、バドミントンのあるクラブが利用しておりました。夜六時から一〇時まではそのクラブがこの体育館を借りて練習をする。その管理はクラブ員、クラブ自体が自主的に管理する。ただし、用務員さんにはお世話になりますから、一定のお金を謝礼として支払うというようなことで、非常に合理的に進められております。

 きょうの会議は、どうしたら国民みんながスポーツをやれる時代になれるかという問題だろうと思うのですが、日本の場合みんなが家族的にやれる、簡易で安上がりなスポーツというようなものが、やはり大事なポイントではないだろうかと思います。日本のファミリースポーツの原点としては、いろいろあると思うのですけれども、私は卓球の関係者でございまして、卓球の方の身近な例を3つほど話題として提供したいと思います。

 卓球におけるファミリースポーツ

 田舛 埼玉県に花園村という村がございます。一〇数年前にそこの村長さんが、卓球をその村の村技に指定いたしました。村内各所どんなところにも卓球台を備えつけさせるということをやりました。これは村民全体のコミュニケーションというものをよくする。それから、子供からおじいさん、おばあさんまでみんなが卓球をやることによって、反射神経を養って交通事故を防止する、というような目的をもって村長さんはそういうことをやっています。

 それから、ママさんスポーツと老人のスポーツの一つの典型として申し上げますが、ママさんスポーツは現在、バレーボール、テニス、卓球、バドミントンというようなところが、四大スポーツとしてママさんに愛好されております。最近、非常にこれが各地で盛んになっておりまして、ママさんというのがお金を持ち、暇もありますから、だんだんその方が盛んになるのは結構なことかと思います。これがファミリースポーツの原点の一つです。

 それから、老人社会ということがこれからいろいろ問題になってくるわけでございましょうけれども、卓球のベテラン大会がどのように行われるかということの、一つの例を申し上げます。全国ベテラン卓球大会というものが、個別に独立したものとして行われるようになって一〇年になりますが、最初は三〇歳代以上の部、四〇歳以上の部、五〇歳の部、六〇歳の部というのがありましたけれども、現在は七〇歳以上の部というのができ、ことしから八〇代というのが生まれました。

 そうなりますと七八、九歳の老人、と言ってはいけないんですけれども、そういう七〇代後半の人たちが、急に若々しくなって八〇代を目指すというようなことで、毎年その参加者が増えて、いま一〇〇〇人近い参加者があり、四〇台の卓球台で二日間かかる。そのようなことが、静岡で毎年行われています。そのように、スポーツというもの、ファミリースポーツの大事なポイントとしては、先ほど来皆さんがおっしゃっておられるように、要約すると施設、安上がりの簡易性、お金の問題、それから指導者の問題、あるいは組織の問題とあるわけでしょうが、もう一つ指導者の問題として、最後につけ加えたいと思います。

 従来、体育協会だとか、あるいは何とかスポーツの協会とかいうところで、指導者養成を行って、そこで何級コーチ、あるいは上級コーチというようなことをやって、何級コーチの人は最近では指導料が一時間二〇〇〇円、あるいは三〇〇〇円、一番高いので五〇〇〇円というような権威づけをして指導者の育成、というようなことをやっております。一つ非常に身近な例として申し上げますが、神奈川県家庭婦人卓球連盟というのがございます。これは各県に家庭婦人のスポーツ連盟ができていると思うのですが、その神奈川県の卓球家庭婦人は、登録人員が三〇〇〇名近くなりました。そして年に2回全県的な大会-もちろん各市の大会もやっておるわけですが-に、一回にママさんが二〇〇〇人出てくるようになりました。これを、1日でやりこなすわけです。これはどのようにやっているかと言いますと、台を四〇台に分けてAクラス、Bクラス、Cクラス、そしてD、Eその中にまた7つずつの組をつくって、合計一〇〇以上がその日の優勝者になるという、非常にうまいやり方でやっておるわけですが、四〇台のコート審判長がそれぞれいるわけです。それはどのように養成したかと言いますと、神奈川県家庭婦人卓球連盟がいろいろな指導者を呼んで、年に2回くらい指導者講習会をやります。それで、ママさん自身全員が審判長になれるように講習会をやっております。ですからこれがファミリースポーツというものを発展させていく一つの典型かと思うのでありますけれども、それをやる人たちは、小学校を夜借りたとしても、そこを汚さないできちんと整理できるように、やはりみんながマナーを向上させていかなければならない。

 それをやっていけるようにする指導者は、一人一人全部が指導者になれるというような方向で底辺をよくしていく、広げていく。自分も指導者になれるというふうに自主的な、何事も管理ができるような癖をつけていく。この教育が大事ではないかと思います。

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