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「卓球は血と魂だ」 あとがき 日本は再び世界制覇できる

日本は再び世界制覇できる

 田舎で生れ、指導者もなく、体格にも恵まれず、学業もすぐれない。いつも何か劣等感におそわれそうな少年であった自分が、幸いにも何とか人のためになるような仕事をしてこれました。そして早くも五十年余の卓球界の経験を重ねてきました。
 これは偏えに卓球界の盛運に恵まれ、友人に恵まれ、取引先に恵まれ、そして特に家族と社員に恵まれてきた結果だったと思います。これまで私の仕事を助けて下さった皆様に心から感謝しております。
 しかし、まだ満足感がなく、まだ何かをやらなければならぬ、と考えて、夜ねむれないことがあります。ある経済誌の編集者は、「ハングリー精神を失わぬ田舛…」と書かれましたが、それはかっこうのよい話で、一種の貧乏性と云ってもよいでしょう。
 基本的には“卓球”をもっと素晴らしいスポーツにしなければならない、と念願しつづけているわけです。目の前の課題としては“日本”をもう一度、世界の王座につかせなければならない、という目標が依然として残されているのです。これは全国の多くの卓球を愛する皆様と同じ願望であるわけです。
 “卓球”を向上発展させる考え方については、この本の中で述べました。日本人の一人としての願望である世界再制覇については、やれば出来ること、と考えます。コーチの制度とか認識が向上しなければならぬこと、そしてコーチも選手も質の高い訓練を始めなければならぬ、と思います。
 それは経済的な豊かさや、誘惑の多い社会環境にまどわされず、一途に自己の節制に努め、高い目標を目指す錬磨と卓球を愛する情念に燃えて、燃えつづける選手が出てくるかどうか、という点にかかっていると思います。国民生活環境が貧困で、スポーツ選手であることで生活が保証されている社会主義国と比べ、日本など自由主義国のスポーツマンはある意味で悪条件を背負っている、と云えます。
 だが、だから負けるんだ、ということでなく、やり方はあるのではないかと思います。やさしいことではありません。指導層が考え方を改めなければならないこともありましょう。スポーツを社会教育と考える日本の良さを失うことがあってはならない、と思いますが、トップが強くなることは“日本人の誇り”につながることであり、負け犬で満足していては、弱い日本の定着が、やがては日本人の自意識低下=墜落に関連していくのではないか、と心配します。
 こういう状況の中で質の高いハングリー精神に燃える選手が一人でも二人でも出てくれば、それが日本人の誇りと活性化を、スポーツ以外の分野でも高める作用をすることを私は確信します。
 今や社会主義諸国の人々にだって種々の悩みが生れてきており、スポーツと勉学、スポーツと人生などいろいろの悩みは同類のものがあり、やはり世界一になるような人は自己との闘いにも打ち克って、その域に達するのである、と云えるのではないでしょうか。
 一方、子供から老人にまで、夏でも冬でも、雨でも風雪でも、日中でも夜間でも楽しめる卓球は、ファミリースポ-ツ、生涯スポーツとしてもっと普及させ、社会の認識を高める努力をしなければならぬ、と思います。私達はこの面でもあらゆる試みをやりたいと考えており、その一つの目標が東京の近郊に六十台のコートを備える“卓球トーナメントセンター”の建設であります。
 十年後にそれができたら、そしてその設備が維持できるようになったら、私はある程度満足できるかもしれません。だが、私が最も望み期待していることは、私と同じようなことを、否、私以上の仕事を、全国いたる所で誰かが始めてもらいたい、ということであります。そんな状態になってきた時こそ、日本は一段と強くなり、卓球の社会的地位も上ることでしょう。

 

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