最近、特に中学生や高校生の選手で一度負けた相手に続けて負ける選手を試合で見受ける。そのたびに私は残念に思えてならない。
力の差がそれほどなければ、2連敗を食い止めるのはそれほど難しいことではない。なぜなら一度勝った選手は研究不足から同じ戦法をとったり油断から気力不足になりやすく、逆に負けたほうは試合前に相手を研究し新しい戦法を考え気力を充実させて試合に臨むからである。
私も一度負けた相手とやるときは、試合前にも試合中にも「今度こそは絶対に負けるもんか。絶対に勝つぞ!」とものすごく闘志を燃やした。それと、試合前に一度負けたときの試合を何度も反省して、二度続けて負けない戦法を考えそれを実行したからだった。これが、国内の試合でも国際試合でも同じ相手に二度続けて負けたことの数少ない大きな原動力となった。国内の試合では、高校時代に連敗したのは一度しか記憶にない。日本の第一線にデビューした大学1年(昭和40年)からは、10年目の昭和49年の全日本選手権の準決勝で、47年の全日本の決勝戦以来2年ぶりに闘ったカットの高島選手に敗れるまで一度もなかった。このことは、私の卓球生活の中で誇りに思うことである。ではこれから、二度続けて負けないためにはどうしたらよいか順に述べることにしよう。
二度続けて負けることが大嫌いになれ!
同じ相手に二度、三度続けて負けている選手の中には、連敗しても平気な顔をしている選手が多い。これでは勝てない。絶対に勝とうとか、絶対に負けられないとかの決心がないために、闘志も集中力も作戦も中途半端になって同じことを繰り返してしまい勝てない。このように負けた試合を強く反省しない選手は、日頃の練習もおろそかになりがちで一向に伸びない。
二度続けて負けるのを食い止めるには、まず第一番目に「2連敗など死んでもいやだ」と思うことだ。そうすれば、負けた原因を強く反省するようになり、次に対戦したときのことを想定した練習をするようになる。これでグーンと強くなれる。試合前も試合中も「絶対に勝とう」と思っていると、闘志、集中力、戦法が比較にならないほど充実しやすい。また、自信を持ってやることができるのでいいプレイが連続して出やすい。
私は、「同じ相手に二度続けて負けるのが大嫌い」だった。「二度続けて負けることは恥だ」「二度続けて負けたら現役引退」または「二度続けて負けて苦手を作ってはいけない」と思っていた。このために、一度負けたあとは「次にあたったら、こう戦う」と考えながら練習をやり、試合も試合中も万全な態勢で臨むようつとめた。それが結果的に10年間にわたって連敗しないですんだ大きな原因だと思う。
誰でも、このように「2連敗など死んでもしたくない!恥だ!」と思えれば、真剣に試合に臨むようになるし、練習も夢中でするようになる。連敗を食い止めるだけでなく大きく向上するためにも役立つ。連敗をきらう心の決心が第一だ。
決して弱気になるな!自信を持って臨め
連敗する選手の多くは弱気になる人が多い。そのために、中途半端な闘志、集中力、戦法で続けて負けてしまう。
たとえば、「一度負けているから対戦するのがイヤだ」「あの選手には勝てない」「やりにくい相手だからやりたくない」などと試合前から逃げてしまう選手がいる。このような弱気な選手は、自信がないために思い切ったプレイをしないし良い戦法が浮かびにくい。気持ちに余裕がないので自滅してしまいまず勝てない。
一度負けた相手と対戦するときは「今度こそは、絶対にやっつけるぞ!」「絶対に負けてたまるか!」「必ず勝って帰るぞ」という強い闘志、気力、自信を持つことがまず大切である。そしてその次には「こう攻めれば勝てる」「そのときのこういう点に注意したら勝てる」という強気の作戦を試合前にしっかり考えて出ることである。
そして試合に臨んでは、攻撃型も守備型も絶対に消極的な戦法を取らないで十分に考えた積極的な戦法を思い切って実行し、自分のプレイに自信を持つことだ。と同時に粘り強く作戦に従ってプレイすることが大切である。
リラックスしてやれ
それと、もう一つ大事なことがある。それはリラックスしてやることだ。
一度負けた相手とやるときは、自信を持つことがなかなか難しく、リラックスしていい状態で試合するのは至難の技である。試合の前にただ相手以上の闘志を燃やし戦法を考えただけでは、ますます固くなる場合がある。反対にリラックスすることだけを考えてやると戦法に一貫性がなくなったり、プレイが雑になったり、打つときにからだがバラバラになってこれまたいいプレイができない。
勝敗にこだわらず思い切ってやれ
絶対に勝つ信念や、相手以上の闘志、集中力を持ち、しっかりとした戦法を考えた上でしかもリラックスしていいプレイができるように、私は常に次のようなことを考えた。
・相手を尊敬する
・相手に教えてもらう気持ちで...
・勝敗にこだわらず、今まで積み重ねてきたすべてを出す
・結果を恐れず思い切りやる
・自信をもってやる
・ラクな気持ちで
・強気で闘う
・落ち着いて行なう
・しっかり動く
・相手を呑んで行なう
・フォアハンド、バックハンドとも振り切る
・最後まで絶対にあきらめない
このようなことを、ノートに書き込んで何回も心に言い聞かせ、そしてプレイ中にそのとおりやっているかどうか反省しながらプレイを続行させていった。このために、冷静に試合を進めることができ、闘志、集中力をも高めることができた。2連敗を食い止める大きな原動力となった。私にとってみれば早くからこうした自分の性格にあったコンディション作りをしたことが、大学1年生から日本の第一線に食い込むことのできた原動力となったと思う。
この自分にあったコンディション作りを早く身につけるには、常に真剣な練習、試合前のウォーミングアップ、試合を積み重ねなければならないことはいうまでもないことである。
戦法をよく考えてから臨む
試合の心構えができたら、次は戦法をよく考えることである。このとき、前回と同じ戦法を使わないで今度こそは相手に勝てる戦法を考えてから試合に臨むことである。
たとえば、攻撃型が負けるときによくあるケースで、フォア前やバック前に出された変化サービスをバック側へツッツいて打たれて負けるケースがある。そんなときには、次は両サイドへ払って攻めるのを主体とし、ときどき短く止めることを考える。バック側にボールが集まったために負けたときは、フォア側へ特にバックストレートを多く使って激しくゆさぶる。短い変化サービスにかたよりすぎて先手がとれず負けたときは、ロングサービスを少し多目に使ってラリー戦を多くする。ドライブに頼りすぎたときは好球必打に徹する。カットマンが粘るだけのカットに頼りすぎて負けたときは、よい場面で3球目攻撃をする...など、前回の試合を基に基本的な作戦を立ててから臨むことである。
私と中部日本学生No.1の西飯徳康選手(名商大→西飯スポーツ、現在も活躍していて'73全日本ランク7位)との試合の例を上げてみよう。
私が大学1年の10月に行なわれた東海学生選手権の準決勝のときだった。私は試合前に6月に行なわれた中部日本選手権で対戦して負けたときの試合や、練習試合を何度も思い出した。すると、左利きの西飯選手が逆モーションでバック側へ小さく出してくる変化サービスをバック側へツッツいたときはパワードライブを浴びてほとんど得点されていた。それと、西飯選手のショート対私のバックハンドの打ち合いになったとき、早いラリーのうちにフォアへ回すと待たれて得点されていた。
そこで私は次の作戦を立てた。
・バック側に短く出してくる逆モーションの変化サービスは勇気を持って回り込んで払い、3球目のショートを両サイドへドライブで思い切って攻撃する。もし、ツッツキをするときはフォアへ強く切って返し、ドライブをショートで1本止めてから逆にドライブで攻める
・西飯選手のプッシュ対私のバックハンドのラリーになった場合、バックへじっくり粘ってからチャンスボールだけを両ハンドで攻める
・ロビングに追い込まれたときは、何本も粘り強く打ち返す
・精神面では、リラックスしてやる。自信を持ってやる。最後まで絶対にあきらめない。思い切ってやる。常に積極的にやる。がむしゃらに動く。
...などを考えてからコートに出た。
結果は、打撃戦となり接戦だったが、"ここ1本"というところで私の戦法が当たって、ドライブで先手、先手と攻めることができ、またバックハンドやロビングも好調で西飯選手にストレート勝ち。勢いに乗って決勝戦でも勝ち1年生で初優勝した。
ウォーミングアップをいつもの2~3倍近くやれ
私がこのときにもう一つ良かったのは、ウォーミングアップをたくさんやったことだ。バック側に回り込んで払うレシーブからの4球目ドライブ攻撃や、左利きのフォア側へ切ったツッツキから、3球目のパワードライブを止めるショートのシャドープレイ、相手のプッシュ対バックハンドの打ち合いからの回り込みドライブ攻撃のシャドープレイ...などを、額から大粒の汗が出るほどやった。これが闘志をかきたて、気持ちを和らげ、試合での集中力、決断力、勇気となって自分の納得のいくプレイとなった。このときは、いつもの2~3倍程のシャドープレイをしたが、一度負けた相手とやるときはそのぐらいのウォーミングアップ量はどうしても必要である、と私は思う。
効く戦法をどしどし使っていけ
さて、いよいよ試合。一度負けた相手と対戦するのはやはりイヤなもので、いくらリラックスするように自分に言い聞かせても固くなりやすい。しかし、試合前に考えた心、技、体、智(戦法、決断)を勇気を持って思い切りやるしかない。
ところが、ここで一つ注意しなければならないことがある。
慎重な相手や研究熱心な相手の場合だと、一度勝ったことで慢心せず研究して違った戦法でくる場合がある。
たとえば、こちらがドライブでのバック攻めの作戦でいこうとしていても、相手も「前の試合でバック側にドライブで攻められたときにミスが出た。おそらくまたバックに攻めてくるだろう。それでは今度はそれを待って逆にゆさぶって攻めこんでやろう」という作戦をとってきたりする。
このように、相手も研究してくるので最初に戦ったときに効いた作戦が全然効かない場合がある。
したがって、試合前に考えた戦法を最後まで固守しようとするのは絶対に禁物である。そのようなときには、効くと思われるコースにいろいろな変化サービスを出してみて、そのときに効いたサービスや効いたレシーブ効いた攻撃をしっかりと頭に入れ、それらを相手に読まれないようにうまく組み合わせて積極的に攻めていくことが大切である。
それが「試合の前にはしっかりと作戦を立てる。しかし、試合に臨んでは立てた作戦を白紙に戻すことが大事である。また、試合前に作戦を立てるときには一つの作戦だけでなく二つ以上の作戦を立てることが大切である」といわれるゆえんである。
たとえば、ドライブマンがショートマンとやる場合、フォアに離してからバックを攻めるのが定石だが、バックを攻めてからフォアを攻める作戦やドライブオンリーになってドライブが効かなくなった場合は、境目のボールを思い切ってスマッシュで狙っていって相手のタイミングを狂わすとかする。また、ときどきカットを混ぜて相手の攻撃のタイミングを狂わす...などの作戦をも持って試合に臨み、第一の戦法が効かなかったときは第二、第三の戦法に切りかえていく...というように試合前に考えておくことだ。
守備型のカットマンがドライブマンとやる場合も、中、後陣で切ったカット、切らないカットを混ぜて粘るのが定石だが、これだけではカット打ちのうまい選手と当たった場合は苦しい。そこで、ときどき変化サービスからの3球目ドライブやスマッシュをしかけたり、ゆるくつないできたドライブを飛び込んで反撃して相手の意表をつき、カット打ちのリズム攪乱させる必要がある。また、ストップボールを読んで狙っていく...などの作戦をも持って試合に臨むとよい。
しかし当然のとこだが、いくらいい作戦を立ててもそれを試合で実行できる練習をしておかなければ勝てるものではない。作戦におぼれてかえって自滅する結果になったりしないよう、普段から自分の実力にあった作戦を考えつつ着実に努力していくことが大切である。
力の差がそれほどなければ、2連敗を食い止めるのはそれほど難しいことではない。なぜなら一度勝った選手は研究不足から同じ戦法をとったり油断から気力不足になりやすく、逆に負けたほうは試合前に相手を研究し新しい戦法を考え気力を充実させて試合に臨むからである。
私も一度負けた相手とやるときは、試合前にも試合中にも「今度こそは絶対に負けるもんか。絶対に勝つぞ!」とものすごく闘志を燃やした。それと、試合前に一度負けたときの試合を何度も反省して、二度続けて負けない戦法を考えそれを実行したからだった。これが、国内の試合でも国際試合でも同じ相手に二度続けて負けたことの数少ない大きな原動力となった。国内の試合では、高校時代に連敗したのは一度しか記憶にない。日本の第一線にデビューした大学1年(昭和40年)からは、10年目の昭和49年の全日本選手権の準決勝で、47年の全日本の決勝戦以来2年ぶりに闘ったカットの高島選手に敗れるまで一度もなかった。このことは、私の卓球生活の中で誇りに思うことである。ではこれから、二度続けて負けないためにはどうしたらよいか順に述べることにしよう。
二度続けて負けることが大嫌いになれ!
同じ相手に二度、三度続けて負けている選手の中には、連敗しても平気な顔をしている選手が多い。これでは勝てない。絶対に勝とうとか、絶対に負けられないとかの決心がないために、闘志も集中力も作戦も中途半端になって同じことを繰り返してしまい勝てない。このように負けた試合を強く反省しない選手は、日頃の練習もおろそかになりがちで一向に伸びない。
二度続けて負けるのを食い止めるには、まず第一番目に「2連敗など死んでもいやだ」と思うことだ。そうすれば、負けた原因を強く反省するようになり、次に対戦したときのことを想定した練習をするようになる。これでグーンと強くなれる。試合前も試合中も「絶対に勝とう」と思っていると、闘志、集中力、戦法が比較にならないほど充実しやすい。また、自信を持ってやることができるのでいいプレイが連続して出やすい。
私は、「同じ相手に二度続けて負けるのが大嫌い」だった。「二度続けて負けることは恥だ」「二度続けて負けたら現役引退」または「二度続けて負けて苦手を作ってはいけない」と思っていた。このために、一度負けたあとは「次にあたったら、こう戦う」と考えながら練習をやり、試合も試合中も万全な態勢で臨むようつとめた。それが結果的に10年間にわたって連敗しないですんだ大きな原因だと思う。
誰でも、このように「2連敗など死んでもしたくない!恥だ!」と思えれば、真剣に試合に臨むようになるし、練習も夢中でするようになる。連敗を食い止めるだけでなく大きく向上するためにも役立つ。連敗をきらう心の決心が第一だ。
決して弱気になるな!自信を持って臨め
連敗する選手の多くは弱気になる人が多い。そのために、中途半端な闘志、集中力、戦法で続けて負けてしまう。
たとえば、「一度負けているから対戦するのがイヤだ」「あの選手には勝てない」「やりにくい相手だからやりたくない」などと試合前から逃げてしまう選手がいる。このような弱気な選手は、自信がないために思い切ったプレイをしないし良い戦法が浮かびにくい。気持ちに余裕がないので自滅してしまいまず勝てない。
一度負けた相手と対戦するときは「今度こそは、絶対にやっつけるぞ!」「絶対に負けてたまるか!」「必ず勝って帰るぞ」という強い闘志、気力、自信を持つことがまず大切である。そしてその次には「こう攻めれば勝てる」「そのときのこういう点に注意したら勝てる」という強気の作戦を試合前にしっかり考えて出ることである。
そして試合に臨んでは、攻撃型も守備型も絶対に消極的な戦法を取らないで十分に考えた積極的な戦法を思い切って実行し、自分のプレイに自信を持つことだ。と同時に粘り強く作戦に従ってプレイすることが大切である。
リラックスしてやれ
それと、もう一つ大事なことがある。それはリラックスしてやることだ。
一度負けた相手とやるときは、自信を持つことがなかなか難しく、リラックスしていい状態で試合するのは至難の技である。試合の前にただ相手以上の闘志を燃やし戦法を考えただけでは、ますます固くなる場合がある。反対にリラックスすることだけを考えてやると戦法に一貫性がなくなったり、プレイが雑になったり、打つときにからだがバラバラになってこれまたいいプレイができない。
勝敗にこだわらず思い切ってやれ
絶対に勝つ信念や、相手以上の闘志、集中力を持ち、しっかりとした戦法を考えた上でしかもリラックスしていいプレイができるように、私は常に次のようなことを考えた。
・相手を尊敬する
・相手に教えてもらう気持ちで...
・勝敗にこだわらず、今まで積み重ねてきたすべてを出す
・結果を恐れず思い切りやる
・自信をもってやる
・ラクな気持ちで
・強気で闘う
・落ち着いて行なう
・しっかり動く
・相手を呑んで行なう
・フォアハンド、バックハンドとも振り切る
・最後まで絶対にあきらめない
このようなことを、ノートに書き込んで何回も心に言い聞かせ、そしてプレイ中にそのとおりやっているかどうか反省しながらプレイを続行させていった。このために、冷静に試合を進めることができ、闘志、集中力をも高めることができた。2連敗を食い止める大きな原動力となった。私にとってみれば早くからこうした自分の性格にあったコンディション作りをしたことが、大学1年生から日本の第一線に食い込むことのできた原動力となったと思う。
この自分にあったコンディション作りを早く身につけるには、常に真剣な練習、試合前のウォーミングアップ、試合を積み重ねなければならないことはいうまでもないことである。
戦法をよく考えてから臨む
試合の心構えができたら、次は戦法をよく考えることである。このとき、前回と同じ戦法を使わないで今度こそは相手に勝てる戦法を考えてから試合に臨むことである。
たとえば、攻撃型が負けるときによくあるケースで、フォア前やバック前に出された変化サービスをバック側へツッツいて打たれて負けるケースがある。そんなときには、次は両サイドへ払って攻めるのを主体とし、ときどき短く止めることを考える。バック側にボールが集まったために負けたときは、フォア側へ特にバックストレートを多く使って激しくゆさぶる。短い変化サービスにかたよりすぎて先手がとれず負けたときは、ロングサービスを少し多目に使ってラリー戦を多くする。ドライブに頼りすぎたときは好球必打に徹する。カットマンが粘るだけのカットに頼りすぎて負けたときは、よい場面で3球目攻撃をする...など、前回の試合を基に基本的な作戦を立ててから臨むことである。
私と中部日本学生No.1の西飯徳康選手(名商大→西飯スポーツ、現在も活躍していて'73全日本ランク7位)との試合の例を上げてみよう。
私が大学1年の10月に行なわれた東海学生選手権の準決勝のときだった。私は試合前に6月に行なわれた中部日本選手権で対戦して負けたときの試合や、練習試合を何度も思い出した。すると、左利きの西飯選手が逆モーションでバック側へ小さく出してくる変化サービスをバック側へツッツいたときはパワードライブを浴びてほとんど得点されていた。それと、西飯選手のショート対私のバックハンドの打ち合いになったとき、早いラリーのうちにフォアへ回すと待たれて得点されていた。
そこで私は次の作戦を立てた。
・バック側に短く出してくる逆モーションの変化サービスは勇気を持って回り込んで払い、3球目のショートを両サイドへドライブで思い切って攻撃する。もし、ツッツキをするときはフォアへ強く切って返し、ドライブをショートで1本止めてから逆にドライブで攻める
・西飯選手のプッシュ対私のバックハンドのラリーになった場合、バックへじっくり粘ってからチャンスボールだけを両ハンドで攻める
・ロビングに追い込まれたときは、何本も粘り強く打ち返す
・精神面では、リラックスしてやる。自信を持ってやる。最後まで絶対にあきらめない。思い切ってやる。常に積極的にやる。がむしゃらに動く。
...などを考えてからコートに出た。
結果は、打撃戦となり接戦だったが、"ここ1本"というところで私の戦法が当たって、ドライブで先手、先手と攻めることができ、またバックハンドやロビングも好調で西飯選手にストレート勝ち。勢いに乗って決勝戦でも勝ち1年生で初優勝した。
ウォーミングアップをいつもの2~3倍近くやれ
私がこのときにもう一つ良かったのは、ウォーミングアップをたくさんやったことだ。バック側に回り込んで払うレシーブからの4球目ドライブ攻撃や、左利きのフォア側へ切ったツッツキから、3球目のパワードライブを止めるショートのシャドープレイ、相手のプッシュ対バックハンドの打ち合いからの回り込みドライブ攻撃のシャドープレイ...などを、額から大粒の汗が出るほどやった。これが闘志をかきたて、気持ちを和らげ、試合での集中力、決断力、勇気となって自分の納得のいくプレイとなった。このときは、いつもの2~3倍程のシャドープレイをしたが、一度負けた相手とやるときはそのぐらいのウォーミングアップ量はどうしても必要である、と私は思う。
効く戦法をどしどし使っていけ
さて、いよいよ試合。一度負けた相手と対戦するのはやはりイヤなもので、いくらリラックスするように自分に言い聞かせても固くなりやすい。しかし、試合前に考えた心、技、体、智(戦法、決断)を勇気を持って思い切りやるしかない。
ところが、ここで一つ注意しなければならないことがある。
慎重な相手や研究熱心な相手の場合だと、一度勝ったことで慢心せず研究して違った戦法でくる場合がある。
たとえば、こちらがドライブでのバック攻めの作戦でいこうとしていても、相手も「前の試合でバック側にドライブで攻められたときにミスが出た。おそらくまたバックに攻めてくるだろう。それでは今度はそれを待って逆にゆさぶって攻めこんでやろう」という作戦をとってきたりする。
このように、相手も研究してくるので最初に戦ったときに効いた作戦が全然効かない場合がある。
したがって、試合前に考えた戦法を最後まで固守しようとするのは絶対に禁物である。そのようなときには、効くと思われるコースにいろいろな変化サービスを出してみて、そのときに効いたサービスや効いたレシーブ効いた攻撃をしっかりと頭に入れ、それらを相手に読まれないようにうまく組み合わせて積極的に攻めていくことが大切である。
それが「試合の前にはしっかりと作戦を立てる。しかし、試合に臨んでは立てた作戦を白紙に戻すことが大事である。また、試合前に作戦を立てるときには一つの作戦だけでなく二つ以上の作戦を立てることが大切である」といわれるゆえんである。
たとえば、ドライブマンがショートマンとやる場合、フォアに離してからバックを攻めるのが定石だが、バックを攻めてからフォアを攻める作戦やドライブオンリーになってドライブが効かなくなった場合は、境目のボールを思い切ってスマッシュで狙っていって相手のタイミングを狂わすとかする。また、ときどきカットを混ぜて相手の攻撃のタイミングを狂わす...などの作戦をも持って試合に臨み、第一の戦法が効かなかったときは第二、第三の戦法に切りかえていく...というように試合前に考えておくことだ。
守備型のカットマンがドライブマンとやる場合も、中、後陣で切ったカット、切らないカットを混ぜて粘るのが定石だが、これだけではカット打ちのうまい選手と当たった場合は苦しい。そこで、ときどき変化サービスからの3球目ドライブやスマッシュをしかけたり、ゆるくつないできたドライブを飛び込んで反撃して相手の意表をつき、カット打ちのリズム攪乱させる必要がある。また、ストップボールを読んで狙っていく...などの作戦をも持って試合に臨むとよい。
しかし当然のとこだが、いくらいい作戦を立ててもそれを試合で実行できる練習をしておかなければ勝てるものではない。作戦におぼれてかえって自滅する結果になったりしないよう、普段から自分の実力にあった作戦を考えつつ着実に努力していくことが大切である。
筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1979年9月号に掲載されたものです。