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「作戦あれこれ」第70回 異質ラバー作戦⑥ アンチカットマンと対戦した場合

 アンチカットマンの変化の見分け方と、アンチカットマンが攻撃型と対戦するときの基本的な戦術を2回にわたって述べたので、今回からは攻撃型の選手がアンチカットマンと対戦したとき、どのように戦ったらよいか述べよう。

 心構えが大切

 アンチカットマンと対戦したとき、もっとも大事なことは、技術、体力より心の持ち方、つまり心構えだ。そしてこのことは、アンチカットマンと対戦するすべてのタイプにいえる。「アンチ攻撃型と対戦した場合」のところでも少し述べたが、アンチカットマンと対戦したときに特に大切なことを述べてみよう。
●精神面
 ・常に強気で戦い絶対に変化をこわがらない
 ・勇猛心と自信をもち積極果敢にプレーする
 ・集中する
 ・冷静に行なう
 ・大きくリードしても絶対に油断をしない(終盤に競り合いになると、焦りから変化カットの判断に迷いが出るからだ)。したがって競り合っても焦らないことを頭に入れておく
●技術面
 ・変化を正確に見分ける
 ・一球一球しっかり動く
 ・ボールをからだにしっかり引きつける
 ・強打するときはしっかり踏み込み、振りは鋭くする
 ・ボールをしっかり見る
 ・打球したあと、素早い動きができるように足をこきざみに動かしながら待つ
 アンチカットマンが得意な選手も、弱い選手もこれらのことを自分の心に何度も言い聞かせ、まず精神面を充実させることがアンチカットマンに強くなる秘けつだ。私は、大会の前夜になると必ず試合の心構え20~30ヵ条を卓球ノートに心をこめて書いた。これが試合中大変役に立った。アンチカットマンに弱い選手はアンチカットマンと対戦したときに大事な注意点を、毎日のように自分の心に言い聞かせることが必要だ。

 対アンチカットマン用のシャドープレー

 しかし、精神面を充実させるには、試合前にもう一つしっかりやらなければならないことがある。それはシャドープレー中心のウォーミングアップを十分にやることだ。それもふつうのカットマンとやるときのウォーミングアップではなく、対アンチカットマン用のウォーミングアップでなければならない。なぜならば、両面同質のラバーと裏ソフトとアンチラバーの異質ラバーとでは作戦、プレー内容が大きく違い、そのためにシャドープレーもかわる。また、ウォーミングアップを十分すると精神面が充実して「アンチカットマンに対してやれる」という強い自信がわいてくる。
 アンチカットマンと対戦した場合、次の9つのウォーミングアップが必要だ。
 ①カットをドライブや軽打で粘る素振り
 ②カットをドライブや軽打からスマッシュする素振り
 ③ツッツキやストップの素振り
 ④ドライブをスマッシュで打ち返す素振りと、ショートで返す素振り
 ⑤両サイドとミドルに短い変化サービスと深い変化サービスを出されたと想定して、ボールをしっかり見て返すレシーブの素振り
 ⑥レシーブに鋭い変化をつけられたと想定して、サービスから3球目攻撃の素振り
 ⑦アンチカットと裏ソフトのカットを混ぜられたと想定して前後に動くシャドープレーと、ランダムにくることを想定したシャドープレー
 ⑧壁にカットボールを当て、返ってくるボールのマークを見る訓練
 ⑨ロビング打ちの素振り
...などだ。これらを10~20回と回数を決めて、試合と同じ気持ちで2~3セットやる。とくにトーナメントの初戦でアンチカットマンとぶつかった場合は、からだも気持ちも固くなっているので、やりすぎるぐらいやったほうがよい。「備えあれば憂いなし」ということわざがあるが、試合前にからだも心もウォーミングアップを十分にやれば、試合で大切な気力、粘り、集中力などが高まり、最後までいいプレーができることが多い。

 ラケットを反転させないアンチカットには片側を前後にゆさぶる戦術

 では戦術を述べよう。アンチカットマンには大きく分けると4つのタイプがある。1つは「初心者に多いタイプでサービスのときはラケットを反転させて出すが、3球目からはラケットを反転させずラバーの特徴による変化だけで相手のミスを誘うタイプ」
 このようなタイプとやるときには「ワンサイドを前後にゆさぶる」とよい。このとき注意することは、ラバーの特徴による変化を間違わないようにすることだ。アンチ側を強いドライブやスマッシュで攻めたときは、カットが切れて返ってくる。が、軽打で打ち返したときは切れていない。ストップやツッツキボールをツッツキで返してきたときも、ほとんど切れていない。また、ボールが裏ソフトに比べて伸びてこない。このラバーによる変化をしっかりと頭の中に入れておかないと、変化にひっかかってミスしてしまう。裏ソフト側は、相手の手首の使い方とスイングの速さ、あるいは、ボールがラケットに当たる場所によって変化して返ってくる。したがって、それらをしっかり見て返球することが大事だ。
 もちろん、ワンサイドを攻めるといっても単調な攻め方では相手に軽く受け止められてしまうのでよくない。バック側を攻めるとしたら、①バックサイドを切るようなコースに攻めたり、バックミドルを狙ったりする。②浅いボールで2~3本つなぎ、相手を前に寄せておいてから次を強いボールで深く攻める。③ミドルを連続して攻める。④ドライブの回転に強弱をつける。⑤変化を頭にしっかり入れてドライブとストップで前後にゆさぶる。そして、バックサイドに連続して攻めて相手をバック側に釘づけにしておいてからフォアサイドのコーナーに強く攻めてミスを誘う。⑥長いラリーに持ち込んだ戦術のあとは、いきなり3球目攻撃をしかける。フォア側を攻めるときもまったく同じ...。このようにワンサイドを攻めるときでも攻撃に変化をつけることを忘れてはならない。

 サービスと台上のボールのときのみラケットを反転させる型には、ドライブ+スマッシュ

 アンチカットマンの中で2番目に多い「サービスと台上のボールのときのみラケットを反転させてわかりにくく変化をつけてミスを誘う。ドライブや軽打で攻められたときは、ラバーの特徴による変化でミスを誘うタイプ」と対戦した場合は、ドライブや軽打からスマッシュの戦術がのぞましい。
 ドライブや軽打でつなぐと、ラケットを反転させないでカットしてくるタイプはラリーに入ればアンチでカットしたか裏ソフトでカットしたかはっきり分かる。よく変化が分かる。反対にストップやツッツキを多くするとラケットを反転させられるので変化にひっかかりやすく、ミスが多く出て損だ。

 サービスはロングサービスを主体に使う

 このようなタイプと対戦したときにもっとも注意しなければならないのは、サービスとレシーブ。このタイプに弱い選手は、サービスのときショートサービスを主体に出し、ドライブロングサービスをあまり使わない。強い選手はドライブロングサービスを主体に使う。ドライブ性ロングサービスを出すとこのタイプの選手はラケットを反転させずにすぐにカットに入る。そのため、安心してカットに持ち込むことができる。そして、ときどきショートサービスを出して3球目を狙う攻め方がいい。
 とくに勝負どころでは、フォア前からの3球目攻撃が効く。なぜかというと前半のドライブロングサービスが効き、相手はドライブ性ロングサービスを警戒せざるを得なくなるため、フォア前への動きが悪くなるからだ。また、レシーブ後のもどりも遅くなる。

 レシーブは払え

 レシーブのときは、カットに追い込んだほうが有利であることから、できるだけ払ったり、ドライブや軽打で攻めることだ。ツッツキレシーブで返すとラケットを反転してツッツキに変化をつけられて、カットに追い込む前にミスが出やすい。
 したがって、相手がどちらの面で打球したかラバーの打球音、光沢をしっかり見ること。インパクトの瞬間のボールのマークの回転具合や、第1バウンドから打球するまでのボールの回転具合を集中して見ること。そして、強気でレシーブすることが大事だ。
 しかし、中にはいくらボールを見ても分からないサービスがある。そのときは、ミスをしないようにていねいにツッツキで返し、次のボールを狙うようにすることだ。ヤマカンで払ったのではミスすることが多い。払えるボールは払い、難しいボールは1本ツッツキでつなぐやり方のほうが勝つ確率が高い。

 変化カットを攻め返せ

 うまいカットマンと対戦すると、サービスのときだけでなく、ドライブ対カットのラリーになったときにも思い切り変化をつけたり、わかりにくいモーションで返して何とかツッツかせようとしてくる。こんなときにツッツいては相手の思うツボだ。負けずにドライブや軽打で攻め返したほうがよい。そのためにはドライブ対カットのラリーになったときも、変化がよく分かるように常に集中していることが大切だ。
 しかし集中して見ていても中には分かりにくい変化モーションカットもあり、変化が分からないときがある。そんなときはストップでなく、やはり1本ツッツキでつないで次を狙うのがよい。そして、そのつないだツッツキの飛び方でどのようなカットの種類かを見分けて覚えておき、同じカットがきたときは攻められるようにすることだ。そうしなければいつまでたっても変化モーションカットが攻略できない。
 このような方法で分かりにくい変化カットをドライブ攻撃できるようになれば、相手はエースカットを使えない焦りからカットが甘くなり、中盤から攻略できる。連続得点も可能だ。

 攻めやすいカットを変化攻撃で崩せ

 ドライブや軽打で攻める場合のコースのつき方は、基本的には攻めやすいカット側を攻撃に変化をつけて攻めるのが良い。フォアに攻めたりバックに攻めたりすると、ラバーによる変化にひっかかるおそれがあるからだ。
 しかし、「自分は変化を見分けられる」という選手は、左右に攻めてもストップを使ってもかまわない。あるいは、4~5本ドライブや軽打で攻めたあとはストップやツッツキを使ったほうが勝ちやすい選手は、ツッツキを混ぜてもいい。そんな選手は、サービスもショートサービスを使い、ストップも多く使う。そして、チャンスボールがきたら両サイドを狙わずに右肩口か左肩口を狙ってスマッシュする。なぜならば、カットマンは両サイドは強いが両肩口は弱いからだ。
 良いスマッシュを打つコツは、スマッシュの打球点までしっかり動くこと。右利きの選手は左足、左利きの選手は右足を打つ方向にしっかり踏み込むこと。ミートを鋭くすることなどに気をつけて打とう。
 中国の郭躍華、蔡振華など変化に強い選手は、サービスも投げ上げや異質のショートサービスを使い、ストップも多用してアンチカットマンを攻略している。基本的な戦い方を覚えた上で、こういった攻め方もできるように練習することだ。次回は3~4のタイプのアンチカットマン対策を述べよう。



筆者紹介 長谷川信彦
hase.jpg1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1981年12月号に掲載されたものです。
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