読者の皆さんの中に「カット打ちが大好きだ!」という人はどのくらいいるだろうか?
中学・高校の時の私のように「ドライブをかけるのが大好き。カットマンはもらった」という選手も何割かはいるかと思うが、おそらく大多数の選手は、練習相手のカットマンの数も少なく「試合でカットマンと当たったらいやだなー」と思っているのではないか!?
最近は、両面異色ルールとなり、一時多かった異質カットマンが減ったので、カットマンの数は減っている。当然カット打ちの練習量も減っているだろう。また、練習時間が少なかったり、速攻に重点をおいているため練習時間のほとんどをサービス+3球目練習やゲーム練習に費やすという人が増えているので、ますますカット打ちの練習量が減り苦手となる。
しかし、昨年の全日本選手権では高校生の渋谷選手が大活躍、同僚の松下浩選手も渋谷選手と肩を並べる強さに育った。女子でもジュニア2連勝の内山選手はじめ、富永選手ら、ラバーに頼らない攻撃力のあるオールラウンドなカット主戦選手が続々と育っている。表ソフト速攻型が増えれば、カット型が勝ちやすくなるのは自然な流れ。今後も、優秀なカット選手が続々と育ってくるに違いない。
そこで「作戦あれこれ」では、今までにも何回か「対カットマン作戦」をとりあげてきたが、今回から数回にわたり、最近のカット型の主流になってきた「攻撃+カット型作戦」を考えてみよう。
「相手はカットマンだ」と思ったらダメ
カット攻略の基本的な作戦としては、
①ロング(ドライブ)の粘り+スマッシュ
②ループ+強ドライブ+スマッシュ
③強打+ストップ+強打
④ツッツキ+スマッシュ
―等があげられるが「相手はカットマン。まず粘ってチャンスがあったら攻めよう」という古い作戦では現代のカットマン、特にインターハイ出場クラス以上の選手には勝てない。陳新華や渋谷選手を相手に「相手はカットマンだ」などと思ってプレーしたら、半分もポイントできないことだろう。
それではどうしたらよいか?
というと、それにはまず
①相手の3球目攻撃にどう備えるか?
②相手のレシーブをどう攻めるか?
③相手のラリー中の反撃にどう備えるか?
④相手のカットに対してどう攻めるか?
―を頭の中でまず整理しておかなくてはならない。
相手はオールラウンドプレーヤーだ
しかし、その前に「攻撃+カット型」選手と戦う時、まず大切なことがある。それは攻め方より何より「相手はオールラウンドプレーヤーだ!」と思って戦うことだ。
初心者や、中学校の地区大会レベルの試合であれば、「相手はカットマンだ。無理をしないで続けていこう。サービス+3球目やチャンスだけ打とう」というやり方が正しい。しかし、インターハイクラスになっても「相手はカットマンだ。打ってもミスしてくれるだろう」と思ってプレーしたのでは、甘いレシーブ、甘いストップが多くなり、小さい頃から攻撃練習をしているカットマンには狙い打ちされるだけだ。そなってからあわてても遅い。反撃は止められないし、あわてるとこちらに攻撃ミスが出てしまう。
相手はオールラウンドプレーヤーだ。甘いボールは打たれる。しかし、相手が3球目を回り込んで打とうとすれば、フォアへ払ったボールはノータッチで抜ける(相手がカットしようとしている時は抜けないボールだが)。相手がループを攻撃しようとしている時、強ドライブで攻めればカットが甘くなる。相手が以前よりそういった時でもよいプレーをするようになっているとはいえ、こちらが正しい対応をすれば、相手が守ろうとしている時より、こちらにチャンスが多くなる。それが、対オールラウンド作戦というものだ。それを理解してやれば、邪念がなくなり、カットマンに対してもよいレシーブやよい攻めができる。
レシーブ時の動きを早く
さて、それでは①の「相手の3球目攻撃にいかに備えるか」について具体的に考えてみよう。
相手はオールラウンドプレーヤーだ。それゆえ、当然相手は3球目攻撃を狙っている。まず第一に3球目ドライブかスマッシュ、次に変化ツッツキ、カットでの攻め...をだ。
それに対してどうしたらよいか?
まず、相手攻撃のパターンを読む。これが第一。回り込もうとしているならフォアへ払うか、ツッツく。ドライブで攻めようとしているならストップレシーブ。フォアで待っているなら、ミドル、バックへ逆モーションで流す...といったレシーブで攻撃を封じる。
この時、技術的に大切なのが「素早く動く」こと。相手はオールラウンドプレーヤーといっても、カットを打たされていると、対ロングの時よりどうしてもペースが遅くなり、動きもそれにつれて遅くなりがちになる。ラリー中も早く動くにこしたことはないが、レシーブの時は特に速攻選手が相手の時と同じように、最高の集中力、最高の速さで動かなくてはならない。そうでないとよいレシーブはできない。基本的には強気に、ドライブや払うレシーブ、逆モーションレシーブ、切ったり止めたりするツッツキでレシーブする。
そして、その中で、試合の流れやカットマンの心理を読む。相手がこちらに無理をさせ変化で得点しようと考えているなら、変化のつけにくい、こちらのミスの少ない、例えばナックル性のツッツキや軽打でレシーブし、確実にラリーに持ち込む作戦をとる。また、守備に自信のある選手や、相手があせったりして攻撃のコースが読める時、またはリードして相手の得意の攻撃をつぶしておきたい時などは、相手がバックからストレートに3球目ドライブするのが得意であれば、低くて長いレシーブをして相手に打たせ、コースを読んでクロスに返す。相手がやっと返してくるのをスマッシュで得点する...という作戦も使う。
これはややレベルが高い作戦だが、インターハイ出場クラスの選手であれば可能だろう。こういった作戦をとれれば、余裕がでて後の作戦がぐっと楽になる。
相手はレシーブからも攻めてくる
さて、②の「相手のレシーブをどう攻めるか」だが、それには「相手はレシーブからも攻めてくる」と予測していなくてはいけない。
それをせずに、単調なドライブロングサービスやカットサービスばかり出すと、高い打点で左右にカットの変化で攻められたり、レシーブドライブ、レシーブスマッシュを浴びてしまう。
相手はオールラウンドプレーヤー。対ロングマンと同じく、逆をつく厳しいサービスを出すことだ。そうすれば、いかに攻撃力のあるカットマンといえどもレシーブから攻撃的レシーブをするのは難しいから、カット系のレシーブが多くなる。そうなればチャンスだ。あわてず相手の動きをみて、思い切って3球目攻撃しよう。
要は、相手を甘く見ず、間合いの変化、体を使ったモーションの変化、回転の変化...等、全力でサービスすることだ。そうすれば、十分に攻められる。
さて、それでは、ラリーに入ったらどう攻めたらよいのだろうか?
それについて、次号で紹介したい。
中学・高校の時の私のように「ドライブをかけるのが大好き。カットマンはもらった」という選手も何割かはいるかと思うが、おそらく大多数の選手は、練習相手のカットマンの数も少なく「試合でカットマンと当たったらいやだなー」と思っているのではないか!?
最近は、両面異色ルールとなり、一時多かった異質カットマンが減ったので、カットマンの数は減っている。当然カット打ちの練習量も減っているだろう。また、練習時間が少なかったり、速攻に重点をおいているため練習時間のほとんどをサービス+3球目練習やゲーム練習に費やすという人が増えているので、ますますカット打ちの練習量が減り苦手となる。
しかし、昨年の全日本選手権では高校生の渋谷選手が大活躍、同僚の松下浩選手も渋谷選手と肩を並べる強さに育った。女子でもジュニア2連勝の内山選手はじめ、富永選手ら、ラバーに頼らない攻撃力のあるオールラウンドなカット主戦選手が続々と育っている。表ソフト速攻型が増えれば、カット型が勝ちやすくなるのは自然な流れ。今後も、優秀なカット選手が続々と育ってくるに違いない。
そこで「作戦あれこれ」では、今までにも何回か「対カットマン作戦」をとりあげてきたが、今回から数回にわたり、最近のカット型の主流になってきた「攻撃+カット型作戦」を考えてみよう。
「相手はカットマンだ」と思ったらダメ
カット攻略の基本的な作戦としては、
①ロング(ドライブ)の粘り+スマッシュ
②ループ+強ドライブ+スマッシュ
③強打+ストップ+強打
④ツッツキ+スマッシュ
―等があげられるが「相手はカットマン。まず粘ってチャンスがあったら攻めよう」という古い作戦では現代のカットマン、特にインターハイ出場クラス以上の選手には勝てない。陳新華や渋谷選手を相手に「相手はカットマンだ」などと思ってプレーしたら、半分もポイントできないことだろう。
それではどうしたらよいか?
というと、それにはまず
①相手の3球目攻撃にどう備えるか?
②相手のレシーブをどう攻めるか?
③相手のラリー中の反撃にどう備えるか?
④相手のカットに対してどう攻めるか?
―を頭の中でまず整理しておかなくてはならない。
相手はオールラウンドプレーヤーだ
しかし、その前に「攻撃+カット型」選手と戦う時、まず大切なことがある。それは攻め方より何より「相手はオールラウンドプレーヤーだ!」と思って戦うことだ。
初心者や、中学校の地区大会レベルの試合であれば、「相手はカットマンだ。無理をしないで続けていこう。サービス+3球目やチャンスだけ打とう」というやり方が正しい。しかし、インターハイクラスになっても「相手はカットマンだ。打ってもミスしてくれるだろう」と思ってプレーしたのでは、甘いレシーブ、甘いストップが多くなり、小さい頃から攻撃練習をしているカットマンには狙い打ちされるだけだ。そなってからあわてても遅い。反撃は止められないし、あわてるとこちらに攻撃ミスが出てしまう。
相手はオールラウンドプレーヤーだ。甘いボールは打たれる。しかし、相手が3球目を回り込んで打とうとすれば、フォアへ払ったボールはノータッチで抜ける(相手がカットしようとしている時は抜けないボールだが)。相手がループを攻撃しようとしている時、強ドライブで攻めればカットが甘くなる。相手が以前よりそういった時でもよいプレーをするようになっているとはいえ、こちらが正しい対応をすれば、相手が守ろうとしている時より、こちらにチャンスが多くなる。それが、対オールラウンド作戦というものだ。それを理解してやれば、邪念がなくなり、カットマンに対してもよいレシーブやよい攻めができる。
レシーブ時の動きを早く
さて、それでは①の「相手の3球目攻撃にいかに備えるか」について具体的に考えてみよう。
相手はオールラウンドプレーヤーだ。それゆえ、当然相手は3球目攻撃を狙っている。まず第一に3球目ドライブかスマッシュ、次に変化ツッツキ、カットでの攻め...をだ。
それに対してどうしたらよいか?
まず、相手攻撃のパターンを読む。これが第一。回り込もうとしているならフォアへ払うか、ツッツく。ドライブで攻めようとしているならストップレシーブ。フォアで待っているなら、ミドル、バックへ逆モーションで流す...といったレシーブで攻撃を封じる。
この時、技術的に大切なのが「素早く動く」こと。相手はオールラウンドプレーヤーといっても、カットを打たされていると、対ロングの時よりどうしてもペースが遅くなり、動きもそれにつれて遅くなりがちになる。ラリー中も早く動くにこしたことはないが、レシーブの時は特に速攻選手が相手の時と同じように、最高の集中力、最高の速さで動かなくてはならない。そうでないとよいレシーブはできない。基本的には強気に、ドライブや払うレシーブ、逆モーションレシーブ、切ったり止めたりするツッツキでレシーブする。
そして、その中で、試合の流れやカットマンの心理を読む。相手がこちらに無理をさせ変化で得点しようと考えているなら、変化のつけにくい、こちらのミスの少ない、例えばナックル性のツッツキや軽打でレシーブし、確実にラリーに持ち込む作戦をとる。また、守備に自信のある選手や、相手があせったりして攻撃のコースが読める時、またはリードして相手の得意の攻撃をつぶしておきたい時などは、相手がバックからストレートに3球目ドライブするのが得意であれば、低くて長いレシーブをして相手に打たせ、コースを読んでクロスに返す。相手がやっと返してくるのをスマッシュで得点する...という作戦も使う。
これはややレベルが高い作戦だが、インターハイ出場クラスの選手であれば可能だろう。こういった作戦をとれれば、余裕がでて後の作戦がぐっと楽になる。
相手はレシーブからも攻めてくる
さて、②の「相手のレシーブをどう攻めるか」だが、それには「相手はレシーブからも攻めてくる」と予測していなくてはいけない。
それをせずに、単調なドライブロングサービスやカットサービスばかり出すと、高い打点で左右にカットの変化で攻められたり、レシーブドライブ、レシーブスマッシュを浴びてしまう。
相手はオールラウンドプレーヤー。対ロングマンと同じく、逆をつく厳しいサービスを出すことだ。そうすれば、いかに攻撃力のあるカットマンといえどもレシーブから攻撃的レシーブをするのは難しいから、カット系のレシーブが多くなる。そうなればチャンスだ。あわてず相手の動きをみて、思い切って3球目攻撃しよう。
要は、相手を甘く見ず、間合いの変化、体を使ったモーションの変化、回転の変化...等、全力でサービスすることだ。そうすれば、十分に攻められる。
さて、それでは、ラリーに入ったらどう攻めたらよいのだろうか?
それについて、次号で紹介したい。
筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1986年5月号に掲載されたものです。