バック前、フォア前のレシーブに自信をつけたわれらがD君。バック前レシーブを回り込んで打つことも、フォア前レシーブをストップすることもうまくなった。苦手のレシーブを克服し、得意に変えることができたのである。
そのかいあって、D君はついに県予選を通過、夏の全国大会の代表となることができた。それというのも、フォア前、バック前のレシーブがうまくいかずに負けた後、「負けも良薬。次に同じ失敗をしなければ、その分、確実に強くなれる」と考えて努力した結果が実ったからである。
さて、念願かない、初の全国大会に出場したD君。その結果はどうだったのだろうか!?
D君、あっさり敗れる
晴れの全国大会に初出場したD君。ところが結果はさんざんなものであった。シングルスのみ出場のD君は、団体戦を観戦しながら、毎日練習をつんだ。そして、やっと出番が回ってきた大会3日目の朝一番の1回戦で、あっさり0-2で負けてしまったのである。
さすがにがっかりしたD君だったが「負けてしまったものはしかたない。次の全国大会でがんばろう」と持ち前の明るさで気をとりなおした。そして、信条である、"同じ失敗をくり返さない"ために、敗因をじっくり分析してみた。
切れたサービスに手こずる
D君の負けた相手は、D君と同型の右ペンドライブ型・J君。どこにもいるようなタイプのドライブマンで、ドライブの威力ではむしろD君がまさっていた。
ところが、J君のサービスは実に良く切れていた。
フォア前、バック前のレシーブに自信のでてきたD君は、J君のバックハンド斜め下回転サービスを払って攻めようとしたが連続してネットミス。やむをえずストップレシーブで先手をとろうとしたが、猛烈に切れている斜め下回転の威力に負け、ストップが大きくなるところをJ君に3球目ドライブ攻撃されてしまったのだった。
J君のドライブの威力はさほどでもないが、やや緊張ぎみのD君は、固くなったため払うレシーブが思うようにきまらず、J君のドライブに対してもリズムを合わせることができなかった。ようやくJ君のバックサービスに慣れてきた後半では、J君に、やはり猛烈に切れたフォアハンドの下回転サービスを出され、打てずにツッツくレシーブを、ループで攻められた。ゆるいループを待ちきれずにショートミス、あせって打つとオーバーミス...を繰り返し、あっけなく敗れたのであった。
ドライブ処理が敗因
ほかにも色々、反省すべき点はあったが、この試合で最も大きな敗因は、最近レシーブで先手のとれるようになったD君が、相手のサービスが良かった(それと少し固くなった)ため先手がとれなかった点と、ドライブの処理が未熟だった点にある。
考えてみれば、レシーブで先手をとることに頭がいきすぎたD君は、ドライブをかけられた時の処理をほとんど練習していなかった。これでは、本大会でうまく処理できなかったのは当然だったのである。
「いくらレシーブがうまくなっても、初対面のサービスのうまい選手に、レシーブから先手をとり続けることは難しい」。そう悟ったD君は、さっそくドライブ処理の練習を次の大会までに強化しようと決意した。
さて、D君はどんな練習をしたらよいのだろうか?
ドライブ処理の基本練習
まず大切なのは、何といってもドライブ処理の練習を多くすることである。
練習の方法としては、相手にショートサービスを出してもらい、それをバックに普通にツッツく。そのボールを思いきってバックにドライブしてもらい、それをショートでフォアへしのぐ。これが基本中の基本。まずこの練習を十二分にやることである。
次に、相手の3球目ドライブをフォアへかけてもらい低いフォアショートでフォアクロスにしのぐ。これも大切な基本である。相手のドライブが速ければ右足一歩動でパッと合わせ、ループぎみのドライブであれば右足、左足を送って順足で構え、スマッシュもできる姿勢から低いドライブはポンと合わせ打ちする。
バック、フォアができるようになったらミドルにかけてもらう。基本は順足になるように動いて、フォアハンドの合わせ打ちで処理する。
そして、待てばどのコースも自信をもって返せるようになったらオールにかけてもらう。ループに対しては全面フォアハンドで、速いドライブでミドルを攻められた場合は、ショートでも処理できるようにしておく。
自信をもってフォアへしのげるようになったら、次は同様のやり方でバックへしのぐ練習をする。自然にしのぐ時はフォア、そして相手がヤマをはっている時はバックへも返せるようにすることが目的である。
フォアからドライブさせる
さて次は、フォアからドライブをかけてもらってしのぐ練習をする。
実戦では「バックへつなげばツッツいてくるケースもあるが、フォアだと間違いなくドライブされるのでいやだ」という心理から、バックへばかりツッツく選手が多い。しかし、これは損。選手の多くはバック側からドライブをかける練習を多くやっているため、バック側からのドライブにはミスが少ない。
その点、フォアサイドからのドライブは意外とミスが多い。しかも、バック側からのドライブは左足を踏み込んで体重をのせ、威力のあるドライブを打つが、フォア側からは大きく腕をふり回すだけで正しく体重移動できない選手が多い。そのため低く深く、切ってツッツけば、斜め後ろに下がりながら、ループぎみのドライブになりやすい。慣れてさえいれば、たやすくしのげるドライブである。
このフォアへ切ってツッツくレシーブは、左ききの選手との対戦ではいっそう有効で、フォアからクロスにドライブをかけさせ、ショートでゆさぶってラリーに持ち込む作戦を多くの一流選手が採用している。
練習の順序はバック側からかけさせてしのいだ方法と同じ。相手のフォアから、バック、フォア、ミドルにドライブしてもらい、初めは待ってバックへしのぐ。次にランダムにかけてもらう。そして、それができるようになったらフォアへもしのげるように同様の順を追って練習する。
このフォアからかけられたドライブを、相手の動きを見てフォアへしのげるようになると、バックへもどろうとする相手の動きの逆をとることができるようになる。
ドライブ処理のコツ
さて、以上の練習を十二分にやれば、練習の中で色々なことが分かってくるはずだ。その練習場のチェックポイントをいくつかあげてみよう。
まず、ツッツキ。浅いツッツキ、高いツッツキ、切らないツッツキ、ゆっくりしたツッツキは、相手に決定打的な速いドライブで攻められやすい。練習をつめば、速いドライブをカウンターで逆にしのいでノータッチをとることもできるようになるが、やはり不利。試合で相手のドライブをループぎみの遅いドライブにするためには早い打点で、スピードのある、しっかり切った、低くて深いツッツキをすればよい。相手がJ君のような良いサービスを出しても、早い打点で低くて深いツッツキをするように心がける。
またそのためには、1バウンドで台から出るような変化サービスは、レシーブドライブで攻めなくてはいけない。長いサービスはできるかぎりツッツかないことだ。逆をつかれた場合は低く、切ってツッツく。
相手のループは、時間的に余裕があるのだから、動いてフォアで処理する。「相手がループなら動いて攻める」と心がけておく。基本はタイミング速く、パンと合わせ打つことだが、レシーブで良いツッツキがいった場合はスマッシュ、強打、強ドライブで狙い打つプレーもできるようにする。
また、ループをショートする場合は、待ちきれずに体から肘が離れてラケット角度が上を向き、オーバーミスするケースが多い。肘を体から離さず、浅いループに対しては右足を前に踏み込んでバウンド直後をとらえる。力を抜いて、横回転を入れる、またはラケットを引くようにしてショートすると低く殺して返球しやすい。
ひとつひとつのドライブ処理を徹底してやったD君はドライブに対し体が自然に反応するようになってきた。こうなればしめたものである。「ドライブは平気。ドライブさせてラリーにもち込んでやろう」という心のゆとりがでれば、ずいぶん作戦のたてかたも楽になる。
なんだか次の試合は勝ちそうな気がするD君である。
そのかいあって、D君はついに県予選を通過、夏の全国大会の代表となることができた。それというのも、フォア前、バック前のレシーブがうまくいかずに負けた後、「負けも良薬。次に同じ失敗をしなければ、その分、確実に強くなれる」と考えて努力した結果が実ったからである。
さて、念願かない、初の全国大会に出場したD君。その結果はどうだったのだろうか!?
D君、あっさり敗れる
晴れの全国大会に初出場したD君。ところが結果はさんざんなものであった。シングルスのみ出場のD君は、団体戦を観戦しながら、毎日練習をつんだ。そして、やっと出番が回ってきた大会3日目の朝一番の1回戦で、あっさり0-2で負けてしまったのである。
さすがにがっかりしたD君だったが「負けてしまったものはしかたない。次の全国大会でがんばろう」と持ち前の明るさで気をとりなおした。そして、信条である、"同じ失敗をくり返さない"ために、敗因をじっくり分析してみた。
切れたサービスに手こずる
D君の負けた相手は、D君と同型の右ペンドライブ型・J君。どこにもいるようなタイプのドライブマンで、ドライブの威力ではむしろD君がまさっていた。
ところが、J君のサービスは実に良く切れていた。
フォア前、バック前のレシーブに自信のでてきたD君は、J君のバックハンド斜め下回転サービスを払って攻めようとしたが連続してネットミス。やむをえずストップレシーブで先手をとろうとしたが、猛烈に切れている斜め下回転の威力に負け、ストップが大きくなるところをJ君に3球目ドライブ攻撃されてしまったのだった。
J君のドライブの威力はさほどでもないが、やや緊張ぎみのD君は、固くなったため払うレシーブが思うようにきまらず、J君のドライブに対してもリズムを合わせることができなかった。ようやくJ君のバックサービスに慣れてきた後半では、J君に、やはり猛烈に切れたフォアハンドの下回転サービスを出され、打てずにツッツくレシーブを、ループで攻められた。ゆるいループを待ちきれずにショートミス、あせって打つとオーバーミス...を繰り返し、あっけなく敗れたのであった。
ドライブ処理が敗因
ほかにも色々、反省すべき点はあったが、この試合で最も大きな敗因は、最近レシーブで先手のとれるようになったD君が、相手のサービスが良かった(それと少し固くなった)ため先手がとれなかった点と、ドライブの処理が未熟だった点にある。
考えてみれば、レシーブで先手をとることに頭がいきすぎたD君は、ドライブをかけられた時の処理をほとんど練習していなかった。これでは、本大会でうまく処理できなかったのは当然だったのである。
「いくらレシーブがうまくなっても、初対面のサービスのうまい選手に、レシーブから先手をとり続けることは難しい」。そう悟ったD君は、さっそくドライブ処理の練習を次の大会までに強化しようと決意した。
さて、D君はどんな練習をしたらよいのだろうか?
ドライブ処理の基本練習
まず大切なのは、何といってもドライブ処理の練習を多くすることである。
練習の方法としては、相手にショートサービスを出してもらい、それをバックに普通にツッツく。そのボールを思いきってバックにドライブしてもらい、それをショートでフォアへしのぐ。これが基本中の基本。まずこの練習を十二分にやることである。
次に、相手の3球目ドライブをフォアへかけてもらい低いフォアショートでフォアクロスにしのぐ。これも大切な基本である。相手のドライブが速ければ右足一歩動でパッと合わせ、ループぎみのドライブであれば右足、左足を送って順足で構え、スマッシュもできる姿勢から低いドライブはポンと合わせ打ちする。
バック、フォアができるようになったらミドルにかけてもらう。基本は順足になるように動いて、フォアハンドの合わせ打ちで処理する。
そして、待てばどのコースも自信をもって返せるようになったらオールにかけてもらう。ループに対しては全面フォアハンドで、速いドライブでミドルを攻められた場合は、ショートでも処理できるようにしておく。
自信をもってフォアへしのげるようになったら、次は同様のやり方でバックへしのぐ練習をする。自然にしのぐ時はフォア、そして相手がヤマをはっている時はバックへも返せるようにすることが目的である。
フォアからドライブさせる
さて次は、フォアからドライブをかけてもらってしのぐ練習をする。
実戦では「バックへつなげばツッツいてくるケースもあるが、フォアだと間違いなくドライブされるのでいやだ」という心理から、バックへばかりツッツく選手が多い。しかし、これは損。選手の多くはバック側からドライブをかける練習を多くやっているため、バック側からのドライブにはミスが少ない。
その点、フォアサイドからのドライブは意外とミスが多い。しかも、バック側からのドライブは左足を踏み込んで体重をのせ、威力のあるドライブを打つが、フォア側からは大きく腕をふり回すだけで正しく体重移動できない選手が多い。そのため低く深く、切ってツッツけば、斜め後ろに下がりながら、ループぎみのドライブになりやすい。慣れてさえいれば、たやすくしのげるドライブである。
このフォアへ切ってツッツくレシーブは、左ききの選手との対戦ではいっそう有効で、フォアからクロスにドライブをかけさせ、ショートでゆさぶってラリーに持ち込む作戦を多くの一流選手が採用している。
練習の順序はバック側からかけさせてしのいだ方法と同じ。相手のフォアから、バック、フォア、ミドルにドライブしてもらい、初めは待ってバックへしのぐ。次にランダムにかけてもらう。そして、それができるようになったらフォアへもしのげるように同様の順を追って練習する。
このフォアからかけられたドライブを、相手の動きを見てフォアへしのげるようになると、バックへもどろうとする相手の動きの逆をとることができるようになる。
ドライブ処理のコツ
さて、以上の練習を十二分にやれば、練習の中で色々なことが分かってくるはずだ。その練習場のチェックポイントをいくつかあげてみよう。
まず、ツッツキ。浅いツッツキ、高いツッツキ、切らないツッツキ、ゆっくりしたツッツキは、相手に決定打的な速いドライブで攻められやすい。練習をつめば、速いドライブをカウンターで逆にしのいでノータッチをとることもできるようになるが、やはり不利。試合で相手のドライブをループぎみの遅いドライブにするためには早い打点で、スピードのある、しっかり切った、低くて深いツッツキをすればよい。相手がJ君のような良いサービスを出しても、早い打点で低くて深いツッツキをするように心がける。
またそのためには、1バウンドで台から出るような変化サービスは、レシーブドライブで攻めなくてはいけない。長いサービスはできるかぎりツッツかないことだ。逆をつかれた場合は低く、切ってツッツく。
相手のループは、時間的に余裕があるのだから、動いてフォアで処理する。「相手がループなら動いて攻める」と心がけておく。基本はタイミング速く、パンと合わせ打つことだが、レシーブで良いツッツキがいった場合はスマッシュ、強打、強ドライブで狙い打つプレーもできるようにする。
また、ループをショートする場合は、待ちきれずに体から肘が離れてラケット角度が上を向き、オーバーミスするケースが多い。肘を体から離さず、浅いループに対しては右足を前に踏み込んでバウンド直後をとらえる。力を抜いて、横回転を入れる、またはラケットを引くようにしてショートすると低く殺して返球しやすい。
ひとつひとつのドライブ処理を徹底してやったD君はドライブに対し体が自然に反応するようになってきた。こうなればしめたものである。「ドライブは平気。ドライブさせてラリーにもち込んでやろう」という心のゆとりがでれば、ずいぶん作戦のたてかたも楽になる。
なんだか次の試合は勝ちそうな気がするD君である。
筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1987年9月号に掲載されたものです。