市民大会でベテラン選手と対戦した高校2年のH君。「ベテランとやるなんて、なんかやだなー。でも、まあ負けることはないだろう」
と、試合前にちょっと油断したのがたたって、コテンパンにやっつけられた。7本、12本の惨敗である。
「あんなやりづらい選手はいないや!」
ガックリきたH君。得意のドライブで攻めようとしたが、ベテランNさんにストレート、ストレートと攻められた。フォアで打とうとするとバックをつぶされ、回り込もうとするとフォアを抜かれる...といった展開で、全く試合にならなかった。
負けた後、しばらくボーッとしていたH君。だが、「ウーン、ストレート攻撃ってあんなに効くのか。次の試合では自分で使ってやろう」
と、パッとひらめいた。さすが研究熱心な選手である。
大切なストレート攻撃
試合で勝つためにはストレートへ上手に打てることが絶対に必要である。強い選手、試合巧者ほどストレートコースの使い方がうまい。
反対に、いくら練習してもなかなか試合で好成績をあげられない選手は、いつもコースどりがきまっている。クロスにボールがあつまる。そのため、試合の後半になると相手に待たれ、いい試合はしても勝てない。相手の読みをはずすストレート攻撃の大切さがよくわかっていないのである。
では、どのような時ストレート攻撃をつかうのか?
どんな練習をすれば使えるようになるのか?
H君といっしょに考えてみよう。
押されたらストレートに
まず、実戦で非常に良く効くストレート攻撃の使い方をいくつか紹介しよう。こういった使い方ができると、グンと試合に強くなることは間違いない。
その第一の使い方は「相手が強いボールで攻めてきた時、ストレートに威力のあるボールを返す」ことである。
例えば相手のフォア前サービスをバックへレシーブした。相手が3球目をハーフボレ―、プッシュでクロスに攻めてきた時に、ストレートへプッシュで返すのである。
相手としては、「クロスに押した。次はクロス、またはミドル付近に甘いボールがくる」と読んで、フォアで回ろうと考える。その時に、フォアへプッシュされるのだから返すのが精一杯となる。
このパターンは、レシーブからの4球目だけでなく、プッシュ対プッシュのラリーから相手が回り込もうとした時や、回り込んでバッククロスにドライブ攻撃してきた時にもよく効く。ただし、レベルの高い技術であるから、十二分な練習が必要である。
また、フォア前サービスを予想していたところ、相手に逆モーションでバック深くサービスを出された、などという時は、軽打やショートでストレートに返すとよい。相手は「逆をとった。甘いチャンスボールがバックへくる」と読むため、軽打でも決定球を打たれずらい。もちろん強打であればノータッチが可能である。
相手の読みをはずす
バック側から相手がストレートにプッシュ、ハーフボレ―、ドライブでストレートに攻めてきた時も、相手はフォアクロスのボールを待ちやすい。
この時に、フォアストレートに強ドライブできると、相手はしのぐのがやっと。次球を狙い打ちできる。
また相手がフォアストレートに強ドライブ、強打で攻めてきた時、普通はバック側へ大きくゆさぶるが、相手が「中陣強ドライブで押した」と読んで次球をバックへ回り込もうとしたり、速攻選手がフォアストレートの強打の後にバック強打で狙っている時などは、ストレートにプッシュぎみのショートで押し返すと逆転できる。
このように「相手が強いボールで攻めてきた時、ストレートに威力あるボールを返す」ことを意識して練習すると、一味違う選手になれる。
競ったらストレート
次に効果的なのは、競っている時にストレート攻撃を多用することである。
試合で競り合いになると、攻撃選手は「先手をとりたい。自分から積極的に(フォアで)攻めていこう」という心理になりがちである。
こういう時に、3球目、4球目で、ズバッとストレート攻撃すると一発で決まりやすい。
競ったらストレートボールを多用すること。また、試合後半の競り合い以外でも、相手が攻めようとしている時には、ストレート攻撃を使おう。
チャンスボールに対し使う
試合の山場でチャンスボールが上がった時、鉄則は相手の苦手なコースに思いきって打つことである。
苦手なコースというと、ほとんどの選手が距離の短いストレートコース。そのため、第3の使い方としては、「試合山場でのチャンスボールはストレートに打つ」ことである。
ただしそのためには、試合の前半やリードしている時のチャンスボールはクロスへ全力スマッシュで抜いておき、相手の意識をクロスにもっていくようにしておく。
また相手が、ミドルやフォアに弱点のある場合などは状況においてそのコースをつぶす。
相手が強いと、クロスへ打ったボールは威力があってもまず返ってくる。くれぐれも山場で単調なクロス攻撃をしてチャンスをふいにしないように。
ためてから使う
ストレート攻撃を効果的に使う4番目のコツは、強ドライブで攻める時は、グッとバックスイングを引き、ボールを一瞬ためて(ひきつけて)ドライブ攻撃することである。
どのコースにでも打てる、この「ため」があると、相手はこの一瞬の間に、ついクロスを待つ。そこでストレート攻撃が効く。
せっかくストレートコースに攻めながら「どうも相手に待たれて効かない」と感じている選手は、この「ため」がないことが多い。いかにもストレートへ打つような体勢で打ったのでは相手に待たれて当然である。
チャンスボールの時は、しっかりためてストレートに打つ。レベルが上がってきたら、ためた上に、逆モーションを使ってストレートに打つ。さらに、速いラリーの中でそういった動作ができるように練習しよう。
基本練習
さて、試合でこういったストレート攻撃をするためにはどんな練習が必要か考えてみよう。
まず、基本練習である。
この基本練習には幾通りかの段階がある。
単にストレートにロングで続けるのは誰でもできる。しかし、この時に実戦を想定し、足の構え、両サイドへ打てるバックスイング...等を意識し、実戦でもそのまま打てるように注意しているかどうかが問題である。
試合と全く違った足の構えで練習しているのでは、練習のための練習であり実戦に役立たない。オールや切り替えの練習の時はもちろん、ワンサイドの練習の時も、試合と同じ気持ちで足を動かし、サイドライン付近を狙って打つように心がけよう。
ロングで続ける練習の次は、強ドライブ、強打で連続攻撃する基本練習である。
強ドライブで攻める練習の時は、1本目からいきなり全力ドライブし、相手にショートでストレートにしのいでもらう。1本目で決まらなければ2本目、2本目で決まらなければ3本目...というように、ストレートに全力ドライブする練習をする。
実戦的な練習
その次は実戦を想定した練習である。
筆者がよくやったのは
①フォア前サービスをバックへツッツいてもらい、回り込んでバックストレートに3球目強ドライブ
②フォア前サービスをクロスに払ってもらい、フォアストレートに3球目強ドライブ
③バックへスピードロングサービスを出し、バックへショートしてくるのをバックストレートに強ドライブ
④同じくフォアへショートしてくるのをフォアストレートに3球目強ドライブ
⑤両サイドへロングサービスを出してもらって、ストレートへ強ドライブし、レシーブで抜く練習
⑥2バウンドで出るかでないかの長さのカットサービスを、ストレートにレシーブ強ドライブする練習
...などである。
この時、注意するのは、クロスに比べストレートは約38㎝台の長さが短いこと。従って、クロスに打つ時よりもオーバーミスが出やすいので、ドライブならば回転をしっかりかけ、ラケット角度をやや抑えぎみにすること。他の技術の時もオーバーミスに注意しよう。
実戦でスムーズにストレート攻撃できるようになるためには、基本練習、ゲーム練習の時に意識してストレート攻撃を使うよう心がけることが大切。「疲れてきてからの練習が本当の練習」の心がまえで、毎日の練習に取り組もう。
と、試合前にちょっと油断したのがたたって、コテンパンにやっつけられた。7本、12本の惨敗である。
「あんなやりづらい選手はいないや!」
ガックリきたH君。得意のドライブで攻めようとしたが、ベテランNさんにストレート、ストレートと攻められた。フォアで打とうとするとバックをつぶされ、回り込もうとするとフォアを抜かれる...といった展開で、全く試合にならなかった。
負けた後、しばらくボーッとしていたH君。だが、「ウーン、ストレート攻撃ってあんなに効くのか。次の試合では自分で使ってやろう」
と、パッとひらめいた。さすが研究熱心な選手である。
大切なストレート攻撃
試合で勝つためにはストレートへ上手に打てることが絶対に必要である。強い選手、試合巧者ほどストレートコースの使い方がうまい。
反対に、いくら練習してもなかなか試合で好成績をあげられない選手は、いつもコースどりがきまっている。クロスにボールがあつまる。そのため、試合の後半になると相手に待たれ、いい試合はしても勝てない。相手の読みをはずすストレート攻撃の大切さがよくわかっていないのである。
では、どのような時ストレート攻撃をつかうのか?
どんな練習をすれば使えるようになるのか?
H君といっしょに考えてみよう。
押されたらストレートに
まず、実戦で非常に良く効くストレート攻撃の使い方をいくつか紹介しよう。こういった使い方ができると、グンと試合に強くなることは間違いない。
その第一の使い方は「相手が強いボールで攻めてきた時、ストレートに威力のあるボールを返す」ことである。
例えば相手のフォア前サービスをバックへレシーブした。相手が3球目をハーフボレ―、プッシュでクロスに攻めてきた時に、ストレートへプッシュで返すのである。
相手としては、「クロスに押した。次はクロス、またはミドル付近に甘いボールがくる」と読んで、フォアで回ろうと考える。その時に、フォアへプッシュされるのだから返すのが精一杯となる。
このパターンは、レシーブからの4球目だけでなく、プッシュ対プッシュのラリーから相手が回り込もうとした時や、回り込んでバッククロスにドライブ攻撃してきた時にもよく効く。ただし、レベルの高い技術であるから、十二分な練習が必要である。
また、フォア前サービスを予想していたところ、相手に逆モーションでバック深くサービスを出された、などという時は、軽打やショートでストレートに返すとよい。相手は「逆をとった。甘いチャンスボールがバックへくる」と読むため、軽打でも決定球を打たれずらい。もちろん強打であればノータッチが可能である。
相手の読みをはずす
バック側から相手がストレートにプッシュ、ハーフボレ―、ドライブでストレートに攻めてきた時も、相手はフォアクロスのボールを待ちやすい。
この時に、フォアストレートに強ドライブできると、相手はしのぐのがやっと。次球を狙い打ちできる。
また相手がフォアストレートに強ドライブ、強打で攻めてきた時、普通はバック側へ大きくゆさぶるが、相手が「中陣強ドライブで押した」と読んで次球をバックへ回り込もうとしたり、速攻選手がフォアストレートの強打の後にバック強打で狙っている時などは、ストレートにプッシュぎみのショートで押し返すと逆転できる。
このように「相手が強いボールで攻めてきた時、ストレートに威力あるボールを返す」ことを意識して練習すると、一味違う選手になれる。
競ったらストレート
次に効果的なのは、競っている時にストレート攻撃を多用することである。
試合で競り合いになると、攻撃選手は「先手をとりたい。自分から積極的に(フォアで)攻めていこう」という心理になりがちである。
こういう時に、3球目、4球目で、ズバッとストレート攻撃すると一発で決まりやすい。
競ったらストレートボールを多用すること。また、試合後半の競り合い以外でも、相手が攻めようとしている時には、ストレート攻撃を使おう。
チャンスボールに対し使う
試合の山場でチャンスボールが上がった時、鉄則は相手の苦手なコースに思いきって打つことである。
苦手なコースというと、ほとんどの選手が距離の短いストレートコース。そのため、第3の使い方としては、「試合山場でのチャンスボールはストレートに打つ」ことである。
ただしそのためには、試合の前半やリードしている時のチャンスボールはクロスへ全力スマッシュで抜いておき、相手の意識をクロスにもっていくようにしておく。
また相手が、ミドルやフォアに弱点のある場合などは状況においてそのコースをつぶす。
相手が強いと、クロスへ打ったボールは威力があってもまず返ってくる。くれぐれも山場で単調なクロス攻撃をしてチャンスをふいにしないように。
ためてから使う
ストレート攻撃を効果的に使う4番目のコツは、強ドライブで攻める時は、グッとバックスイングを引き、ボールを一瞬ためて(ひきつけて)ドライブ攻撃することである。
どのコースにでも打てる、この「ため」があると、相手はこの一瞬の間に、ついクロスを待つ。そこでストレート攻撃が効く。
せっかくストレートコースに攻めながら「どうも相手に待たれて効かない」と感じている選手は、この「ため」がないことが多い。いかにもストレートへ打つような体勢で打ったのでは相手に待たれて当然である。
チャンスボールの時は、しっかりためてストレートに打つ。レベルが上がってきたら、ためた上に、逆モーションを使ってストレートに打つ。さらに、速いラリーの中でそういった動作ができるように練習しよう。
基本練習
さて、試合でこういったストレート攻撃をするためにはどんな練習が必要か考えてみよう。
まず、基本練習である。
この基本練習には幾通りかの段階がある。
単にストレートにロングで続けるのは誰でもできる。しかし、この時に実戦を想定し、足の構え、両サイドへ打てるバックスイング...等を意識し、実戦でもそのまま打てるように注意しているかどうかが問題である。
試合と全く違った足の構えで練習しているのでは、練習のための練習であり実戦に役立たない。オールや切り替えの練習の時はもちろん、ワンサイドの練習の時も、試合と同じ気持ちで足を動かし、サイドライン付近を狙って打つように心がけよう。
ロングで続ける練習の次は、強ドライブ、強打で連続攻撃する基本練習である。
強ドライブで攻める練習の時は、1本目からいきなり全力ドライブし、相手にショートでストレートにしのいでもらう。1本目で決まらなければ2本目、2本目で決まらなければ3本目...というように、ストレートに全力ドライブする練習をする。
実戦的な練習
その次は実戦を想定した練習である。
筆者がよくやったのは
①フォア前サービスをバックへツッツいてもらい、回り込んでバックストレートに3球目強ドライブ
②フォア前サービスをクロスに払ってもらい、フォアストレートに3球目強ドライブ
③バックへスピードロングサービスを出し、バックへショートしてくるのをバックストレートに強ドライブ
④同じくフォアへショートしてくるのをフォアストレートに3球目強ドライブ
⑤両サイドへロングサービスを出してもらって、ストレートへ強ドライブし、レシーブで抜く練習
⑥2バウンドで出るかでないかの長さのカットサービスを、ストレートにレシーブ強ドライブする練習
...などである。
この時、注意するのは、クロスに比べストレートは約38㎝台の長さが短いこと。従って、クロスに打つ時よりもオーバーミスが出やすいので、ドライブならば回転をしっかりかけ、ラケット角度をやや抑えぎみにすること。他の技術の時もオーバーミスに注意しよう。
実戦でスムーズにストレート攻撃できるようになるためには、基本練習、ゲーム練習の時に意識してストレート攻撃を使うよう心がけることが大切。「疲れてきてからの練習が本当の練習」の心がまえで、毎日の練習に取り組もう。
筆者紹介 長谷川信彦
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
1947年3月5日-2005年11月7日
1965年に史上最年少の18歳9カ月で全日本選手権大会男子シングルス優勝。1967年世界選手権ストックホルム大会では初出場で3冠(男子団体・男子 シングルス・混合ダブルス)に輝いた。男子団体に3回連続優勝。伊藤繁雄、河野満とともに1960~70年代の日本の黄金時代を支えた。
運動能力が決して優れていたわけではなかった長谷川は、そのコンプレックスをバネに想像を絶する猛練習を行って世界一になった「努力の天才」である。
人差し指がバック面の中央付近にくる「1本差し」と呼ばれる独特のグリップから放つ"ジェットドライブ"や、ロビングからのカウンターバックハンドスマッシュなど、絵に描いたようなスーパープレーで観衆を魅了した。
本稿は卓球レポート1988年7月号に掲載されたものです。