兄(明雄)が卓球を始めるまでは、卓球一家というわけでありませんでした。ただ、父が若いときに陸上競技やテニスをやっていた関係から、スポーツに理解があったことは事実です。兄(明雄)が中学に入るとき、家で卓球台を買い、庭へ出して、天気の良い日だけですが始めました。自分もいつしか御飯よりも好きになり、小学校の授業が終わるや否や、飛んで帰って、友達や農協の事務員の人達と暗くなるまでやっておりました。やがて、電燈をつけて夜までやることも、しばしばでした。
◇卓球一家に育って
末っ子で甘やかされ、泣虫で育った自分には、負けず嫌いという点で、当時は兄に劣っていました。が、中学時代に駅伝その他ランニングをすることによって、“苦しい、チクショウあいつに負けてたまるか”と思い死に物狂いで走りました。いま思うと、負けず嫌いから徐々に脱皮し、根性がでてきたと思われる時代です。
家庭の環境には恵まれておりましたが、練習相手という点で(特に高校時代に聖書学園高校から成田高校に転校するまで)恵まれているとは思いませんでした。しかしこのときの卓球に対する意欲はものすごく、暇さえあれば兄のいる専大や日暮里の卓球場、中目黒卓球場などへ成田の田舎から出かけていったものです。相手が相手だけに練習方法も真剣に考え、ハンデをつけての試合、ワンサイドだけでの試合などをしたりしていました。だから<練習相手に恵まれない>と悩んでいる人は、考えればいくらでも良い練習方法はあるはずです。悩んでばかりいないで考えましょう。
父母の卓球に対する理解はだんだん深まり、父も40を越してから“2つの鼻の穴では足りん”とフーフー言いながら現在も卓球をやっております。父と兄3人姉2人が曲がりなりにも卓球をしていたという環境が、いまの僕を支えているのかも知れません。
◇表ソフトに転向
高校1年(昭和34年)の夏、兄に言われて表ソフトに転向した(それまでは一枚ラバー)。理由は兄が一枚ラバーで成し得なかったことを僕に試したいと言っていたこととループを取るのに裏ソフトより表ソフトの方が容易なことなどです。当時ループがはやり、誰も彼もループをかけることばかり考え、かけられた場合のことを考えていなかったように思えたからです。だから自分は、ループをかけることももちろんできるが、しかしそれ以上にループをうまく取れるようになろうと思いました。
しかし現実はきびしく、なかなかうまく取れず迷いました。特にカット打ちだけが表ソフトで通している現在の唯一の悩みでもあり、課題であると思っています。表ソフトの特徴を生かしたカット打ちについてよく言われますが、元来不器用な自分は角度打法によるカット打ちを研究せねばならんのですが、うまくいきません。裏ソフトの真似をして、引っかけすぎ、みずから墓穴を掘って敗れた試合が少なくありません。
◇基礎練習ではフットワークを主体に
自分の場合、一応部の方針としてレギュラー全員の合同練習が毎日おこなわれていますので、それに参加します。大体、毎日午前10時から12時まで、午後1時半から5時までがふつうの練習時間です。しかし、正味ボールを打っている時間は、1日平均3~4時間前後です。
練習方法は試合が近くなると、ゲーム練習7基礎練習3ぐらいの割合ですが、試合が遠いときは基礎練習7応用練習(ゲーム練習含む)3ぐらいの割合です。基礎練習はフットワーク練習がその大半を占めます。応用練習では自分の長所、短所を考えた練習―俗にいう自由研究練習が主で、その他サービス、レシーブ、3球目、4球目などの練習をします。
自分の好きな練習は、相手の1カ所に返しショートで全面(オールサイズ)に動かしてもらうオールサイズ練習です。なるべくオールフォアで動くようにしておりますが、やむを得ない場合バックハンドを使います。
◇19対19でも使えるバックハンドを
現在、最も力を入れて練習していることは、実戦に使えるようなバックハンド(応用性のある)とカット攻撃です。バックハンドでは、まず第1に相手の速い攻め(特に3球目攻撃)に耐えうるバックサイドの守り、すなわちバックハンドの会得(えとく)ということです。耐えるといっても、ただ守るだけでなく、スキあらば余裕あらば、打ち返し、自分の主戦(フォアハンド攻撃)にもっていけるようになりたい。すなわち両ハンドの連係が無意識のうちにできるように、19-19のようなピンチにもバックハンドを振れるように練習を心がけています。昨年の暮から練習した甲斐(かい)あってか、過日の東京選手権では意外に意識せず振れたことで(特に瀬川さんとの試合)“練習すれば大丈夫”という自信と希望がもてました。なんでも新しい一つの技術を実戦に使えるようになるには、半年ぐらいかかるといわれているので、自分ももっともっと自然に振れるように努力するつもりです。
カット攻撃においては、第1に“相手を無意識のうちに台に寄せる。そしてスマッシュで得点する”すなわちドライブをもって長短の攻撃(ストップを使わず)をするのが理想です。しかし現状はほど遠く、まず“変化をみて何本でも粘れる”という練習からくる自信によって粘り負けしない精神力を身につけたいと思っています。
このほかにも、一発必中のスマッシュとストップなどやりたいこと、身につけたいことはたくさんありますが一度にたくさんのことを覚えようとすると、何一つ覚えられなくなりますので、段階を踏んでいろいろな技術を身につけたく考えています。
◇苦しめ!苦しめ!と自分に言い聞かせながら…
トレーニングでは、ランニングが8~9割を占めています。このほか、腕立てふせ(30回平均)、腹筋運動(30回平均)、柔軟体操をやっております。ときどき、サーキット・トレーニングをまぜたり、ラケットの素振り、フットワーク練習などをやります。
トレーニングのときに特に強く感じることは、<人に勝つより自分に勝つ精神、心構えが大切だということです。苦しい!きつい!と思うことも、すべて自分のため、人のためにやるんではないということを頭に入れ、楽(らく)をして強くなった者はいない。強くなるためには人並(ひとなみ)以上に苦しまねば駄目だ、苦しめ!苦しめ!>と自分に言い聞かせてやっております。いや、そのつもりです。
しかし、なかなか心技体の心と体のはり合いがうまくいかず(やる気のあるときに体が疲れているとか、体が全然バテていないのにやる気がなかったり、というふうに)常に毎日が心、体が一致するように努めているつもりでも、なかなか…です。人間誰でも、心技体が一致したら、すばらしい力を発揮するでしょう。少しでもそれに近づこうと夢だけは大きくもっています。
◇練習場の悩み
ほとんどが、決められた時間内での合同練習であるため、つい惰性に走った練習になる自分である。生活に変化をもたせたり、練習内容に変化をもたせたりしてやっているつもりですが、なかなかむずかしい。休養日なしの練習が5日、6日続くと惰性気味になってしまうのです。このような悩みは僕だけではないと思います。
よく、昔の人は徹夜で練習したとか、1日中練習したとか聞きますが、はたして休養や息抜きがなかったのでしょうか。もちろん、卓球の場合は反復練習による反射神経すなわちカンの訓練が最も必要なものだと考えますが、朝から晩まで毎日があの小さなボールの卓球のことばかり考えていては、必ず神経に疲れがでて、まいってしまうと思うのです。精神を集中した真剣味のある練習が一番効果が上がると思うのです。
休養、息抜きということは、一流選手の考えることで修業の身である自分らには必要なしといわれるかも知れませんが、県および諸団体のコーチ、監督などはどのように考えていらっしゃるのでしょうか?毎日の練習が、常に意欲のある新しい気持ちで練習できる精神状態にもっていくことが上に立つ人に必要だと思うのです。
理屈っぽく、生意気に勝手なことを述べましたが、以上が練習における悩みでもあり、練習!練習!という指導者(コーチ、先輩、監督など)の人達に質問したいことでもあります。
今後とも、自己満足することなく、意欲を燃やして練習にはげみ、<自分はいつも追う身でやっているんだ。ぶつかっていくんだ>という気持ちをもち、思いきったプレーをしたいと考えています。
のひら たかお
表ソフト、速攻型の歯切れのよい攻撃選手。千葉県成田高出、専修大3年、19歳。昭和38年度全日本硬式第4位、東京選手権単2位・複1位・混合複2位。有名な卓球一家で、兄の明雄氏は元世界選手権代表、父の吉衛氏は昭和37年度全日本硬式オープン(55歳以上)優勝者。
(1964年5月号掲載)
[卓球レポートアーカイブ]
わたしの練習⑭野平孝雄 バックハンドとカット打ちに重点
2015.11.11
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