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わたしの練習㊺長谷川信彦 肩の痛みをこらえ、練習練習で勝ちとった世界チャンピオンの座

 今大会をふりかえってみて、よかっと思うことは、8年間卓球をやってきて得た技術・体力・精神すべてを出しきることができて、終始思いきったプレーができたことである。

 ◇動いて動いて動きまくる

 昭和40年に全日本選手権で初優勝したときのような気持ちでやった。世界選手権には、ぼくは初参加だし、外国選手は何回も参加している人が多い。ぼくからみれば、みんな先輩。だから、だれとやっても、追う気持ちで、思いきってやろうと心がけた。ドライブでも、思いきって引いた。動いて動いて、動きまくった。10日間の大会中にあきらめたボールが一つもない。転んでもいいから、どんなボールでも追いかけるようにした。木村監督に「死にもの狂いでやれ。8年間卓球をやってきたものを全部ブチまけろ。勝負にこだわらず、思いきりやれ」といわれ、そのとおりやった。
 この1年間は、苦しかった。去年2月にソ連・欧州へ遠征したころから、肩をこわし、医者へ通いつづけた。肩がいたくて、バックハンドが振れないときもあった。「そのグリップでは、台上の小さなボールをバックで打てない。変えたらどうか」と、忠告も受けた。(しかし変えなかった)8月の中国遠征では、さんざん負けて、一時は中国式のペンホルダーに変えて、トレーナー(練習相手)にでもなろうかな?と思ったことさえある。
 いま考えてみると、中国遠征は大きなプラスとなった。中国遠征での敗因は、一つは中国が強く、中国の攻め方がうまかったこと。もう一つは、ものすごく疲れたこと。疲れた原因を考えてみると、暑いせいもあって、ものすごくジュースを飲んだのがいけなかった。一試合終わって3本飲んだこともある。疲れのために実力を出さずに負ける。こんなつまらないことはない。この教訓を生かして、今大会では試合後にジュースを飲まないようにした。水を口に少しふくむ程度。そして、食事のときにスープなどで水分を補給するようにした。これが、疲れずによく動けた原因と思う。
 この1年間の練習は、1週間に7日。1日も練習を休まない。1日の平均練習量は5~6時間。試合が近づくと、7~8時間やる。やはり、卓球はからだでおぼえなくては強くならない。「こう打てば、いい」と頭で理解しただけでは、ダメである。練習を多くやったものが勝ちだと思う。卓球選手でありながら、練習のきらいな人、練習をサボる人―そういう人は尊敬できない。

 ◇毎晩10時まで練習

 ふだんの1日の生活は、だいたい次のようなものである。もちろん、練習量にしろ、練習内容にしろ、その日によって多少ちがうので、必ずしも次のとおりにはならない。日によっては、あるテーマを納得のゆくまで時間をかけて練習することもある。
 愛知工大での一日の生活は…。
 1.起床6時45分
 2.朝のトレーニング
  ランニング…約1キロ
  ダッシュ……30メートルを5~7往復
  うさぎとび…50メートルを2~3往復
  腹筋運動……100回
 時間があれば、ときどきサッカーなどをやる。腕立てふせは、肩をこわしてから、やらない。
 3.授業
 4.練習3時30分~10時
 食事と休けいで1時間半抜けるので、正味の練習量は5時間ぐらい。
 練習内容は、自分の主戦武器であるドライブを生かすように考えている。この1年間は、フォア・バックの切りかえを多くやった。どうしても、バックやミドルを攻められることが多いので…。この“切りかえ”をたくさんやったことが今大会で役立った。小さいボールの処理も相当やったが、今大会で使いこなすまでには至らなかった。
 練習内容としては、フォアハンドロングの基礎をしっかりやる。
 ①フォアクロス、バッククロスの打ち合いを両方合わせて40分
 ②ショート打ち(15分)
 ③フットワーク。相手にショートをしてもらって、全面にまわしてもらう。バテるまで約30分。前半は全部フォアでまわる。後半は両ハンドを使ってのフットワーク。実戦ではミドルを多く攻められるので、ミドルにきたボールをフォアでまわる練習を特に多くやる。
 ④フォア、バックの切りかえ(15分)
 ⑤サービスと3球目練習
 ⑥レシーブ(40~60分)
 フォア側の小さいサービスに対するレシーブを重点的にやる。バックへきたサービスに対しても、なるべくフォアでまわって打ち、4球目で先手をとる練習。
 ⑦ゲーム(試合練習)
 相手の実力に応じて、ハンデをつけてゲームをやる。
 バックハンドロングは、①のバッククロスの打合いのときにフォアで打ったり、バックで打ったりしているし、②のショート打ちでも、半分はバックハンドで打つ。また、バックハンドロングが不調のときは、フォア(相手)対バック(自分)でゲームをやる。1~2年生とは、これで勝ったり負けたりのいい勝負である。
 5.夜のトレーニング(20~30分)
  ダッシュ
  ウエイト・トレーニング
   ・30キロのバーベルを10×3回を1セットに、1日おきにやる
   ・鉄アレイを使って手首の強化
   ・エキスパンダー腕力強化
 6.就寝11時30分
 家は同じ名古屋市内にあるが、めったに帰らない。往復の時間がもったいないから。遊ぶヒマもないし、遊びたいという気もない。時間があるときは、本を読んだり横になって休養するようにしている。時たま映画を見に行くぐらいなもの。お金は、たべることに使う。学校の食事でたりない分を補給するようにしている。

 ◇今後は3球目スマッシュも

 ドライブでポイントをあげるのが自分の卓球のやり方であるが、これだけだと、どうしても長いラリー(打球のやりとり)でしかポイントができない傾向がある。今後は、もちろんドライブを生かすことが主体になるけれども、これに合わせて3球目スマッシュ、レシーブスマッシュなども取り入れていきたいと思う。1セットに4~5本、こういうポイントがあれば、試合運びも、だいぶらくになるし、プレーに幅が出てくると思う。
 もう一つは、カット打ちのストップ。シェラー(西独)と団体、個人で対戦したが、団体戦のときは浮いた球をスマッシュしたら、待たれてしまった。そこで個人戦のときは、浮いた球がきても、なんでもかんでもスマッシュをしないで、ドライブをかけたり、スマッシュしたり、ストップをまぜたりしたら、よかった。しかし、ストップはへたなので、高いストップで、恥ずかしかった。今後は、小さくて低いストップを使えるように練習したい。

 ◇ミュンヘンめざして

 最後に、今大会で優勝できたのはうれしいけど、中国が不参加なので、シンから喜べない。これからが大変。追われる立場に立たされた、などと考えずに、自分はもっと高い目標を追いけるんだ、という気持ちで新人のつもりで、さらに精進したいと思う。ミュンヘンめざして。

はせがわ のぶひこ 世界選手権男子団体、単、混合複に優勝。20歳。
裏ソフト、シェークのドライブ型攻撃選手。ラバーラケット合わせて180グラム、身長164センチ、体重59.5キロ 愛知工業大主将 好物はギョウザ。「大会期間中は、よく眠れなかった。ヨーロッパではユーゴのコルパがいいと思った。北朝鮮との団体決勝が一番苦しかった。ソ連は強いが、練習中に歌をうたったり、ベチャクチャしゃべったりして精神状態がよくないので、ソ連には勝てると思った」という。


(1967年6月号掲載)

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